第38話 デジャブ

「え……?……ししょー?」


階段の前で上がるのを渋ること数分。


それは、ようやく僕にも決心がつき、登ろうとしたところだった。

僕の背後から、非常に聞き覚えのある声がしたのだった。


僕の知る限りで僕のことを「ししょー」と呼ぶ者は一人しかいない。

そう―――――リンだった。


――――――

今思えば、この時の僕は油断していたのだろう。

よくよく考えたら、普通にリンが男子寮にいることはおかしいことなのに、それを見落としていた。


「ししょーの皮を被った偽物め!死ねばいいんだ!『獄炎』!!」

「え?ちょ、待てってリン!死ぬから!当たったら死ぬから!」

「『リン』って呼んでいいのはヨシノさんと、ししょーだけだ!気安く呼ぶな!」


……なんでこうなったんだっけ⁉


話は数分前に遡る――――


「え……?……ししょー?」


後ろを向くと、初見では聖女かと思うほど美しい、銀髪碧眼の少女がいた。

そしてこの声は……


「……リン?」

「ししょー!」


そう言ってリンは僕に飛びついてきた。

お腹あたりに当たる女性らしいふくらみなんて気にならないぐらい、そう。全く気にならないぐらい、その時のリンは美しい笑みを浮かべていた――――のだが。

途端、顔を曇らせた。


「リン……?どうした?」

「……れの?」

「れの?」

「知らない女の匂いがする…!これ誰の匂い⁉」

「え?」


どうしよう……心当たりしかない…!


「……じ、実は妹ので……」

「……今までししょーに妹がいたなんて聞いたことがない…」

「い、言ってなかっただけなんだ!」

「……家族構成・趣味・その他諸々は調べてある……」


え?怖。

僕、そんなところまで知られてたの?

……プライバシーってなんだっけ?


そんなことを考えていると、リンの目から光が消えた。


「まさかししょー……他に女を作ったの…?」

「ご、誤解だ!」

「真実だ」


返しのキレが良すぎる!

まずいなぁ…このままじゃ誤解されたままになる……


「あ、そうか」


リンの目に光が戻った。

これは信じてくれたのか⁉


「リン!信じてくr「このししょー偽物なんだ!」


え?


「本物のししょーだったら、もっと……もっと……すごいことまでしてくれるはずなんだ!」


した覚えないけど⁉


「とにかく……お前ししょーの偽物だろ!私の目は誤魔化せにゃい!……あ。」


噛んだな。うん。

赤くなった顔が可愛いから良しとしよう。


「……ロス」

「ろす?」


……なんか見たことある光景のような気がするのは気の所為か?


「殺すぅぅぅぅ!!」


デジャブ!


―――――――――――――――――――――【補足】

この世界での主人公は一人っ子です。

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