第22話 赤き魔物 ~魔薬の力~

 魔物化したマントの男は腕から鋭い爪を生やし、ミレスの方へ向かう。


「くっ!」


 ミレスは抜刀し、魔物化した男の爪を受け止める。


「なんて膂力りょりょく……!」


 力で押されるミレス。


「無視は困るな!」


 背を向ける魔物化した男にレオネスは斬りかかる。

 しかし、魔物化した男は跳躍し、レオネスの剣戟をかわす。


「こいつ、後ろに目でもついてんのか!?」


 落下の勢いを利用し、魔物化した男は爪で真下にいるレオネスを突き刺そうと攻撃を繰り出す。

 レオネスは魔物化した男の爪撃をかわす。

 攻撃が外れた魔物化した男だが、爪で地面をえぐり、地面の破片をレオネス達の方へ向けて投げ飛ばし、追撃する。

 レオネスは魔力の剣によるバリア・魔刃防盾ソードバリアを展開する。

 六本の魔力の剣・魔刃剣フォースエッジが魔力の障壁を展開し、飛来する破片を防ぐ。


「隙アリ!」


「しまった!?」


 レオネスが魔刃防盾ソードバリアで破片を防いでいる隙に、魔物化した男は壁を登り、再び上空から攻撃を仕掛ける。


「そうは、行かない!」


 ミレスはアルハザード流・裂空斬れっくうざんを繰り出す。

 無数の闘気の斬撃を受け、魔物化した男は地に落ちる。

 地に落ちた魔物化した男はゆっくりと身を起こす。


「こいつ……!」


「無傷!?」


 ミレスの闘気の連続斬りである裂空斬れっくうざんを受けた魔物化した男ではあるが、身体を鱗で防御し、裂空斬れっくうざんを防いでいた。


「物理モ魔法も効かナい!」


「……こいつは、ルナリスの時の魔物の力、併せ持っているかもしれないな」


「だとしたら、厄介ね」


 ルナリスを助けた時に居た三匹の魔物の内、二体は特殊な能力を持っていた。

一体は鱗により防御力が高く、もう一体は魔法防御により魔方が効かなかった。

 

「だが、やりようはあるさ」


 鱗を展開した魔物化した男に向かうレオネス。

 魔物化した男は接近するレオネスを斬り裂かんと爪を振る。

 爪撃をかいくぐり、懐へ飛び込んだレオネスは、アルハザード流・衝破裂風しょうはれっぷうを繰り出す。

 十字斬りを繰り出し、最後に闘気を放つ闘襲撃とうしゅうげきを拳で叩き込んで吹き飛ばす。


「ゴぉ!?」


 吹き飛び、壁に激突する魔物化した男。

 しかし、衝撃によるダメージはあれど、レオネスの衝破裂風しょうはれっぷうは決め手にはならなかった。


「レオネスの技も効かないなんて……」


「残念ダったナ」


 魔物化した男は薄ら笑い、勝ちを確信する。

 爪を引きずり、地面との摩擦で、火花を散らせる。

 ゆっくりとレオネスへと近づいて行く魔物化した男。


「お前ノ方が厄介ダ、オ前かラヤる」


「くっ、厄介だと!」


 爪を構え、レオネスへと突進する魔物化した男。

 魔物化した男はレオネスに爪を突き立てる。


 しかし、その爪がレオネスを貫くことは無かった。


「ナニっ!?」


 魔物化した男の爪はレオネスの剣によって切り落とされていた。


「打つ手なし……と思っているのか」


 飛び退き、レオネスから距離を取る魔物化した男。


「何をシた!」


「聞くなら教えよう。剣魔法、属性付加・電刃エンチャント・ハーモニクスだ」


 属性付加・電刃エンチャント・ハーモニクス、剣に高周波振動を流し、切断力を引き上げる剣魔法である。


「その鱗は確かに硬い。だが、衝破裂風しょうはれっぷうでダメージを受けるのなら、属性付加・電刃エンチャント・ハーモニクスなら余裕で斬れる。おまけに、剣魔法は魔法を斬り裂く。魔法防御なんて関係ない」


