閑話 夏穂

その頃夏穂は料理を作っていた。

三姉妹の中で料理が上手いのは冬穂だが、今冬穂は、夏穂が作っているのである。

夏穂も料理は冬穂ほどではないが、できる。

ちなみに秋穂の得意料理はカップラーメンである。その時には某必ずあっという間にお湯が湧く電気ポットを使うのには触れないでおこう。


話を戻そう。

夏穂は曲者三姉妹の中ではまともなほうだ。

なので、姉妹のお姉ちゃん的存在である。

小さい頃から人知れず(主に兄関係の)二人の暴走を止めてきた。

彼女がいなかったら、春葵は某ホラーゲームの序盤に出てくる小鳥になっていたに違いない。


夏穂は薄々気づいていた。

一見、春葵はいつもどおり過ごしているように見えたが、春葵の挙動一つ一つに違和感があることを。

それらの景象を思い出しながら、夏穂は考えていた。


(一度兄さんに好きな下着の色を聞くのもいいかもしれない)


夏穂は春葵のことが大好きだ。兄としても異性としても。

夏穂の彼に向ける愛情の前ではそれらの違和感は単なる誤差に過ぎない。

春葵が春葵でいてくれれば、何も考える必要はないと考えている。

それ故に、春葵のことを考える時は、なぜかポンコツになってしまうのだ。

思考放棄していると言った方がいいかもしれない。


「ああ…兄さん……好きだよぉ〜」


いつしか料理を作る手が止まっていた。

夏穂の顔には恍惚の笑みが浮かんでいた。

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