第34話 滅びの祝詞

「私が二人を止められる術を持ってるって言ったらどうするっすか?」

「……まじ?」


それが本当なら願ってもなかなかない話だ。

ワンチャンあるかな〜とは思ったけど。

ちなみに「ワンチャン」とは、元々は麻雀の用語らしい。一回のチャンスを掴んだら逆転できるっていう意味らしいが、実際その意味で使ってる人ってあんまりいない気がする。

……話を戻そう。

本当に秋穂が止められるとしたら、僕はどんなことでも協力するつもりだ。

しかし、秋穂の『幻の世界線《ファンタジア・ワールド》』は戦闘向きではない。

おそらくそれを使ってだろうが、それで止めるなんて到底想像つかなかった。

僕が迷っていると、急に凄まじい威圧感が僕を襲った。

冬穂と夏穂の二人が魔力を全解放したのだ。

もう時間はない。


「……兄貴、やめとくっすか?二人今相当やばいっすけど。」


たしかに今を逃せば、周りに多大な被害があるかもしれない。

もしかしたら、元の世界のヨシノちゃんたちにも影響があるかもしれない。


「…背に腹は代えられない。頼んで良いかな?」

「もちろんっすよ兄貴!……ただ、お願いがあるっす。」

「…やっぱり?」


まあここまでは予想していたことだ。

さあ願いを聞こうじゃないか。


「汝、願い、または願望を言いなさーい」

「…ふざけてるんすか?」

「ごめんなさい」


まさか僕の渾身のギャグがスベるとは思わなかった。

それはそうと。


「……で、何が望みなんだ?僕に出来る範囲なら基本なんでもするけど。」

「そんなの決まってるっすよ!……夏姉と同じことをしてほしいっす」

「え?」


まじ?

思考がついていかない。

秋穂のことだから、膝枕してほしいとか言うと思ってたけど、違ったらしい。

すると、秋穂がしびれを切らしたのか、顔を近づけてきた。


「失礼するっす」

「ちょまっ…」


秋穂は僕にキスをした。

夏穂と違って、触れるだけのキスだった。

それは一瞬のことで、秋穂はすぐに離れる。


「本当はもっとしていたいっすけど、今はそれどころじゃないっすからね。……さあ、報酬分は頑張るっすよ」

―――――

(秋穂side)


ファーストキスが兄貴だという喜びを噛み締めながら、私は二人に近づいた。

……キスは二人には見られていなかったはずだが、不思議と威圧感が増している気がしたのは気の所為だろうか。

さて、私がどう止めるか。

答えは簡単だ。

この世界を戻す―――つまり、元の世界線に戻せば良い。

私達が念入りな相談の上でこんな世界にしたわけだが、私が創った世界は脆い。

二人が本気で暴れればこの世界がぐちゃぐちゃに壊れてしまうだろう。

でも、それをきれいに壊せるのは私だけなのだ。

この世界を終わらせるために必要なのはたった一言だけだ。

しかし言おうとすると、脳裏にこの世界で再会した友人たち思い浮かぶ。

本当に大切な友人たちだった。

あくまで私に創られた世界の付属品であったとしても、大切だった。

制服姿の春葵も思い浮かんだ。

久しぶりに見た時は本当に泣きそうになった。

最高にかっこよくて、危うく襲ってしまいそうだった。

本当はずっと見ていたい。

できるなら永遠に共に在りたい。

元の世界に戻ったら、春葵は「西野春葵」ではなく、「シガン・シナク」になってしまう。

それでも、私は離れなくてはならない。


(ばいばい、みんな。そして兄貴―――春葵。)


私は大きく息を吸った。

そして―――


「『無に帰せリセット』」


それは、別れの言葉。

そして――








―――滅びの祝詞。





刹那、その世界は崩壊し、文字通り無に帰った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今話で二章は完結です!

これを読んでくださっている方、言いたいことあるでしょう?

わかってますよ。

――――ぶっちゃけ二章要らないでしょ?

途中から僕も気づきましたけど、夏穂が好きすぎて最後まで書き切りました。

あ、完結じゃないですよ?


もしかしたら、二章の方が一章よりもファンタジー感あった気がしますね。

気の所為じゃないと思います。



同じ世界での別の物語です。割と交差してますけど。

異世界旅路録〜異世界に飛ばされたけど勇者の仕事ほったらかして旅行しようと思います〜  https://kakuyomu.jp/works/16816927860790673926



では、次話から三章スタートします。多分。

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