第15話 降格 ~追放の代償~ (前編)

「足手まといが居なくなって、俺たち野を駆ける牙獣ワイルドファングは、洗練されたな」


 野を駆ける牙獣ワイルドファングのリーダーであるアランは足手まといが居なくなったことで上機嫌であった。


 レオネスにクビだと宣告し、今日の早朝にレオネスは荷物をまとめて野を駆ける牙獣ワイルドファングの拠点から出て行ったのだった。


「それじゃ、新生野を駆ける牙獣ワイルドファングの腕試しと行きますか」


 弓使い、ラントンが提案する。


 ギルドを訪れた野を駆ける牙獣ワイルドファング一行。


「まずはこれにしましょう」


 魔法使い、ファニアが一枚の依頼書を取る。

 受ける依頼クエストはBランク、大牙虎ファングティガーの討伐依頼である。

 冒険者ランク、クラン共にAランクに昇格した野を駆ける牙獣ワイルドファングはAランクの依頼クエストを受ける事も出来たが、足手まといとはいえ、メンバーが一人減っているので、肩慣らしとして一つ下のランクの依頼を受注したのだった。


「早く終わらせて、Aランク依頼クエストを受けようぜ」


 アランは武器である槍を担ぎ、目的地へと急ぐ。


 目的地であるカマルスの森へと到着した野を駆ける牙獣ワイルドファングは、討伐対象である大牙虎ファングティガーを探す。


「さっそく発見だ」


 ラントンが大牙虎ファングティガーを発見する。


「さっさと終わらせるぞ!」


 アランは槍を構え、大牙虎ファングティガーに突撃する。

 こちらに気付いた大牙虎ファングティガーはアランの槍をかわそうと動くが、アランの槍は大牙虎ファングティガーより速く、大牙虎ファングティガーの胴を刺す。


「浅いか……!」


 先制攻撃には成功するが、大牙虎ファングティガーへのダメージはそこまで大きくはない。

 反撃に転じる大牙虎ファングティガーだが、その行動は放たれた矢によって阻害される。

 弓使いラントンの援護だった。


 「これでどうだ!」


 矢による攻撃を受け、動きの止まった大牙虎ファングティガーにクラムの戦斧の一撃が炸裂する。

 強力な一撃を喰らった大牙虎ファングティガーは、勝ち目はないと悟り、逃げようとするが、動けない。


「逃がさない!」


 ファニアの木属性の拘束魔法、アイヴィーロープにより、大牙虎ファングティガーの足にはツタが絡まり、身体が固定されていたのだ。


 「とどめだ!」


 アランの槍が大牙虎ファングティガーを刺し貫く。

 野を駆ける牙獣ワイルドファングの連携により、大牙虎ファングティガーの討伐に成功する。


依頼クエスト達成だ。ま、当然の結果だがな」


 野を駆ける牙獣ワイルドファング大牙虎ファングティガーの素材を回収し、ギルドへと戻る。


 野を駆ける牙獣ワイルドファングがギルドへと戻ると、ギルドはあわただしかった。


「何事かしら?」


「これの事じゃないかな」


 眼の良いラントンがある依頼書を発見する。


「緊急依頼クエストか」


 緊急依頼クエストの内容は近隣の村に迫りくる巨大魔熊ジャイアントイビルベアの群れの討伐である。


巨大魔熊ジャイアントイビルベアか。確か危険度Aランクの魔物だったな」


「ああ。だが、我々のランクなら討伐も可能だ」


 アランの言葉にクラムが返す。


「なんといっても、あたしたちはAランクだものね」


「この依頼クエストをこなせば、Sランクへの足掛かりに出来るかもね」


 ファニアとラントンの言葉を聞き、アランは緊急依頼クエストを受注する。


 依頼クエストを受注した野を駆ける牙獣ワイルドファングが現地に到着すると、すでに先行した冒険者たちが防衛線を張り、巨大魔熊ジャイアントイビルベアと戦っていた。

 冒険者たちは巨大魔熊ジャイアントイビルベアの足止めが精いっぱいであり、倒すには至っていなかった。


「増援か!?」


