第44話 邂逅

(ヨシノside)


私の心中は、穏やかとは程遠い状態だった。

あの日、スリから私の荷物を颯爽と取り返してくれた、その時から私の心の真ん中には、いつもシガン様がいた。

そして、私はシガン様のために存在するということを自覚した。


(シガン様は……私の王子様だから)


「ヨシノさん、着いたよ」

「ああ…はい…」


私達がやってきたのは、もちろんシガン様の部屋だ。


私達は一見普通の会話をしているように見えるかもしれないが、男子寮の窓に座っている状態だ。

当たり前だがシガン様は男の人なので、男子寮に住んでいる。

男子寮は女子禁制なので、普通に入ることなんて出来ない。

なので、私達は塀を乗り越え、魔法を駆使して壁を登ることでシガン様の部屋に入ることが出来ている。

シガン様は、最初は嫌がっていたが、今は常時窓の鍵が開いている状態になっている。


「ヨシノさん、ここでししょーが帰ってくるまで待ちましょう!あの人のことだからすぐに帰ってくるでしょう!」

「うん、そうだね……」


それを信じて私は待ち続けた。

待って、待って、――――気づけば一ヶ月が過ぎていた。

それでも私は諦めなかった。

食べ物や飲み物は、途中で帰ったリンさんが毎日持ってきてくれた。


そんな生活がしばらく続いた。


途中、邪魔が入ることを危惧して精霊を出し、守りにも当てた。

精霊はちゃんと機能していたらしく、「あの精霊の裏には大きい組織がいるかもしれない」ということで、寮生全員が別の建物に移るということがあったらしい。

……ちなみにそのことは、リンさんに聞いたので、100%合っているかと聞かれれば迷うところではあるが。


そんなある日、今まで感じたことのない感触があった。

この感じはおそらく―――


(精霊……死んだ?)


あれだけ有能だった精霊とのパスが切れたような感覚があった。

今まで、この部屋をこじ開けようと何度も精霊を倒そうと、何人もの人間が挑んできたが、それは全く叶うことなく、精霊は健在のままだったのだ。


ヨシノは自分の感じた今まで感じたことのない、未知の感覚に恐怖した。


そして、なにやら話し声が聞こえたあと、ドアが開いた。

そして――――ヨシノは歓喜した。


「ヨシノちゃん…⁉」

「シガン……様⁉」


そこにいたのは――――初対面の時からずっと想い続けてきた、愛しい人シガン・シナクだった。


――――――――――

(シガンside)


「ヨシノちゃん…⁉」

「シガン……様⁉」


僕が扉を開けると、そこにはヨシノちゃんがいた。


(リンが言った通りだったのか……)


正直なところ、リンの発言は当てにならないことが多いので、今回もあまり期待はいていなかった。

……しかし、こういう当たってほしくないことに限って当たってしまうのはなぜだろうか。

大長編世にも奇妙な物語にも出来そうな話題だと思う。


そんなことを考えながら、僕はゆっくりとヨシノちゃんに近づいていき、そして――


「……ぎゅ」

「ふぇ⁉」


――僕はヨシノちゃんを抱きしめた。


―――――――――――――――――――――次回から4章。

中途半端に終わったのは理由があるので許してください。

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