第28話 幻の世界線
作業をしていると、不意に秋穂が来た。
夕食の準備が出来たらしい。
ひとまず僕は作業を切り上げて食卓へ向かうことにした。
「「「「いただきま〜す」」」」
皆で声を揃えて言う。
今日のメインはハンバーグらしい。
っていうかハンバーグと白米。そして申し訳なさ程度のトマトだ。
時間がなかったのだろうか。
とりあえずお腹が減った。
まずはハンバーグを一口……これは……
「…おいしい!」
「ほ、本当⁉」
夏穂が目をキラキラさせる。
おそらく夏穂が作ったのだろう。
可愛かったから頭を撫でる。
うん。サラサラだ。
きっと手入れを欠かしていないのだろう。
「えへへ…」
撫でていると夏穂が嬉しそうにはにかんだ。
…何この可愛い生き物。
流石は我が妹。
しばらく撫でていると、他の二人が物欲しそうな顔でこちらを見ていた。
やれやれ、仕方ないな。
夏穂から手を離して二人を撫で始めると、夏穂がシュンとなってしまった。
(あーもーしょうがないな!)
その後、ハンバーグを温め直す事になってしまったのは言うまでもない。
――――
夕食を終え、僕は部屋に戻った。
三人が物欲しそうにしていて後ろ髪を引かれたが、踏みとどまった。
とりあえず今日の分は明日に持ち越そう。
そうしたら……僕への気持ちが覚めることはないだろう。
それから自分の部屋をくまなく見た。
大きな違いはなさそうだ。
これなら僕の目的が達成できるだろう。
(それにしても…この世界はなんなんだ…?)
僕の元いた世界とほぼ同じ世界。
誤差程度の違いはあるものの、人物、建物、人の精神などのほぼ全て一緒である。
色々考えた結果、僕の中で一つの結論が出た。
「もしかして……パラレルワールド…なのか?」
パラレルワールド…並行世界(並行宇宙、並行時空)。四次元とかじゃなくて、一応同じ次元に存在する。簡単に言えば、「もしもボックス」を使った後の世界。
「う〜ん。さすが兄貴っすね。そういう所…好きっすよ?」
「え…?」
そこにいたのは―――
「秋穂…?」
「ん?私は秋穂っすけどどうかしたっすか?」
どうかしたって……
「秋穂…今どうやって部屋に入ってきた?」
いくら僕が気を抜いていたとはいえ、部屋に入ってくる秋穂に気づかないとは思えない。
それこそ元からいたとかじゃないと辻褄が合わない。
「どうやってって…普通にドアを開けて入ってきたっすよ?」
「いや、それだったら音がするから分かるはずだ!なのに僕は気づかなかった。おかしくないか?」
「音がする?……ああ、そういえばそうっすね。…兄貴、ちょっとドアを開けてみてもらってもいいっすか?」
僕は言われるがままに開けてみる。すると―――
「全く音がしない…⁉」
ドアノブを回しても、ドアを思いっきり閉めても、全く音がしないのだ。
「どういうことだ…?」
「兄貴、これが私の固有魔法―――『
「固有…魔法…⁉」
僕は秋穂が何を言ってるのか理解できなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
他作に影響されて、固有魔法に名前付けました。ダサいとか言わないでください。
固有魔法の紹介
説明:その世界を自分の都合の良いように変化させ、パラレルワールドを創り出すことのできる能力。物理法則さえも変えることができる。ただし、生き物の命に直接関わるように変化はさせられない(〜がいない世界・〜が自殺した世界など)。その気になれば、いつでも元の世界に戻せる。また、秋穂が意図しない限り、前の世界での記憶は消去される。
説明:自分の血を対象の体内に入れることで、対象の思考・記憶を自由に知ることが出来る。効果は一週間。ヨシノが念じ無い限り、対象の記憶や思考は分からないので、知りたくないことは頭に入ってこない。
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