第6話 戦闘 ~Eランク冒険者、初めての討伐依頼~

 依頼の目的地であるアルブ平原に到着し、角兎ジャッカロープを探すレオネス。

 アルブ平原、大小さまざまな草木が茂っており、小高い丘も存在する。


「む、これは」


 小さな足跡を発見したレオネス。

 足跡の続く方へ向かうと、木の根元に角兎ジャッカロープの巣を発見する。


「三匹。まあ、こんなもんか」


 レオネスは腰に差した剣を抜くことも無く、剣魔法・剣弾ソードブリットを発動させ、角兎ジャッカロープを刺し貫く。

 剣魔法・剣弾ソードブリット魔刃剣フォースエッジを弾丸の様に射出する遠距離攻撃魔法である。

 角兎ジャッカロープは足が速く、近づいて逃げられれば厄介なため、遠距離から攻撃した方が確実と考え、レオネスは剣弾ソードブリットを放ったのだった。

 角兎ジャッカロープの角を魔力で形成した剣、魔刃剣フォースエッジで切り取り、腰のベルトへと結びつける。

 素材回収用のアイテムポーチには、角兎ジャッカロープの角は大きすぎて入らなかった。


「一匹で二本の角が取れるから、六本。必要な角の数は五本だから、角はもういいな。あとは角兎ジャッカロープを二匹討伐して終わりだ」


 5年前むかしなら残りの二匹を討伐したことにして帰れたが、今はギルドカードにより不正出来ないため、きちんと規定の数を討伐する必要がある。

 討伐した角兎ジャッカロープの死体を持参した袋に詰め、レオネスは残りの角兎ジャッカロープを探しに向かう。


「魔石タイプだと楽でいいんだけどな……」


 魔物は変異タイプと魔石タイプの二種類が存在する。

 変異タイプの魔物は瘴気という毒性のある高濃度の魔力を浴びた生物、主に動植物が変質したものであり、基本的には動植物と同じであり、死体がそのまま残る。

 魔石タイプの魔物は瘴気が形を持ったもので、魔石という核を持ち、死ぬと魔石以外は灰となり消滅する。

 そのため、魔石を回収すれば終わるため、死体の後片付けをする必要が無いのである。

 迷宮ダンジョンでは瘴気が溜まりやすく、生息している魔物は魔石タイプである事が多い。

 迷宮ダンジョンの外では、変異タイプと魔石タイプの割合は五分五分といったところである。


「っと、角兎ジャッカロープの群れか。5匹はいるな、まとめてやるか!」


 角兎ジャッカロープの群れを発見したレオネスは剣魔法を発動させ、角兎ジャッカロープの群れを掃討する。

 剣魔法・剣弾襲雨ソードストーム、無数の剣の弾丸・剣弾ソードブリットを雨のように降らせる魔法である。

 突如、剣の雨に襲撃された角兎ジャッカロープは為す術なく討伐される。


「悪いな、これも仕事でな。増えすぎると困るんだ、間引かせてもらうぜ」


 レオネスは討伐した角兎ジャッカロープの角を切り落とし、角はベルトに結び、残りは持参した袋に詰める。

 レオネスが角兎ジャッカロープを袋に入れているのは、夕飯にするためである。

 ウサギが魔物化したものが角兎ジャッカロープであるため、毒抜きすれば、ウサギと同じように食べる事が出来るのである。

 また、角兎ジャッカロープを詰めている袋には状態保存の魔法が掛かっており、袋に入れた時の状態を保つ事が出来る。

 そのため、角兎ジャッカロープの肉を鮮度を落とさず持ち帰る事が出来るのだった。


「これで依頼完了だな、晩飯も確保できたし帰るか」


 8匹の角兎ジャッカロープが入った袋を担ぎ、腰のベルトには16本もの角が結び付けられていた。


「討伐採集依頼って、かさばるんだな。回収者レトリーバーを雇うか、魔法の小袋マジックポーチを買わないと続けられんな」


 魔法の小袋マジックポーチとは、空間魔法により内部を大幅に拡張されたポーチである。

 見た目は小さなポーチだが、見た目の何倍もの容量を持つ、名前の通り、魔法のポーチである。

 ポーチの口も可変し、その気になれば、魔法の小袋マジックポーチに丸太を一気に数十本も詰め込むことが可能である。

 しかし、魔法の小袋マジックポーチに収納した物の重さは変わらないため、調子に乗って詰め込み過ぎると、重すぎて持てなくなるという欠点も存在する。

 また、希少な空間魔法を使っていることから、それなりの値が付けられている。


 リフィアの町への帰路につくレオネスであるが、視線を感じて足を止める。

 辺りを見回し、背の高い草むらに視線の主が潜んでいることに気付く。


 ある話を思い出す。

 アルブ平原には、まれに大牙虎ファングティガーが現れるという話だ。

 大牙虎ファングティガー、名前の通り、大きな牙を持つ虎型の魔物であり、倒すにはA~Bランク相当の実力が必要な危険な魔物である。


「血の匂いにでも惹かれたか? こっちは腰の角で動きづらいんだ、厄介だな」


 こちらの動きをうかが大牙虎ファングティガー

 大牙虎ファングティガーが動き出す前に、レオネスは角兎ジャッカロープの角を腰に結びつけるヒモを切り落とし、身軽になり、応戦の構えを取る。

 レオネスの敵意を察知した大牙虎ファングティガーは背の高い草むらから姿を現す。

 体長3メートルはあろうかという大牙虎ファングティガーは、その巨躯を露わにした。


「放っておいたら危険だ、悪いが仕留める!」


 大牙虎ファングティガーの飛び掛かりをかわし、蹴りを入れ反撃するレオネス。

 蹴りの反動で距離を取り、剣の弾丸・剣弾ソードブリットを数発放ち、牽制する。

 しかし、大牙虎ファングティガーは俊敏な動きで剣弾ソードブリットを避けながら距離を縮める。


「流石に速いな!」


 大牙虎ファングティガーの突進からの噛み付き攻撃を上空に飛び、かわすレオネス。


「だが、これで終わりだ!」


 魔力を剣状に収束し、魔力剣・魔刃剣フォースエッジを形成、落下の勢いを利用して、大牙虎ファングティガーを斬り裂く。


──アルハザード流剣術・剛衝破ごうしょうは


 闘気をまとい、振り下ろされた剛剣は敵を斬り裂き、闘気は衝撃波となり、敵を吹き飛ばす。


 レオネスの魔刃剣フォースエッジ大牙虎ファングティガーを脳天から一刀両断し、確実に絶命させた。

 レオネスは大牙虎ファングティガーの爪と牙を素材として採取し、死体を埋葬する。


「悪いな、流石にお前は食えないし、町に持ち帰るだけの装備もないんだ」


 レオネスは大牙虎ファングティガーの埋葬を終え、角兎ジャッカロープの入った袋を右手に、大量の角をヒモで一つに結び直し、左手に持ちリフィアの町へと帰還する。



◆◆◆



「あれは剣魔法!? 兄さん以外で使える人、初めて見たかも……」


 レオネスと大牙虎ファングティガーとの戦いを木陰から見ていた少女が呟いた。

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