第13話 緊急依頼 ~野を駆ける牙獣討伐依頼~

 レオネスと野を駆ける牙獣ワイルドファングの喧嘩の後、メインストリートでは野を駆ける牙獣ワイルドファングと互角以上に渡り合った冒険者の話で持ちきりであった。


「見たか? Aランク相当の冒険者を4人相手に無傷だぞ」


「ああ、相当の手練れに違いない」


「あの冒険者は誰だ?」


「連れがレオネスって呼んでたぞ」


「そういえば、最近、そんな名前の新米冒険者が居たな」


「馬鹿言え、あれが新米の動きかよ!」


「新米だろうが、ベテランだろうが、この際どうでもいい。野を駆ける牙獣ワイルドファングをどうにかしてくれるんならな!」


 Aランク冒険者である野を駆ける牙獣ワイルドファングを寄せ付けないレオネスの立ち回りを見た冒険者たちはギルドへと向かい、レオネスに向けて、ある緊急依頼クエストをギルドに提出する。


 ──野を駆ける牙獣ワイルドファング討伐依頼──。


 自分たちを虐げる野を駆ける牙獣ワイルドファングを倒せるかもしれない存在がようやく現れたのだ。

 冒険者たちは当然ながらレオネスの過去を知らない。

ゆえに、レオネスへの野を駆ける牙獣ワイルドファング討伐依頼とは、レオネスにかつての仲間を打ち倒せ、と言っている事だとは夢にも思わなかった……。



◇◇◇



 ギルドの使者から呼び出され、ギルドへとやって来たレオネスとミレス。

 レオネスは自身に向けて出された緊急依頼クエストの内容を確かめるために受付へと向かう。


「私はここで待ってるね」


「ああ」


 呼ばれたのはレオネスだけなので、ミレスは待合のベンチに腰掛け、レオネスを待つことにする。


「すみませーん、緊急依頼クエストがあると聞いて来たレオネス・レオルクスですけどー」


「レオネス様ですね」


 受付嬢は辺りを見回し、念入りに野を駆ける牙獣ワイルドファングの関係者がいないことを確認する。

 万が一、野を駆ける牙獣ワイルドファングの耳に入れば、ギルド職員とはいえ、野を駆ける牙獣ワイルドファング討伐依頼を斡旋した自身の身に危険が及ぶかもしれないと考えたからだ。


「レオネス様への緊急依頼クエストは、こちらの野を駆ける牙獣ワイルドファング討伐依頼です」


 受付嬢は小声でレオネスに伝え、依頼書を手渡す。


「……!」


 レオネスは驚いた。

 依頼クエスト自体は、新米冒険者を虐げる悪質な冒険者の討伐依頼。

 しかし、レオネスにとっては、自身の手でかつての仲間を倒せ、そう言われているも同然だった。


「……少し、考える時間が欲しい」


 自身を捨て、クランから追放されたとはいえ、かつては苦楽を共にした仲間だったのだ。

 先刻のいさかいでは、野を駆ける牙獣ワイルドファング側は殺す気でいたが、レオネスは退かせれば十分だと考えていた。

 かつての仲間を相手に、自分は本気で剣を振るえるのか。

 レオネスは迷っていた。


「……かしこまりました。ですが、緊急依頼クエストですので、早めのお答えをお待ちしております」


 受付嬢との会話を終え、待合のベンチで待っているミレスの元へ戻る。


「おかえりー。なんだったの?」


「……大きな声では言えないが、これだ」


 レオネスはこっそり依頼書をミレスに見せる。


「ワ、野を駆けるワイルド ……!」


 依頼内容を口にしようとしたミレスの口を慌てて塞ぐレオネス。


「おい、聞かれたらどうする! 街中で全面戦争だぞ!?」


「ご、ごめん。でも、この依頼は……!」


 ミレスを含む冒険者にとっては、新米を虐げる悪質冒険者が居なくなるため、助かる依頼であるが、レオネスにとっては捨てられたとはいえ、かつての仲間と戦う事となる。


「これは、野を駆ける牙獣ワイルドファングの暴走を止められなかった、俺への罰なのかもしれないな」


 自虐的に呟くレオネス。


「それで、その依頼クエストはどうしたの?」


「考える時間が欲しいって、保留にしてある」


「そう……」


依頼を受けるべきか迷うレオネスに、どう声をかけて良いかミレスには分からなかった。

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