第52話 決戦前夜 ~それぞれの夜~

「準決勝第二試合、勝利の女神の剣フレイヤ・ソーズ王国騎士団精鋭部隊ロイヤルナイツディアス班の試合はディアス班の勝利です!」


「……やはり、ローゼリンデ、エリュティア、マリーネルの三人で片が付いたか」


「今までの試合でもジャックとディアスは出ていないみたいだし」


 ディアスたちの試合を観戦していたレオネスとミレスが呟く。


「ま、冒険者は未知の魔物との戦いなんて日常茶飯事だ。出たとこ勝負よ!」


「ルナリスさん、それ励ましになってます?」


 ルナリスが微妙な励ましを行っている間に、準決勝の結果が発表される。


「準決勝の結果はこちらになります!」


「激戦を勝ち抜いたのは剣の魔術師ウィザーディング・ブレイド! そして王国騎士団精鋭部隊ロイヤルナイツディアス班! 決勝進出はこの二チームです!」


「……いよいよだな」


「……だね」


 真剣な表情でトーナメント表を見つめる剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドのメンバー。


「さて、見るものは見たし、センジの様子を見に行くか」


 試合会場を後にし、センジの居る宿屋へと帰るレオネス。


「む、帰って来たか。その様子だと勝ったみたいだな!」


 部屋に戻って来たレオネスはセンジに声を掛けられる。

 レオネスとセンジの男部屋だが、ミレスたちも様子を見についてきていた。


「例の物は出来たのか?」


「ああ、バッチリだ!」


 センジは手に持っていた剣をレオネスに渡す。


「これが魔剣レグルスレクスだ、魔剣エメラルディアを基にレオネス専用に改良を施してある」


 センジが剣について説明する。

 レオネスが剣を抜くと、そこには禍々しさすら感じさせる真紅の刃があった。


「元から赤い刃か」


「ああ、魔剣レグルスの能力を強化している。常時強化形態と考えてくれると良い」


 レオネス達が七色の道標ビフレストと戦っている間に、センジは対ディアス用に魔剣レグルスを改良していたのだった。

 魔剣レグルスレクスの能力は魔剣レグルスから引き継いだ魔力による性能向上、これによりアルハザード流の威力が向上している。

 さらに、魔剣エメラルディアと同じく、魔力を吸収する能力を有している。

 魔剣レグルスレクスの方は剣に蓄積するのではなく、剣が吸収した魔力を使用者に還元する。

 そのため、魔法無効化と魔力回復を備え合わせるが、一度に大量の魔力を吸収すると魔力酔いを起こすデメリットも持っている。

 そして、センジが一晩掛けて魔剣レグルスレクスに施した強化能力が剣単体での属性付加エンチャント能力である。

 この能力により、属性魔法を使えないレオネスでも一人でアルハザード流の属性派生技が出せるようになったのだ。


「パーフェクトだ、魔剣職人ブラックスミス!」


「感謝の極み」


「……どっかで見たやり取りね」


 レオネスはセンジの顔をじっと見る。


「な、なんだ?」


「いや、ちゃんと寝たかと思って」


「そういや、魔剣レグルスを作った時は凄いクマ作ってたわね」


「ああ、それなら大丈夫だ。しっかり眠らせてもらった。なにせ、明日は決勝戦だからな。万全な状態でなくては!」


「私たちが戦ってる間に寝てたんですか?」


「良い身分ね」


 フェレティスとルナリスがジト目でセンジを見る。


「君たちが寝ている間に俺は働いていたからね!?」


 自分で自分をフォローするセンジ。


「ウソウソ、お疲れさまセンジ」


「全く……」


 センジの様子を確認したミレスたちは部屋へと戻り、レオネス達も明日の準備を行う。



◇◇◇



 夕食を終え、レオネスは宿の外でレグルスレクスを素振りしていた。


「さすがは俺専用というだけあるな、ずっとこの剣を使ってきたみたいに手に馴染む」


「あ、レオネスさん。何してるんですか?」


 レオネスの下にフェレティスがやってくる。


「魔剣の調子の確認をな。フェレティスは何してたんだ?」


「少し夜の散歩を」


 レオネスはレグルスレクスを鞘に納める。

 フェレティスは少し不安そうな表情をしていた。


「その、レオネスさん、勇気を分けてくれませんか?」


「え?」


 フェレティスの言葉に一瞬固まるレオネス。


「あ、いや! 何言ってんだろうな、わたしー!」


 フェレティスは赤面し、慌てて言葉を撤回する。


(思えば、明日は王国最強を決める戦いだ。不安にもなるか)


