第36話 誰だっけ……?

「「あ⁉お前は!」」


その男と僕の声が重なった。

僕はそいつをひと目見て思い出す――――


(なんだっけあいつ)


―――ことは出来なかった。


いやさ、なんか見たことあるんよ。

えっと……

僕はめっさ(0.05秒)考えた。

そして思い出した。


(……あっ!そうだ!だ!)


それは、まだ僕が入学して間もなく、青春睡眠を謳歌していた頃。

なんとこの上級クラスに泥棒が入ったのだ。

すげえ堂々としていたから覚えている。

会った後どうしたかは言うまでもないだろう。

それはもちろん………………………………………………どうしたっけ?

全く覚えていない。


一応理由はある。

しばらくして知ったのだが、学園で使われる魔道具は三国共同で管理されてるだけあって最高級品ばっかりだ。

なので泥棒は割と頻繁に入る。

まあ、そういう奴らはもれなく全員別荘監獄に行っているらしいが。

僕も何度ネコババしようと思ったことか。

しかし、それを実行して捕まった一部の同級生の心の中の108の煩悩が全て駆逐されて帰ってきたのを見て、思いとどまったのだが。


そういうことで、僕はその男と会ったことがあるのだ。

え……どうしようかな…ってあいつ逃げやがった!


「あっ⁉こら待て!」

「待てと言って待つやつがどこにいる?」

「っち!待てよ!」


ヘリクツごねるな!

……余計に逃したくなくなったな。

すると、その男が勾玉っぽいものを取り出して言った。


「蓬莱宝玉:次元!次元転移!」


はあ⁉なんだよそれ!

名前からして、転移系か?


「ほんと感謝しろよ?」

「はあ?何がだよ⁉」


お前に感謝する覚えが何一つとして存在しないんだが⁉


「はあ。次会った時覚えてろよ」

「ああ、上等だ!」


なんのことだか全くわかってないけど!


……殺っちゃったほうが良かったか?

なんか見に覚えのない恩を着せてくるし。

次会ったときには殺っちまおう。これは確定事項だ。


それはそうと。

夏穂がぽか〜んとして僕の方を見ていた。


「……兄さん?知り合い?」

「いや全く」


むしろあんなやつと知り合いにはなりたくないな。

……両手に花じゃないか!

異世界で無双する主人公は皆、周りを固めるヒロインがいるもんだが、あいつの周りにも何人かいたぞ?


……もしかして、僕はゲームの世界に転生したんじゃないだろうか?

よくあるやつだ。

主人公の踏み台的存在に転生するってやつ。

そして僕がその踏み台……?

……ははっ!まさか、な?

え?違うよね?違うよね⁉

怖くなってきた。

ああ〜どうしよ〜


「兄さん……さっきから百面相してどうしたの?」

「はっ!……な、なんでもないよ?」

「それならいいんだけど…」


危ない危ない……思考が変な所にトリップしていた…


「……ナイス夏穂」

「へっ?うん」


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