第8話 剣の魔術師 ~新たな居場所~

 今回の依頼の場所はガニアラン洞窟と呼ばれる迷宮ダンジョンである。

 洞窟内は広めの空間であり、十分に武器を振り回す余裕がある。

 また、魔力の結晶である魔晶石が鈍い光を放ち、光源となり、明るさも確保されている。

 出現する魔物も強くなく、まさに、初心者向けといった難易度の迷宮ダンジョンである。

 ただし、魔物の数はそれなりに居るため、油断をすると痛い目を見る事となる。


「魔石の回収が目的なら、魔石を落とす魔物なら、何を討伐しても良いってことか」


「うん、片っ端から倒せばすぐに終わるよ」


 物騒な事を言うミレスに苦笑いを浮かべるレオネス。

 二人は洞窟の奥へと歩を進めて行く。


「ゴーレムか」


「じゃ、やりますか!」


 ゴーレムと遭遇した二人は戦闘態勢へと移る。

 レオネスは剣を抜き、ゴーレムとの距離を詰める。

 レオネスを近づけさせまいと、パンチを繰り出し応戦するゴーレムだが、パンチはレオネスには当たることは無く、接近を許してしまう。

 レオネスは姿勢を低くし、ゴーレムの両足を斬り裂き、ゴーレムを転ばせ、動きを封じる。

 すかさず、ミレスは火魔法・フレイムボムを発動させる。

 ミレスの放った炎弾はゴーレムに直撃し、爆発する。

 爆発により、ゴーレムは粉々に砕け散り、魔石を残して消滅する。


「やったな」


「うん。でも、誘った私が言うのもアレだけど、私いらなくない?」


 ゴーレムは岩で出来ており、堅いため、物理攻撃より、魔法攻撃を行うのが定石だが、レオネスは容易くゴーレムの足を両断した。

 魔法により止めを刺したミレスだったが、自分が魔法で攻撃せずとも、レオネスならばゴーレムを八つ裂きに出来たのではないかと考える。


「そうか? 俺はミレスが居た方が心強いけどな、属性魔法使えないし」


「そ、そう?」


 自分がいる事で心強いと肯定され、ミレスは照れと少しの恥ずかしさから、わずかに頬を赤く染めた。


「魔石はまだ足りていないんだ、どんどん行こうぜ」


「うん」



◇◇◇



 二人は迷宮ダンジョンを進み、魔物を倒し、魔石を集める。

 収集した魔石は20個を超えるが、必要な30個にはまだ届いていなかった。


「結構な数、集まったな」


「もう少しだね」


 ミレスはあることを確認するためにレオネスを依頼クエストに誘った。

 それは大牙虎ファングティガーを剣魔法で倒した冒険者がレオネスかどうかを確認するためである。

 しっかり冒険者の顔を見ていたため、十中八九レオネスで間違いないだろうが、目の前で剣魔法を使うところを確認しなければ、確信できなかった。

 しかし、レオネスは剣魔法を使うことなく、魔物を討伐していった。

 もしかすると、この人ではないのかも、そんな疑念から、ミレスは呟いた。


「うーん、剣魔法の人と違うのかな……」


 ミレスの前を歩くレオネスだが、ミレスの呟いた剣魔法の単語に反応し、足を止める。


「剣魔法がどうかしたのか?」


 振り返って聞くレオネス。


「実は、昨日、剣魔法を使ってる冒険者を見たんだ」


「へえ、剣魔法とは珍しい」


「それで、その冒険者がレオネスに似てたから声を掛けたの。剣魔法を使うところを確認したくて。でも、人違いだったかなと思って……」


「もし俺がその剣魔法の冒険者だったらどうする?」


 レオネスは少し意地悪な笑みを浮かべながら質問する。


「そりゃ、仲良くなって、剣魔法を教えてもらいたいよ。剣魔法ってメチャクチャ習得難度高いじゃん? 剣聖ディルコットの剣魔法の魔導書グリモアを読んだことあるけど難しくて……」


「剣聖ディルコット、か……」


「ごめんね、なんか騙すみたいな形になっちゃって。しかも、人違いだったみたいだし……」


 剣魔法の使い手と親密になりたいという目的を隠し、近づき、さらにはそれが人違いで、無関係のレオネスを連れ出してしまったと謝るミレス。


「なるほどな、それが本当の目的か。それなら、最初からそう言ってくれれば良かったのに」


 そういい、レオネスは魔力を収束、剣の形に形成し、魔刃剣フォースエッジを作り出す。


「これを見たかったんだろ?」


「剣魔法・魔刃剣フォースエッジ! やっぱり、あなたが……!」


 レオネスの剣魔法を目の当たりにし、眼の色が変わるミレス。


「ど、どうやったら使えるの!?」


「落ち着けよ、ここは迷宮ダンジョンだぞ? 帰ってからゆっくり話そう」


「わかったわ!」


 そういうとミレスはレオネスの前を歩く。


「何してるの? 早く依頼を終わらせましょう!」


「あ、ああ……」


 やる気に満ち溢れるミレスについて行くレオネス。

 ミレスは魔法で魔物を蹴散らし、必要な量の魔石を回収する。


「さあ、帰りましょう!」


「お、おう」


 ミレスのテンションに、剣魔法が使える事を黙っていた方がよかったのでは、と思うレオネスだった。



◇◇◇



 依頼を終わらせ、報酬を受け取り、報酬をレオネスとミレスの二人で分配する。

 二人はギルドの談話室で会話を始める。


「さあ、やることはやったわ!」


「そうだな、剣魔法の何を知りたい?」


「もちろん、剣魔法の使い方よ!」


 剣魔法は呪文や術式により発動する通常の魔法と異なり、感覚による部分が大きく、教えても習得できるか分からないと説明するレオネス。


「剣魔法の習得には高度な魔力操作の能力が必要だ。これが最初にして最大の壁だな」


 レオネスの説明の元、ミレスは魔力を剣の形に収束させようと試みるが、まともに魔力を収束させる事すらままならなかった。


「うぐぐ……、やはり特殊魔法。普通の魔法とは勝手が違い過ぎる……!」


「まあ、一朝一夕で身に付く魔法なら、今頃は剣魔法の使い手で溢れてるよ」


「でも、私は剣魔法を使えないと……!」


「なぜそこまで剣魔法にこだわる?」


 ミレスがレオネスに声を掛けた理由も剣魔法だった。


「私には兄がいるの。その兄は剣魔法の使い手で、私は剣魔法が使えなくて。習ってたアルハザード流も中途半端で、出来損ないだって。だから、剣魔法で見返したいの!」


 ミレスの剣魔法に執着する理由を聞き、少し考えるレオネス。


「ミレスは半端者でも出来損ないでもないさ」


「え?」


「剣魔法が使えないと出来損ないだって言うんなら、俺が剣魔法でその兄貴を倒して、お前の剣魔法は出来損ないだって言い返してやるさ!」


 レオネスの言葉に目を丸くするミレス。


「俺たちで組もう。それで兄貴を見返してやろうぜ!」


 兄に不出来だといわれるミレスに思うところがあるレオネスは、二人でクランを設立することを提案する。


「でも、いいの?」


「ああ。一緒に冒険した仲だ、もう仲間みたいなもんだろ?」


 レオネスはミレスに手を差し出す。

 ミレスは微笑み、レオネスの手を取り、クランの結成を承諾する。


 ここに新たなクラン『剣の魔術師ウィザーディング・ブレイド』が結成されたのだった。

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