第47話 名前

時は今に戻る。


「……涼乃」

「ああ、


……この言い方は。


「お前、何者だ?」

「ふーん、聞いちゃう?」


その見た目なわけではないみたいだしな。


「ん〜私はね、神だよ」

「……は?」


何を言ってるんだこいつは?


「君さ、ナスカって知ってる?」

「……バカにしてんのか?」


どうやら僕は常識がないやつだと思われてるらしい。


「ペルーにある地上絵だろ?」

「違うわ!」

「ならなんなんだよ!」

「逆ギレ?!」


なら他に何があるんだよ!

僕がそう言おうとすると、その(自称)神が呆れたように言った。


「はぁ……あんたさ、俺っ娘で声まで変えてる変な女の子見たことない?」


何を言ってるんだこいつは?(二回目)

そんな漫画の世界の住人みたいなの、いるわけないだろ?

だから僕は呆れて諭すように言う。


「そんなやつ、見たこと無……なんか見たことある気がする……」


前言撤回。

僕は過去の記憶を掘り起こす。


『最後に言っておくと、俺――私の名前はナスカ。覚えといてね?』


「そうそう、そんな割烹着を着たやつ見たことあるよ」

「ちょっと今気になるワードがあったんだけど?!」


夢の中だけど。


「まあ気にしたら負けだからね?」

「負けでもいいからつっこませて!」

「だが断る」

「岸辺○伴?!」

「これをCV鬼頭○里で聞きたいのは僕だけ?」

「間違いなくそうだよ?!」

「まあ落ち着くんだ」

「誰のせいで!」

「お前のせい」

「責任転嫁も甚だしいね!」


閑話休題。


「ああもう!ここまで話しててムカつくのは君が一番だよ!」


(自称)神はそう言ってぴょんぴょん飛び跳ねる。

いつの間にか地上に降りていたらしい。

その様子を見て、僕は気づいてしまったことがあった。


目の前の何かは、見た目こそ涼乃だが、明らかに違うところがある。

それは―――


「お前……

「ああん?どこのことを言ってんの君ぃ?!」

「喘ぐな喘ぐな」

「喘いでないし!君の頭の中はピンク色なの?」

「うーん……どうなんだ?」

「聞けや!」


『どこのことを』、か。

……もしかして、伝わってないのか?

なら直接的に言うか。


「あのさ、下向いてくれるか?首だけ動かしてな」

「?まあいいけど」


そいつは下を向くと、僕は頷く。


(うん。この分なら……)


僕は、かなり前にリンが持ってきていたぬいぐるみを……


「そういえば君の名は?」

「前前前世」

「…………」

「ちょっと、冗談だって!とりあえず無言で魔法展開させるのやめよ?」

「せっかくいいサンドバッグが見つかったと思ったのに(仕方ないな)」

「心の声出てるから!」

「間違ってないから安心していいよ?」

「余計だめじゃん!」


閑話休題。


「それで、名前は?」

「ない」

「え?」

「名前、ないんだよね……」


そう言ってくしゃりとはにかむ(自称)神。

しかし、そんな儚げな表情を浮かべていたのはほんの一瞬。

すぐに何かを思いついたような、何とも言えない表情になる。

そしてまた表情が変わり、次は僕の顔色を不安そうにうかがった。


(……百面相だな)


面白くなってきた。

しかし、それも短い時間。

次に意を決したような表情を浮かべて言った。


「君さ、私の名前付けてくれない?」

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