第46話 ブレンダ

「子どもたちに食材を確保させて家事全般もやらせておきながら、自分は仕事を選んで、大した稼ぎも無いのにお酒を買ったり飲みに行ったりする」


 ブレンダがちょっと泣きそうな顔になっているが続ける。そっとブレンダを抱き寄せたピュアボーイ、やるね!


「自分の服は仕事があるからって新調しているけれど、ブレンダや弟妹達の服はテッドのお母さんが用意してくれたものだよね? 酒代を諦めるか控えれば、十分古着が買える」


「どうして、知っているの……?」


 ブレンダは何か恐れている感じ?


「ブレンダの心配をしている人が沢山いて、私に色々聞いて来たり教えてくれたの。親が大事なのはわかるよ。ブレンダは馬鹿じゃない。自分が売られるかもしれない可能性についても考えていると私は思う」

 ブレンダの目に涙が盛り上がって来る。やっぱり一人で色々と抱え込んで悩んでいたな。


「ブレンダが売られれば父親にお金が入るから、弟妹が少しはまともな生活が出来ると思った? 私から見たブレンダの父親はクズだから、そのお金は弟妹には使われないと思うよ。むしろブレンダがいない分もっと酷い生活になりそう」

 ブレンダが私から視線を逸らして、何も言わないので続ける。


「父親に言われて会わなくなったテッドのお母さんが、また助けてくれると思っている? そんなに上手くいくかな? 他力本願だよね? 自己犠牲の精神は凄いとは思うよ。でも、ブレンダが思うような未来になると本気で思ってる?」


「そ、れは」

 ブレンダがついに泣いてしまった。テッドがそれを心配そうに見ている。


 テッドも私の話を止めなかったあたり、いつか誰かが言わなければいけないことだとは思っていたのかもしれない。

 ただ、ここでテッドがブレンダに避けられてしまうと、いよいよ助けられなくなるのもあって、言おうにも言えなかったのかもしれないなぁ。


「よく考えて、ブレンダ。自分を犠牲にして何が残るのか。父親を絶対的に信頼するのは私は良くないと思う。親だって間違える事はある。完璧な人なんていないよ。きちんと話すべき」

 ブレンダは俯いたまま静かに泣いている。涙も止まらなければ、自分の考えをまとめるのにも時間がかかりそう。


「テッド、後は任せた。お兄ちゃん、帰ろ」

 テッドが任せろって顔で頷いてくれたので、安心してその場を離れる。


「言ったねぇ」

 お兄ちゃんが苦笑いしている。


「お兄ちゃんが言えばいいのに、言わないから。時間も残り少ないし」


「まだそこまでの信用は得られていない感じだったから……」

 言い訳に感じてじとっと見たら、目を逸らされた。言い訳ですね。


「これでいい方向に向かうといいんだけれど」


「やっぱり最終的には親子の問題だし、本人次第だよね。テッドから連絡があるまで、接触は控えようか。父親に知られれば僕たちは確実に絶縁されそうだし」


「それ以前に私はブレンダから避けられる気がする」

 迷宮には他の人と潜るかな。しばらくは迷宮にお世話にならずに、ダレルさんから買ってもいいけれど。


「いや、困難な状況で頑張って来た子だよ。そこまで弱くはないと信じよう」

 何かお兄ちゃんがいい感じにまとめようとしてきた。まぁいいけど。こういうのって、言う方も精神的にキツイんだけどなぁ。


 ハドリーさんとジョンさんを引き合わせた事で、ブレンダの父親についても調査が進んだ。

 私、いい仕事をしたと思う。ハドリーさんのお陰で、探索者関係からの情報が拾えた。


 探索者が集まる酒場で、父親が話をしていたのを覚えていた人がいた。

 ブレンダの父親は探索者をとっくに引退したにも関わらず、探索者行きつけの酒場に通い続ける事で目立っていた。


 しかも酒場に来る探索者に絡んで、過去の栄光を語って聞かせるので面倒なおっさんの認識だったらしい。

 どうやら母親がブレンダを引き取ろうとしている事が判明。そしてジョンさんが母親について調べてくれた。


「ある程度の調査が終わった」

 いつもにこにこしながら食事をするジョンさんが、渋い顔をしている。これで大体結果の予想がつく。


「母親は浮気相手と逃げた後、半年も経たずに別れたようだ」

 その後何人かの将来有望な探索者をはしごするが結婚には至らず、今は王都の酒場で働いている。


「そこで男に騙されて、借金を抱えているようだ」

 何か転落人生の典型的なパターンにはまっている気がする。


「それでブレンダ?」


 重々しく頷くジョンさん。


「存在を思い出したようだな」

 忘れてたんかい。


 まぁ、それくらいの気持ちで置いていったのだろうし、それならもう思い出してもそのままにしておいて欲しかった。

 お金に困ってから連絡をするとか、確実に碌な話じゃない。


「ギフトを確認してから売り飛ばすつもり?」

 もしくは養ってもらうつもりか。


「今はそういう輩との接触は無いが、ギフトによっては考えるだろうな。王都の酒場なら、そういう出会いを簡単に求められる」

 国王のお膝元で人身売買が横行しているんですね。


「そっかー」


「父親が母親にどういうつもりで娘を渡すのか、調べる必要がある」


 父親と母親の間で、ブレンダの売買的な話があれば二人共逮捕。

 そうでないなら、危険はあっても維持隊が関わる話では無いとのこと。


 事前にテッドの両親に話しておかないと。ブレンダが無事に難を逃れたとしても、父親が逮捕となれば話が変わる。

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