 冒険者達は野を駆ける牙獣ワイルドファングの到着に気付く。


「あとは俺たちAランク冒険者に任せな!」


「Aランク冒険者か! 心強い!」


「任せたぞ! 俺たちは負傷者を連れて撤退する!」


「村人の避難は完了している! あとはコイツらを片付けるだけだ!」


 冒険者たちは野を駆ける牙獣ワイルドファング巨大魔熊ジャイアントイビルベアの群れの討伐を任せ、撤退する。


「3匹か、思ったより少ないな」


「何匹だろうと、全滅させれば一緒だろ!」


「違いないわね!」


 ラントンの言葉に、アランとファニアが返す。


「くたばれ!」


 アランは槍を突き出し、巨大魔熊ジャイアントイビルベアを攻撃する。

 しかし、槍は巨大魔熊ジャイアントイビルベアの毛皮に阻まれ、筋肉を貫通する事が出来なかった。


「チッ! さすがはAランクのモンスター、簡単にはいかないか……!」


 アランが巨大魔熊ジャイアントイビルベアの一体と攻防を繰り広げている間に、タンクのクラムは残りの二体の巨大魔熊ジャイアントイビルベアを引き付けていた。


 「援護を頼む!」


 クラムの支援要請にラントンが答え、矢で援護する。

 野を駆ける牙獣ワイルドファング巨大魔熊ジャイアントイビルベアを押していた。

 しかし、野を駆ける牙獣ワイルドファングは戦闘に集中するあまり、増援の存在に気が付かなかった。


「ちょっと! 数増えてない!?」


 最初に気付いたのはファニアだった。

 アランが一体と交戦し、クラムが二体を引き付けていた。

 さらに茂みに隠れていた一体が姿を現したのだ。


「クソッ! 伏兵がいるならちゃんと報告しろ!」


「そんなこと言っても、こっちだって戦闘で手一杯だ!」


 アランの怒号にラントンが反論する。

 戦況を見渡せる者が居れば、気付けたかもしれない。


 四体の巨大魔熊ジャイアントイビルベアに攻められ、徐々に劣勢に立たされていく|野を駆ける牙獣(ワイルドファング)。


「どうしたラントン!? 援護してくれ!」


「矢がもうないんだ!」


 クラムの支援要請に、もう矢が尽きたと答えるラントン。

 予備の矢筒を運搬する者が居れば継戦力が上がったかもしれない。


「あいつ、村に行く気か! ファニア! 奴の足を止めろ!」


「だめよ……、もう、魔力が無いわ」


 アランが指示を出すが、それに応える魔力がファニアには残っていなかった。

 マジックポーションを補給してくれるものが居れば、状況は変わったかもしれない。


「ぐあぁ!」


 二体の巨大魔熊ジャイアントイビルベアを引き付けていたクラムが、巨大魔熊ジャイアントイビルベアの猛攻をさばき切れず、負傷してしまう。


「くっ! 誰かポーションをくれ!」


「持ってないよ!」


「あたしも、ないわ」


 傷を負ったクラムはポーションを要求するが、誰も持っていなかった。

 今までレオネスが道具を持っていたので、他のメンバーは道具を持参する習慣が無かった。

 ゆえに、武器だけを持ち、同格の巨大魔熊ジャイアントイビルベアと戦いに来たのだった。


「があぁ!」


 巨大魔熊ジャイアントイビルベアの一体と交戦していたアランが吹き飛ばされる。

 アランは傷を負い、さらに、武器である槍を破壊されてしまう。


「このままじゃ、全滅だ! 撤退しよう!」


 ラントンが撤退を提案する。

 アランは負傷し、武器を失った。

 クラムも負傷し、盾はボロボロでいつ壊れてもおかしくない状態であった。

 ラントンは矢を使い果たし、ファニアは魔力が切れていた。

 前衛の二人は負傷し、後衛の二人は弾切れにより、全員戦いを継続できる状態ではなかった。


「クソ、仕方ねぇ! 撤退だ!」


 アランは撤退の指示を出し、野を駆ける牙獣ワイルドファングは戦線を離脱する。

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