第48話 ブレンダからのお礼

 数日後、ダレルさんに野菜の納品をしていたら、テッドと一緒にブレンダが私を訪ねて来た。

 言いたいけれど言い出せない感じでもじもじしているブレンダが可愛いです。勇気を出してって応援したくなっちゃう。


「リーンちゃんにお礼をって思っていたのに、遅くなってごめんなさい。私の為に色々言ってくれてありがとう。お父さんとも話が出来たよ」


「いいってことよ。ブレンダの視野は広がった?」


「うーん、まだわからないけれど、でも変わりたいと思っている」


「今はそれで充分だよ」

 ブレンダが晴れやかな笑顔を見せた。本当に今はそれで充分だと思う。


「私ね、クズって言われる人がどういう人かをちゃんと知っていたの。だからお父さんがクズって言われる人だと知っていて、ずっと見て見ぬふりをしてた。お母さんが急に出て行って落ち込むお父さんを、私まで見捨てちゃ駄目だって、そう思って」

 じわーっとブレンダの目に涙が盛り上がっていく。


「ショックを受けたのも落ち込んだのも、ブレンダも一緒でしょ?」


「……っ、そう、そうなの。弟妹たちの世話をしなきゃいけないから、がむしゃらになって考えることを放棄したんだと思うの」


「それは普通五歳児がすることじゃないし、父親がすることでしょうよ」


「うん、そうだね」

 ブレンダはにっこりと笑った。


「それでね、私は当時の記憶がそこまでないんだけど、でもその時から考えることをやめちゃったんだと思うの。だからテッドのお母さんやおじさん、テッドにも悪いことをしたなって思うの」


「そこまで自己分析ができるようになったなら、ブレンダは変われると思うよ」


「そう、かな。そうだといいな……」


 ブレンダはいつまでもうじうじしている自分に、私が愛想を尽かしたのではないかと思って気にしていたらしい。

 テッドからまだ私がブレンダの為に動いていることを知り、あの現場に加わりたいとこっそりテッドに頼んだそうだ。テッド、喋り過ぎだよ。


 自分で父親の真意を確かめたかったのもあるが、直接聞く勇気はまだ持てなかった。いい機会だと思ったし、後は私に謝りたかったみたい。

 それで緊張して私の所に来たのに、私があまりにも以前と変わらない態度だったので驚いたそう。


 驚いている間に話は進むし、その後の話とかもろもろで心の整理に時間がかかって、お礼を言うのが遅れてしまったと説明された。

 今までより、ブレンダに自分の意志を感じる。クレアさんとの交流も再開したと言うし、改善傾向だね。


「これ、テッドのお母さんにお願いして手伝ってもらいながら作ったお米のケーキ。皆で一緒に食べて?」

 ブラッドさんには維持隊で会えたから、私とお兄ちゃん、ジョンさんの分だと言われた。律儀。


「お米でケーキ? どんなの?」

 聞いたことが無い。


「私はこれしか知らないから何とも言えないけれど、砂糖は使って無いからドライフルーツの甘みだけで……普通のケーキとは違うと思う」


「ふーん? 初めて食べるよ。ブレンダとテッドはこの後予定は?」

 二人は顔を見合わせてお互いの予定を確認し、今日の予定は無いと言った。


「宿においでよ。お兄ちゃんは仕事でいないけど、今ならジョンさんもいるし」


 私の空間がどういうものかは知られない方がいいのだが、二人なら信頼できるしそろそろいいかなと思った。


「すげぇ!」

「凄い!」

 二人共キラキラしていて悪い感じはしない。胸を張っておこう。


「おや、お客さんかい?」

 畑に立派なロッキングチェアを出して寛いでいたジョンさん。優雅だな。ここは別荘か? いや、畑だわ。


「ブレンダがジョンさんにもお礼がしたいって言うから連れて来た。二人共、紅茶でいいかな?」


「こっ、紅茶!」

 二人はハーブティーしか飲んだことが無かった。


「ストレートも美味しいけど、牛乳を入れるのも美味しいよ」

 二人がジョンさんにお礼を言っている間に準備をする。


 初めはストレートで、二杯目は牛乳を入れるのを勧めてみた。二杯も飲めるのかと二人が興奮気味。気持ちはわかるが落ち着け。

 お米のケーキはパウンドケーキで、一本丸々だったので、四人分を切り分けてお皿にのせる。四人でテーブルにつくが、ブレンダは私のキッチンをキラキラした目で見て、テッドは後ろが気になって仕方が無いみたい。


「二人とも、後でじっくり見たらいいよ」

 お米のケーキはなんかもっちりしっとりで食感が面白かった。これでもうちょっと甘みがあればなぁ。とはいえ美味しく頂いた。


 食後は私がブレンダにキッチンを見せ、当たり前の様にジョンさんがテッドに畑の案内をした。

 その最中に今日の夕飯の為にリポップ設定をしていた豚を見たテッドが悲鳴を上げていたけれど、概ね楽しく過ごして頂いた。


「私の空間がこうなっているのは秘密だからね」

 送り出す時に言うと、二人とも神妙な顔で頷いてくれた。


「テッドくんは……リーンちゃんが恐ろしいモンスターを生み出していると思ったみたいだな……」


「豚肉だけどね!」

 さて、本日のメニューとんかつの為に豚をサクッとお肉にしよう。


「まぁ、あの子が元気そうで良かったよ」

 ジョンさんが嬉しそうに言うので、ブレンダを連れて来て良かったと思う。


 お兄ちゃんの帰宅後、ブレンダからの伝言を伝えて、揚げたてのとんかつを頂いた。

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