閑話 冬穂

秋穂が目を闇に染めながら春葵の行動をメモし、夏穂が恍惚の笑みを浮かべながら料理を作っているとき、冬穂は自室にいた。

傍から見たら不審者の二人秋穂と夏穂と違い、冬穂はベッドでぬいぐるみを抱いて、柔らかな表情を浮かべていた。

頭をぬいぐるみにすりつけ、「ふふふ♪」という声も漏らしている。


こうして文字に起こしてみると、なんとも可愛らしい光景だ。

冬穂は三姉妹の中でも小柄で、二人に比べたら体つきも幼い。

ロリコンにはたまらない光景だろう。

―――抱いているぬいぐるみが普通であったなら。



冬穂は小さい頃から引っ込み思案

孤児院の院長である諏訪すらも怖がり、いつも夏穂の後ろに隠れていた。

ちなみにこの頃の夏穂は、警戒心が強すぎる秋穂と、引っ込み思案な冬穂に同時に盾にされていた。心労はすごかっただろう。

そして、そこに現れたのが―――春葵だった。


春葵はいとも簡単に冬穂の心の中に入ってきた。

冬穂は不思議だった。


「なぜこの人に対しては普通に話せるのか」と。


(実際は春葵が夏穂と協力して心を開かせたのだが)悩んだ結果、冬穂はこう結論づけた。


「西野春葵という人は、自分の運命の王子様なんだ。」


どこかで聞いたような台詞だが、冬穂はそう考えたのである。

一見、儚げで守ってあげたくなるような冬穂。

しかしその胸のうちには春葵しかいない。


冬穂にとっては秋穂も、夏穂も、どうでもいい存在である。

春葵だけがいてくれればいい。

例え、秋穂たちが春葵の近くにいてもいい。

春葵は自分の運命の人なんだから。

最後には自分の元へ帰ってくる。

自分だけの―――王子様なんだから。


「ふふふ♪お兄ちゃん♪いや―――」


そのぬいぐるみは、血で染まっていた。

―――おそらく春葵の血だろう。

どうやって染めたのか。それは冬穂のみ知ることだ。


「――春葵ぃ〜愛してる…」


もう彼女の眼中には春葵しかいない。

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