第18話 激戦 ~牙獣の終焉~ (後編)

「あとは一人か」


 足元のツタを斬り払い、レオネスは呟く。


 左腕を剣弾貫転ソードペネトレイトに貫かれ、魔力の尽きたファニアは戦意を喪失していた。

 また、ラントンも乱れ撃ちにより矢を撃ち尽くし、弾切れ状態であった。

 ラントンは護身用の短剣を持っていたが、殴り飛ばされたクラムを見て、接近戦では勝ち目はないと戦意喪失する。


 タンクが気絶し、後衛の二人は戦意喪失したが、未だ闘志を燃やしている男が残っていた。


「どいつもこいつも役立たずどもが!」


 アランは懐から黒い液体の入った小瓶を取り出す。


「この前の悪魔の種エビルシードかっ!?」


「それはだめよアラン、戻れなくなる!」


 仲間の制止も聞かず、アランは悪魔の種エビルシードを飲み干す。


悪魔の種エビルシード、一時的に身体を魔物化して力を得る魔の薬、だったか。中毒性があり、精神を蝕むと聞くが、そんなものにまで手を出すとは……!」


 アランの身体は赤く染まり、筋肉は膨れ上がり、赤い蒸気をまとう。


「こレがちからダ!」


 アランは力任せにレオネスめがけて槍を振る。

 レオネスは飛び退き、槍を回避するが、レオネスが居た場所はクレーターが出来ていた。


 「次ハ当てル!」


 「次は無い、これで終わりだ!」


 レオネスは構えを取る。

 大地を蹴り、アランに向かい突進する。

 アランは槍を突き出し、レオネスを迎撃するが、槍はレオネスには当たらず、レオネスはアランの腹部を剣で刺し穿つ。


 ──アルハザード流、突襲迅とっしゅうじん


 レオネスの放った強烈な突きは、魔物化により強化されたアランの筋肉を貫く。


「さようなら、アランさん。野を駆ける牙獣ワイルドファングに誘ってくれて、ありがとう……」


 レオネスは剣を抜き、アランは地に倒れ伏す。

 レオネスが急所を外したことと、魔物化による防御力の強化でアランは命を落とす事は無かった。


 レオネスは戦意喪失したラントンとファニアに闘気を浴びせ、意識を失わせる。


「せめて、痛みは感じないように、な……」


 レオネスは野を駆ける牙獣ワイルドファング全員の両手の親指の骨を砕く。


「これはけじめだ。これで剣だろうが銃だろうが、武器はもう握れまい。あんたたちは冒険者としては、もう死んだも同然だ……」


 レオネスは捕縛した野を駆ける牙獣ワイルドファングをギルドに引き渡す。


野を駆ける牙獣ワイルドファングのリーダー、アランは悪魔の種エビルシードを持っていた。王国騎士団を呼んだ方が良い」


悪魔の種エビルシード!? 魔薬じゃないですか!」


 レオネスの報告に受付嬢は王国騎士団を呼び、フェレティスを含めた野を駆ける牙獣ワイルドファングのメンバーの身柄は王国騎士団へと引き渡された。


 依頼クエストを終えたレオネスは、宿屋へと戻って来た。


「おかえり」


 帰ってきたレオネスをミレスが出迎える。


「ああ、ただいま。少し疲れた……」


 そういって、レオネスは自室へと入って行った。


「……」


 ミレスはその背中を見守る事しかできなかった。



◇◇◇



 野を駆ける牙獣ワイルドファング討伐依頼より数日が経った。

 野を駆ける牙獣ワイルドファングのメンバーは王国騎士団に逮捕・連行されたが、フェリティスは悪魔の種エビルシードとは無関係であり、また野を駆ける牙獣ワイルドファングの被害者でもあるため、情状酌量の余地があるとして、取り調べののち、逮捕は免除され、釈放された。


「久しぶりねフェレティス」


「ミレスティアさん!」


 取り調べを終え、リフィアの町に戻って来れたフェレティスはミレスと再会する。


「レオネスさんは?」


「あれから部屋に引きこもっててね……」


「そうですか……」


 レオネスは二年間、苦楽を共にしたかつての仲間と対立・決別し、冒険者人生を終わらせた事に苦悩・葛藤し、この数日間、活動を休止していた。


「私たちにとっては悪い印象しかない野を駆ける牙獣ワイルドファングだけど、レオネスにとっては昔の仲間だものね」


「そうですね……」


 ミレスとフェレティスは剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドの宿泊する宿屋へと向かう。

 道中で人だかりが出来ていることに気付く。


「レオネスさんのおかげで、この町も過ごしやすくなりました!」


野を駆ける牙獣ワイルドファング討伐、ありがとうございます!」


「レオネスさんはこの町の英雄ですよ!」


 レオネスが冒険者に囲まれていた。


「俺は冒険者として、依頼クエストをこなしただけさ」


 少し困った顔で言うレオネス。


「レオネス!」


 ミレスを見つけたレオネスは冒険者をかき分け、ミレスの元へ向かう。


「もういいの?」


「ああ、もういいんだ。今の俺にはミレスがいる、剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドがあるからな!」


 レオネスはフェレティスがいる事に気が付く。


「フェレティス! 戻って来てたのか、色々と大変だっただろ?」


「いえ、大丈夫です」


「そうか? ま、三人揃ってることだし、依頼クエストの報酬で美味い物でも食うか!」


 レオネスの提案で三人はレストランへ向かうこととなる。


「フェレティスはこれからどうするんだ?」


「そうですね、また冒険者をしようと思ってはいるんですが……」


「じゃあ、うちに来ない?」


 フェレティスを剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドに誘うミレス。


「それはいい案だ。どうだろうフェレティス?」


「私でよければ、ぜひ!」


 こうして剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドに仲間が一人加わったのだった。

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