第47話 ブレンダの父親

 今日はブレンダのお父さんとジョンさんをさり気なく会わせる日。心配したテッドも付いて来た。

 もうギフトを授かるまで一ヶ月を切っているのに、ブレンダはまだ相手を知らされていない。


 ブレンダはしばらくそっとしておいて欲しいと言っていたそうだが、テッド経由弟妹情報によると、自分の父親をじっくり観察しているそう。

 弟妹の方が冷静に周囲を見ていて、父親やブレンダにバレない様に色々と動いているとテッドに聞いた。下の子の方が逞しいよね。


 ジョンさんは本音を引き出すために、手っ取り早く相手を怒らせると言う。

 ブレンダのお父さんが家から出て来た。物陰に隠れて様子を窺う。実際に覗くのは顔が割れていない私だけ。


「お前が娘を売り飛ばす父親か」

 開口一番、ジョンさんや……。


 後ろでテッドがビクっとした。通りすがりに因縁をつける輩みたいだもんね。


「なんだ、てめぇ」

 ブレンダのお父さんも負けていないな。輩対輩か。


「娘を売るんだろう? いくらで売ったんだ?」


 ブレンダの父親は短気なのか、一触即発の雰囲気に。テッドを慌てて遠ざけた。

 うっかり殴りかかったりしたら、あっさりジョンさんに返り討ちにされると思うのだ。近所の人とはいえ父親の威厳は大事。


 但し、本当にブレンダを売る気だったのなら、ボッコボコにして欲しい。遠ざかったので聞き取りにくいが、口論になっている様子。

 で、ぐぇっと聞こえた時に、事前に打ち合わせていた維持隊のブラッドさんが参戦。


「何をしているのですか!」

 これは打合せ通り。


 ブレンダの父親はジョンさんが連れて行かれると思ったのかもしれないが、貴族に暴力をふるおうとした方がギルティとされる。

 あっさりブラッドさんに連れて行かれた。その背中に向かってジョンさんが、浅はかなと言った気がする。遠くてよく聞こえない。


「三人共こちらに来なさい。何処か落ち着いて話せる場所はあるかね?」

 三人?


 テッドが私の顔を見て何か焦っている様子。挙動不審な目線を追うと、その先にはブレンダが。

 テッド、嘘は付けなくても黙ってはいられたね……。なんだか嬉しいよ。だがあの位置からだと返り討ちが丸見え。父親の威厳が……。


 ジョンさんは気が付いていたから、わかっていてそのまま返り討ちにしたのだろう。大した男じゃないぞってことかな?

 ブレンダが私に遠慮しながらもこちらに近付いて来た。


「ブレンダの家は?」

 普通に聞いてみる。


「……家に弟と妹がいるけど」

 私が普通過ぎてブレンダは驚いた感じかな? ジョンさんが首を横に振った。相応しくないって事ね。


「俺ん家でもいいなら……」

 ジョンさんはテッドの提案に乗った。


 テッドは母親に今日の事を伝えていたみたいで、あたしも聞くよ! と譲らなかった。

 テッドにはジョンさんは維持隊の協力者だと伝えている。さすがに貴族の偽商人で、維持隊の重鎮とは言えなかった。


「かなり、この子の個人的な話になるのだが」

 ジョンさんがブレンダを気遣いながら顎をすりすり。


「だったら尚更だよ! ブレンダは私の娘だ!」

 クレアさん、いい人やわぁ。


 ブレンダに決める権利があるとジョンさんが言い、ブレンダが全員の同席を認めた。


「さて、どこから話そうか」


 私から話を聞いた維持隊は、ブレンダの父親の身辺調査をした。そこで父親が飲み屋で母親がブレンダを引き取りたいと言って来たと話していたことが発覚。


「お母さん……」

 クレアさんがブレンダをギュッと抱き締める。もう親子だわ。お母さんはここにもいるよ。


「君の母親は今王都にいる。そして金に困っているそうだ。周囲にもうすぐ娘がギフトを授かるから、と話していた」


「それって……」

 テッド。


「養ってもらうつもりにしても、見習いの給料は安い。今も調査中ではあるが、あまりいい扱いをされないのは確実だろう」

 ブレンダが小刻みに震えている。怒りか、悲しみか。私にはわからない。


「だだ君の父親は単純に、都会に出て母親と暮らすのが君の幸せになると思っているようだ。相手の状況を調べもせずに、浅はかだとは思う」

 確かに。本人の意見を聞かないのも気に入らない。クズでも愛はあったのか? いや全然足りないね。五歳児に弟妹の世話を全部させるとかないわ。


「私は、選ぶのは君だと思っている。どういう扱いになろうと母親と暮らしたいのか。……勿論、売られない様に最初は見張りをつけるが、ずっとは無理だ。それとも一人で旅立つか」


「私……私は、父が母の写真を隠してしまったので、母の顔もはっきり思い出せません」


「急いで結論を出す必要はない。今父親も、似た説明を治安維持隊で聞いている。二日はあちらで留めおく。その間にゆっくり考えなさい。ご婦人、後は任せてもいいかな?」


「え、ええ。勿論です!」

 ご婦人呼びは無いよ、ジョンさん。育ちがいいのがバレバレ。


「じゃあ帰ろうか、リーンちゃん」


「はい」

 ジョンさんとテッドの家を出た。


 家族のように育ったテッドやクレアさんと、ブレンダが色々話せたらいいなと思う。勿論父親とも。

 ブレンダは変わろうとしているのだと思う、とテッドが言っていたのでそれを信じている。


「今日の夕食はなんだい?」


「美味しいベーコンが買えたから、野菜たっぷりミネストローネ」


「そうか。楽しみだな」

 ジョンさんはいつも穏やかだけれど、この仕事は精神的にキツそうだなと改めて思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る