第16話 降格 ~追放の代償~ (後編)

 野を駆ける牙獣ワイルドファング敗走の結果、村は4匹の巨大魔熊ジャイアントイビルベアに蹂躙され、村人は避難していたことで死者こそ出なかったが、甚大な被害をもたらした。

 建築物は破壊され、食糧庫の食べ物は食い荒らされ、巨大魔熊ジャイアントイビルベアが去ったとは、廃墟だけが残された。

 とても住める状態ではなくなった村は破棄されることとなった。


 村を防衛できず、甚大な被害をもたらす原因となった野を駆ける牙獣ワイルドファングは、依頼クエスト失敗により、二階級降格の処分を受ける事となる。


 巨大魔熊ジャイアントイビルベアの討伐失敗により、回収者レトリーバーの重要性に気付いた野を駆ける牙獣ワイルドファングは、回収者レトリーバーを募集する。

 しかし、緊急依頼クエスト失敗により、二階級降格したという噂は広がっており、誰も野を駆ける牙獣ワイルドファングに入団しようとはしなかった。


「くそっ! こんなはずじゃ、なかったのに!」


 巨大魔熊ジャイアントイビルベアの討伐失敗を機に、野を駆ける牙獣ワイルドファングのメンバーの性格は荒れて行った。

 依頼クエスト失敗の憂さ晴らしのために、下のランクの冒険者に嫌がらせを働くようになる。

 当初は抵抗する冒険者もいたが、野を駆ける牙獣ワイルドファングは実力的にはAランクのため、並の冒険者では太刀打ちできなかった。


 巨大魔熊ジャイアントイビルベアの討伐失敗から四年が経過し、一人の少女が野を駆ける牙獣ワイルドファングに入団する。

 フェレティスである。

 アラン達はフェレティスをレオネスの後継にしようと考えるが、フェレティスはレオネスほどの働きは出来なかった。


「荷物持ちなんざ、誰にでもできンだよ! 敵の動きを見て、ちゃんと伝えろグズが!」


「傷を負ったら、すぐにポーションを持ってくるものだろう? 全く……」


「矢が尽きる前に矢筒を渡せ! ノロマが!」


「魔法を使ったら、マジックポーションを渡しなさいよ、役立たず!」


 大量の荷物を運ぶのに精いっぱいのフェレティスにそれ以上の働きを要求し、できなければ暴言と暴力がフェレティスを襲う。


 そうして一年が過ぎ、かつての野を駆ける牙獣ワイルドファング回収者レトリーバーであった、レオネスとの再会を果たす。


「戻ってこい。また使ってやるぜ?」


「何言ってるんです、俺が必要ないといったのはあなた達でしょう? それを戻ってこいなんて、今さら遅すぎやしませんかね」


 再開したレオネスに戻るように言うが、レオネスは拒否した。


「レオネスの分際で、俺たちの誘いを断るなど……!」


 レオネスとの攻防ののち、野を駆ける牙獣ワイルドファングはレオネスを憎んでいた。


「憲兵の邪魔が入らなければ、殺してやったのに!」


「まあまあ、アイツも冒険者をやっているみたいだし、会う機会はたくさんあるよ」


「次に会った時には、絶対に殺してやる!」


 いきどおるアランをたしなめるラントン。


「それより、狩りに行かない? 気分転換に」


「そうだな」


 ファニアの提案にクラムが同意する。


「フェレティスの奴はどこだ?」


「買い出しだよ」


「じゃあ、放って行きましょう。今回、回収者レトリーバーは要らないし」



◆◆◆



 アルブ平原を訪れた野を駆ける牙獣ワイルドファング

 すでに冒険者が魔物と戦っており、その魔物を横から野を駆ける牙獣ワイルドファングが倒し、手柄を横取りする。


「何か言いたそうだな?」


「いえ、何も……」


 アランの言葉に口をつぐみ、立ち去る冒険者。

 戦っても勝ち目はなく、ギルドに抗議すれば報復される。

 ゆえに、泣き寝入りするしかない。

 いつもの光景だった。

 しかし、この光景もこれが最後であった。


「ほう、そっちからきてくれるとはな、レオネス。土下座して靴でもなめれば、野を駆ける牙獣ワイルドファングに戻してやっても良いぜ?」


 レオネスは無言で剣を抜く。

 会話しに来たのではない。

 レオネスは自分に与えられた“使命”を果たしに来たのだ。

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