第14話 決意 ~過去との決別~

 レオネスとミレスはギルドを後にし、宿屋への帰路につく。

 レオネスには落ち着いて考える時間が必要だった。

 帰り道の途中で、レオネスは一人の少女とぶつかる。


「おっと、悪い。大丈夫か?」


「すみません……」


 フードを目深まぶかにかぶった少女はそそくさと立ち去ろうとする。

 しかし、少女はふらつき、転びそうになる。


「本当に大丈夫か?」


 ふらつく少女を支えるレオネスは、あることに気が付いた。


野を駆ける牙獣ワイルドファングの……」


「ちょっと、怪我してるじゃない。大丈夫?」


 レオネスの呟きはミレスの言葉で遮られた。


「大丈夫ですから……」


 フードの少女は痣のある腕を袖で隠し、立ち去ろうとするが、空腹により腹の虫が鳴る。


「お腹空いてるの?」


「うぅ……、朝から何も食べていなくて」


 フードの少女は赤面しながら答える。


「じゃあ、何か食べるか。それに、君とは話がしたいしな」


 フードの少女は断るが、ミレスに、いいからいいからと押し切られ、強引に連れて行かれる。

 三人はレストランに入店する。


「好きなの頼んでいいぜ」


「……いいんですか?」


「私はショートケーキとアイスティー。レオネスの奢りで!」


「おま、まあいい」


 フードの少女の分は元から奢るつもりであったレオネスだが、流れでミレスの分も奢ることになってしまった。

 フードの少女は控えめにオムライス(小)を注文する。


「それじゃ、少ないだろう」


 レオネスが追加でミートスパゲティを注文する。


「あなた、名前は?」


「フェレティス・メランマウロです」


「フェレティスね、私はミレスティア。こっちが……」


「言わなくても、知ってるだろう?」


 ミレスの言葉を遮るレオネス。

 その言葉にフェレティスの身体がビクッと震える。


「どういうこと? 知り合い?」


 レオネスの言葉に疑問を持つミレス。


「俺たちは一度会ってる、敵同士としてな。そうだろ? 野を駆ける牙獣ワイルドファング回収者レトリーバー


「……やっぱり、気付いていたんですね、レオネスさん」


 目の前にいるのは先ほど自身の所属するクランと揉め事を起こした相手だ。

フェレティスは今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


「安心しな、君と戦うつもりなら、メシを奢ったりなんかしないさ」


 怯えるフェレティスに、敵意が無いと伝えるレオネス。


「それより、なぜ君は野を駆ける牙獣ワイルドファング回収者レトリーバーに? あの人ら、非戦闘職は要らないって言っていたのに……」


 レオネスは本題を口にした。

 ぶつかった少女が野を駆ける牙獣ワイルドファング回収者レトリーバーだと気づいた時から聞きたかったことである。


「……私はメンバーを募集していたクランに入っただけで、まさかこんなことになるとは」


 冒険者を目指したフェレティスは、一年前にリフィアの町を訪れた。

 そこで、メンバーを募集しているクランに深く考えずに入ったのだった。


「あとから野を駆ける牙獣ワイルドファングの事を知りました。悪い噂の絶えないクランだと……」


 野を駆ける牙獣ワイルドファングに入団したフェレティスは回収者レトリーバーの仕事を与えられた。

 なんでも、かつて所属していた回収者の後継のメンバーを募集していたのだという。


野を駆ける牙獣ワイルドファングって、回収者レトリーバーは要らないってレオネスを追い出したんじゃ、なかったっけ?」


「そのはずだけどな……」


 ミレスだけでなく、レオネスも疑問に思ったが、フェレティスは野を駆ける牙獣ワイルドファング回収者レトリーバーを求めた理由を知らなかった。


回収者レトリーバーとして頑張っていたんですけど、前任者ほどの働きが出来ていないって、報酬が貰えなったり、食事を抜かれたり……」


 そして、働きが悪いと、暴力や暴言を浴びせられていた。


「辞めようとは思わなかったの?」


「思いましたよ。でも、辞めようとすると、多額の違約金を要求されたり、殺してやるって脅されたり……」


「ひどい……。なんて連中なの!」


 フェレティスの境遇に怒りの色をにじませるミレス。

 黙って聞いていたレオネスもかつての仲間に対し、怒りの感情が芽生えていた。


「……これほどとはな、落ちるところまで落ちたか」


 レオネスはそう呟くと席を立つ。


「ミレス、フェレティスを頼む」


「レオネスは?」


「過去を清算してくる」


 そう言い残し、食事代を置いて店を出る。


「あの、レオネスさんはどこへ……?」


 レオネスが何をしようとしているのか分からなかったフェレティスはミレスに問う。


「フェレティスは見たから知っていると思うけど、レオネスは野を駆ける牙獣ワイルドファングより強いわ。だから、レオネス宛に野を駆ける牙獣ワイルドファング討伐の緊急|依頼(クエスト)が出ているの」


野を駆けるワイルド……むぐぐ!」


「おっきい声出さないで」


 叫ぶ気持ちもわかるんだけどね、と思いながらミレスはフェレティスの口を塞ぐ。

 

「す、すみません……」


 フェレティスは知らない間に、自分の所属しているクランが討伐対象になっていることに驚いた。


「でもね、レオネスは昔、野を駆ける牙獣ワイルドファングのメンバーだったの」


「え!? じゃあ、私の前任者って」


「うん、レオネスよ」


 衝撃の真実にフェレティスは驚く。


「過去を清算するって……。じゃあ、レオネスさんは、昔の仲間を倒しに?」


「うん」


 レオネスの目的を知ったフェレティスであるが、レオネスがかつての仲間を討伐しようとしていることに対して、思うところがあった。


「そんな、レオネスさんじゃなくても別の人に頼めば……!」


「レオネスはもう覚悟を決めた。それを今さら覚悟を鈍らせるようなことをするべきではないと思うの……」


「……ミレスティアさんは、それでいいんですか?」


「……レオネスが決めたことなら」


 ミレスの言葉にフェレティスは黙るしかなかった。

 もう賽は投げられたのだ。


「ところで、フェレティスが町にいるってことは、野を駆ける牙獣ワイルドファングも町にいるの?」


「いえ、今は依頼に行っています。たぶん、魔物討伐の横取りをするつもりだと思います。弱った魔物に止めを刺すだけなので回収者レトリーバーは要りませんから」


「……ほんと、救えないわね、アイツら」


 ミレスは野を駆ける牙獣ワイルドファングの行いに呆れるしかなかった。



◇◇◇



 レオネスは一人、ギルドを訪れていた。


「この依頼クエストを受ける」


 レオネスは野を駆ける牙獣ワイルドファング討伐依頼の依頼書を受付嬢に渡す。


「! かしこまりました。標的はアルブ平原の依頼クエストに向かっています。討伐対象の生死は問いませんが、戦闘不能な状態にはしてください」


 野を駆ける牙獣ワイルドファングの居場所を聞き、アルブ平原へと向かうレオネス。


 レオネスはかつて仲間だと思っていた外道たちを討つべく、その手に力を込め、目的地へ向けて歩を進める。

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