 レオネスはフェレティスの頭を撫でる。

するとフェレティスの猫耳はピコピコと動く。


「レオネスさん?」


「俺に出来るのはこのくらいだけど、少しは勇気を分けられたか?」


「! はい!」


 フェレティスは満足そうに頷く。

 会った時の不安げな表情も消えていた。


「俺はそろそろ戻る、フェレティスはどうする?」


「私はもう少し散歩します」


「そうか、ほどほどにな」


「はい」


 フェレティスと別れ、宿屋に入るレオネス。

 すると、宿屋のソファーにルナリスが座り、ぼんやりしていた。


「何してるんだ?」


「ん? レオネス? まあ、考え事」


 レオネスはルナリスの向かいに座る。


「なんだか、実感が無くてね。王国最強を決める戦いに参加してる、っていう」


 珍しく不安げな顔をするルナリス。


「そうだな。でも、それでいいじゃないか」


「え?」


「王国最強とか決勝戦とか、難しく考えなくていい。自分がやるべきことをやる、それでいいじゃないか」


 ルナリスの手を取り、ルナリスを見つめるレオネス。


「そ、そんな単純に考えられないから、こうしてるんだし!?」


 赤面して慌てるルナリス。

 大きな尻尾を振り、耳はピコピコと動いていた。


「でもまあ、その考え方は嫌いじゃないわ」


 ルナリスは立ち上がる。


「ちょっと元気出たわ。明日はお互い頑張りましょ」


 そういってルナリスは部屋へと戻って行った。


「俺もそろそろ戻るか」


 部屋へと歩を進めるレオネス。


「あ、レオネス」


「ん、ミレスか」


 廊下でミレスと会うレオネス。


「明日だけど、まあ、その、あれよね」


 もじもじしているミレス。


「まあ、廊下で、ってのもあれだ、入れよ」


「あ、うん」


 部屋に入るレオネスとミレス。


「あれ、センジは?」


「自分の武器の最終調整だってよ」


「そう」


 不安そうな顔をするミレス。


「明日、あのディアス班と戦うんだよね」


「そうだな」


「勝てるかな?」


「どうだろうな」


「どうだろうなって……」


「勝っても負けてもどっちでもいいさ、悔いが残らなければな」


 レオネスの言葉に目を丸めるミレス。


「そう気負うなよ、全力でぶつかって、その結果負けたとしても誰も文句は言わない。言う奴が居たら俺が斬る」


「ふふ、物騒ねぇ」


 笑顔が戻るミレス。


「正直、みんなには申し訳ないと思ってるんだ」


「え?」


「剣聖を継ぐ戦いなら、俺とディアスだけでやれば良かったのに、みんなをこの大会に巻き込んでしまった……」


 珍しく弱気なレオネスにミレスは目を離せなかった。


「そんなことないよ、私たちは仲間だよ? レオネス一人でなんでも背負い込むこと無いよ。もっと頼ってくれていいんだよ?」


「そうか、ありがとう。そういってくれるミレスが仲間で良かったよ」


 微笑むレオネスを見て、顔を赤くするミレス。


「ど、どういたしまして……」


(始まりは野を駆ける牙獣ワイルドファングの追放、最悪といっても過言じゃない。でも、その結果、師匠と出会い、ミレスたちと出会えたんだ。俺はもう一人じゃない、剣の魔術師なかまがいる)


「そ、それじゃ、私は明日のために、そろそろ寝るから!」


「ああ、おやすみ」


 ミレスは赤い顔のまま部屋から去っていく。


「む、ミレス。来ていたのか」


「うん、おやすみ!」


「? ああ、おやすみ」


 ミレスと入れ替わりでセンジが戻ってくる。


「そろそろ寝るか」


「そうだな、明日のために早めに寝るか」


 レオネスとセンジは明日に備え就寝する。



──そして、夜は明ける。

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