「おノれェ!」


 魔物化した男はレオネスを脅威と判断し、脅威度の低いミレスの方へと向かう。


「そうはいかない!」


 ミレスと魔物化した男の間に割って入ったレオネスは、魔物化した男に向け無数の斬撃・裂空斬れっくうざんを放つ。

 ミレスの裂空斬れっくうざんと違い、レオネスの裂空斬れっくうざん属性付加・電刃エンチャント・ハーモニクスの高周波振動をまとい、魔物化した男の鱗を易々と斬り裂く。


「があぁぁぁ!!」


 防御不可の無数の斬撃に切り刻まれ、魔物化した男は地に膝をつく。

 大ダメージを受け、男の魔物化が解かれる。


「安心しな、急所は避けている。死にはしない」


 膝をつく男にレオネスは告げる。


「さあ、質問に答えてもらいましょうか」


 ミレスは男に抵抗させないよう剣を突きつける。


「エビルファングのアジトはどこ?」


「俺が教えると思うか?」


 ミレスの質問に、質問で返す男。


「嫌でも答えてもらうぜ?」


 レオネスは男の頬を薄く切り、傷口から血が垂れる。


「ふ、甘いな」


「何を、……!」


 男の言葉に異変に気付くレオネス。


「くっ、間に合うか!?」


 レオネスは男の腹を殴り、腹の中の物を吐かせようとする。


「もう、遅……い」


 男は血を吐き、事切れる。


「クソ!」


 レオネスは吐き捨てる。


「どういうことなの?」


「こいつは毒で自殺したのさ、俺たちに情報を渡さないためにな」


「そんな……!」


 レオネスは男を壁にもたれさせる。


「こうなった以上、仕方ない。体に直接聞くか」


「え、何をする気?」


 レオネスは男の足元へ行く。


「ミレスはこいつのカバンを持ってきてくれ」


「うん……」


 レオネスの指示に従い、カバンを持ってくるミレス。


「中身を出してみるか」


 カバン中身を物色する二人。

 カバンから出てきたのは、受け取った金と替えのマントだけであった。


「これだけかぁ。これで調査は振出しね……」


「そうでもないぞ?」


「何か分かる事があった?」


 レオネスは男の靴を指さす。


「まずは靴だ。今日も昨日も雨は降っていない。だが、こいつの靴には泥が付着している。まだ乾いていない泥もある。これは、この近辺の水場を歩いて来たってことになる」


「はぇ~」


 レオネスの推理に感心するミレス。


「そして、その説を後押しするのが、このマントだ」


 レオネスはカバンから取り出したマントを広げる。


「マントと水辺が、どう関係あるの?」


「このマント、湿っている。何なら濡れている箇所もある。水辺で濡れて気持ち悪いから、替えのマントを羽織ったってところだろう」


 レオネスは、さらにマントの一部分をミレスに見せる。


「これは、草?」


「ああ、靴にもついていた。ペチペチ草じゃないか、これは」


 レオネスはマントについている草を一つ取り、観察する。


「こいつはペチペチ草の生えている水辺を歩いて来たってことになる。あとは、晴れていても水が降ってくる場所だな」


「う~ん、よくわからないんだけど……」


 レオネスの推理をいまいち理解できないミレス。


「おそらく、周辺にペチペチ草が生息している滝。そこを探せば何か見つかるかもしれない。この条件に合致する場所は……」


「場所は?」


「分からん」


「分からんのかーい!」


 レオネスの回答にずっこけるミレス。


「仕方ないだろ、この町には詳しくないんだから。ルナリスなら知ってるかもしれないが」


「じゃあ、この男を王国騎士団に引き渡して、宿屋に戻りましょうか」


 レオネスとミレスは王国騎士団の駐屯地に寄ったのち、宿屋へと帰ってくる。

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