第4話 旅立ち ~修行と別れ~

 レオネスとテューンが修行を始め、5年の時が経過した。

 出会った当初、15歳だったレオネスは20歳のたくましい青年へと成長し、アルハザード流、剣魔法ともに奥義を極め、免許皆伝を果たしていた。

 そして、師匠のテューンは床に伏していた。

 無理もない、テューンの年齢は109歳であり、アルハザード流の身体の魔力強化の恩恵で、外見は60歳程度だったが、レオネスと出会った時で既に104歳の老齢だったのだ。

 いかに剣魔法を極めた魔法剣士と言えども、人間である以上、寄る年波には勝てなかった。


「俺はもう永くは無い。この家の物は全てお前にやる。使える物は使え、売れるものは売れ」


「弱音なんて、師匠らしくないですよ……」


「かもしれんな。だが、悔いはない。俺の弟子は今まで剣魔法を習得できたことは無い。だが、最後の弟子であるレオネス、お前は剣魔法もアルハザード流も、全て身に付けた。俺の教えられることは全て教え、お前は全てを吸収した。もう思い残すことは無い、あとはお前の好きにしろ。広い世界を見て回るも良し、その剣才を以って武功を立てるも良し、だ……」


「師匠? 師匠ーッ!!」


 それが師匠テューンの最後の言葉だった。

 テューンは弟子の成長に満足し、109歳で老衰により、静かに息を引き取った。

 レオネスは独り、静かにテューンの葬儀を行った。

 テューンは独身であり、家族はおらず、孤独を好み、人里離れたエルネスの森に住んでいた。

 テューンの性格を尊重し、レオネスはテューンの墓を静かなエルネスの森に作った。


 テューンとの別れから一カ月、テューンの言葉に従い、家の物品を整理し、売れるものは売って換金し、旅の資金に充てる事にした。


「師匠、行って参ります」


 レオネスはテューンの墓前に静かに語り、そして歩き出した。

 レオネスには目標があった。

 それは世界を旅し、剣魔法の開発者であるテューンの弟子の名に恥じぬ剣士として功績を挙げる事である。

 レオネスの目標はテューンの最後の言葉、世界を旅する、武功を立てる、この二つに起因していた。

 この目標を達成するための手段として、冒険者という職業をレオネスは選んだ。

 かつては日銭を稼ぐために漫然と行っていた冒険者だが、今度は、はっきりとした目的のために冒険者となる。

 野望を叶えるための力は師匠から授けられた。



◇◇◇



 レオネスは実に5年ぶりに、かつて冒険者をやっていた町である『リフィアの町』を訪れていた。


「あれから5年か、この町も結構変わったな」


 レオネスがテューンの下で修業していた時は、週に一回、行商人が生活用品の販売に訪れていたため、買い物に困ることは無かった。

 そのため、5年間、エルネスの森から出る事が無かったので、レオネスが町に訪れたのは実に5年ぶりだった。


「ギルドの位置は変わっていないな。だが、見た目は随分変わったもんだ」


 レオネスが知るギルドの施設は木造の建物だったが、現在のギルドは木だけでなく、レンガや石などを使った、しっかりした造りの建物に変わっていた。


「なんだか、緊張するな……」


 ギルドの扉を開き、中へと入る。


(おお、内装も綺麗になってる!)


 ギルドの施設内も大きく様変わりしていた。

 レオネスが利用していた頃は、依頼掲示板クエストボードと簡素な受付があるだけだったが、現在は依頼掲示板クエストボード依頼クエストの受付に加え、換金所、待合室、そして飲食が行える喫茶コーナーまで設置されていた。

 また、受付嬢も昔は事務的な対応であったが、現在は笑顔で丁寧に対応してくれる。


(昔はもっと殺伐としてたからな、今の方が雰囲気が良い)


 山に籠って修行している間に、ギルドは大きく変わったものだと思うレオネスだった。


 レオネスは依頼掲示板クエストボードから一枚の依頼書を取る。

 難易度Bランク、魔熊イビルベア討伐依頼。

 魔熊イビルベア、レオネスがテューンと出会うきっかけとなった魔物である。

 今のレオネスでは正直、魔熊イビルベア程度では相手にならないが、昔を思い出し、腕慣らしを兼ねて、この依頼を受注しようと決めたのだった。


魔熊イビルベア、俺一人で倒して見せる。師匠、見ていてくれ」


 レオネスは静かに呟いた。

 そして、依頼クエストを受注すべく、受付へと依頼書を持っていく。


「これを」


依頼クエストですね! ギルドカードの提示をお願いします」


「え?」


「え?」


 受付に依頼書を渡すと謎のカードの提示を求められ、困惑するレオネス。

 そのレオネスの反応を見て困惑する受付嬢。


 レオネスの知らぬ5年の間にギルドのシステムは変わっていたのだった。

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