第37話 逃げちゃ駄目だ
その後、僕は冬穂を無理やり起こし、夏穂に秋穂を預けて自分の部屋に戻ることにした。
その時に、「私達と一緒に住まない?」というとてもとてもとてもとて(以下略)魅力的な提案を受けたが、さすがに断った。
そうなると、寮の部屋にホコリがたまるかもしれない。
僕はきれい好きというわけではないが、それくらいは気にする。
それに―――
―――ヨシノちゃんたちにも会いたいし。
――――
そして、僕は寮の部屋に向かった。
最後にいた時は夏の始めだったが、今はもう冬も本番に差し掛かってくる頃だ。
ざっと数ヶ月はいなかったことになる。
時系列が向こうの世界と同じだった場合だが。
……まあ、頭の中に送られてきた情報がクロスワードパズルだった時は本当に驚いた。
そのせいで無駄な時間を浪費したのだ。
……あんのちんちくりんめ……次会った時は説教してやろう…
次があったらと話だが。
そんなこんなで部屋の前だ。
僕の手足は冷え切っているので、一刻も早く入りたいのは山々だが……それができないんだよなぁ…
―――――――
ここで一つ解説をしよう。
闇魔法は、名前からはイメージしにくいが、非常に汎用性が高い魔法だ。
例えば催眠魔法がある。
催眠と聞くと、人を操ったり、良からぬことをしたりと、非常に悪いイメージが付きがちだ。
しかし、催眠魔法は効果を続けるには少なくて済むとはいえずっと魔力を使う必要がある。
しかし、例えば緊張をほぐすために自分に使うというものなら自分の中で完結するのでそれほど魔力を使わない。
あと、夜目を効かせたりすることもできる。それも自分の中で自己完結する。
―――――――
このように、闇魔法の多くは使い方次第で非常に便利で汎用性が高いものとなるのだ。
見てくれは悪いが便利ということで、闇魔法をある程度使える人は多い。
だから……僕の部屋に闇の精霊をつけて守らせる者は特定しにくいのだ。
ちなみにどの属性にも精霊が存在し、闇魔法を一定以上使える者は使役することが出来る。
本当に誰がやったんだ……?
使役するのは術者一人につき、一体までしか出来ない。
その貴重な一体をわざわざ僕の部屋につけるような人がいるだろうか?
(どういうことだよ……精霊っていたらめっちゃくちゃ使い勝手が良いからこんなことに使う人なんて見たこと無いぞ…)
とりあえず寮から出てみる。
そしてもう一回入り、階段を登ろうとするが―――行きたくない。
(逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ)
某人型兵器に乗る決断をする前の主人公の気持ちが分かった気がした。
ちなみに僕なら逃げている。
だってそれに乗るの僕じゃなくてもいいじゃん?
多分募集かけたら何人か崇高な信念を持つ若者が集まると思うし。
この時の僕は、部屋のこと―――現実から逃げていた。
しかも、風がガンガン入る階段前のホールで。
後で指先の感覚が無いことに気づいたのは言うまでもないだろう。
―――――――――――――――――――――【裏話】
33話で春葵が秋穂に任せるのを渋った理由は、脳内クロスワードパズルがまだ解けてなかったからだったりします。
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