魔剣術師冒険譚~無能と呼ばれ、パーティを追放されたが、魔法剣士に拾われて才能開花、剣術無双で成り上がる~

シン01

第1話 追放 ~一人の旅立ち~

 とある宿屋の一室。

 三人の青年と一人の少女、そして一人の少年が円卓を囲んでいた。


「レオネス、お前は今日でクビだ」


 一人の青年が少年に向かって、非情な宣告を下す。


「え、ちょっと待ってくださいよ! どういうことですかアランさん!?」


 クビだといわれた少年、レオネスは納得がいかず、クビを宣告した青年、アランに抗議する。


「どうもこうもないよ、戦えない奴はこのクランにいらない」


 アランとは別の青年、ラントンが横から口を挟む。


「俺たちのクランはAランクに昇格した。これまで以上に困難な依頼クエストに挑むことになる。戦えない者は邪魔なのだ」


大柄な体格の青年、クラムがレオネスのことが不要な理由を話す。


「そんな、戦闘員じゃない僕にだって、今まで役割はあったじゃないですか!」


 多勢に無勢、だがレオネスは未だ納得していなかった。


「そう、今までは、ね。これからはいらない、それだけよ」


 紅一点の少女、ファニアが冷たく告げる。


「そう、ですか……」


 もう、レオネスには反論する気力はもう無かった。

 自分を除く、全員が自分を不要というのだ、そうなのだろう。


「まあ、俺たちも悪魔じゃない。荷物をまとめる時間も必要だろう。だから、明日まで待ってやる。だが、明日中にはこの『野を駆ける牙獣ワイルドファング』から出て行ってもらう」


「分かり、ました……」


 アランの言葉を聞き、失意の中、レオネスは席を立ち、自分の部屋へと戻って行った。



◇◇◇



 翌日の早朝、レオネスは荷物をまとめ、クラン『野を駆ける牙獣ワイルドファング』の拠点となる宿屋を後にした。

 レオネスは行く当てもなく、広場のベンチへと座る。


「どうして、こんなことに……」


 レオネスは溢れる涙をぬぐいながら呟いた。

 突然の解雇通告に対する怒りより、苦楽を共にしてきた仲間から必要無いと言われた悲しみの方が増さっていた。

 早朝のため、幸い周囲に人はおらず、すすり泣くレオネスをいぶかしむ者はいなかった。

 レオネスは独り、今までの野を駆ける牙獣ワイルドファングでの思い出を思い返す。



 レオネス・レオルクスは冒険者であり、クラン『野を駆ける牙獣ワイルドファング』の一員だった。

 冒険者とは、依頼クエストを受け、未開の迷宮ダンジョンを捜索したり、魔物モンスターを退治したりする者の総称である。

 冒険者にはE、D、C、B、A、S、SS、SSSまでの8ランクが存在し、活躍度によってランクが決まる。

 危険が伴う代わりに、腕を上げ、高ランクとなれば、報酬も跳ね上がり、一攫千金も夢ではない。

 そのため、富や名声を求めて冒険者を志す者も少なくはない。


 クランとは冒険者の集団であり、パーティーともいう。

 こちらも冒険者と同様にEからSSSのランクがある。

 冒険者ランクが個としての強さの指標なら、クランのランクは集団としての強さの指標となる。


 レオネスは『野を駆ける牙獣ワイルドファング』の回収者レトリーバーだった。

 回収者レトリーバーとは、冒険者の補助職であり、戦利品の回収や予備の武器の運搬、荷物持ちなどを行い、冒険者の負担を減らすことが役割である。


 流行病で両親を亡くしたレオネスは、生活費を稼ぐ為に冒険者となり、結成から間がなく、人員募集を行っていた『野を駆ける牙獣ワイルドファング』に加入した。

 メンバーは槍使いでありリーダーであるアラン、タンク職の戦士クラム、弓使いラントン、魔法使いファニア、そして回収者レトリーバーのレオネスで構成されていた。

 レオネスを除く他メンバーはある程度の戦闘訓練を積んで冒険者となったいたが、最近まで農家であり、戦闘訓練も積んでいないレオネスとの力の差は大きく開いており、レオネスは最年少な事もあり、荷物持ちなどの補助に回ることとなった。

 野を駆ける牙獣ワイルドファングに加入してからの二年間、様々な冒険を行ってきた。

 辛い事も悲しい事もあったが、仲間と共に乗り越えてきた。

 そんな日々がこれからも続くと思っていた。


 ──レオネス、お前は今日でクビだ──


 現実は残酷だった。



 思い出に浸っていたレオネスだったが、ぐぅ~という腹の虫により、現実に帰ってくる。


「そうだな、仲間が居なくても腹は減るよなぁ……」


 レオネスは立ち上がり、軽く顔を叩き、気合を入れる。


「悲しんでいたって仕方が無い、これからの事を考えないと!」


 新しい宿屋の確保やメンバー募集のクランが無いか探すなど、やることは山積みだった。


「とりあえずは、朝ごはんかな」



◇◇◇



 朝食を摂ったのち、レオネスはギルドを訪れていた。


 ギルドの施設内は簡素な受付と巨大な掲示板が特徴的だ。

 掲示板には依頼クエストの他に、クランメンバーの募集の広告なども載っていることがある。


「メンバー募集のクランは、無しか。はあ、一人でなんとかするしかないか」


 残念なことに、メンバー募集の広告は無く、レオネスは独りソロで依頼をこなしていかなければならなくなった。


「すみません、これをお願いします」


 レオネスは依頼掲示板クエストボードから一枚の依頼書を取り、受付に提出した。


「薬草採取の依頼ですね、受注いたしました」


 受付嬢は事務的に対応する。

 薬草採取、採集依頼と呼ばれる目的の品を採集する、比較的簡単な依頼である。

 簡単なため、報酬は少ないが、回収者レトリーバーで非戦闘員だったレオネスに魔物の討伐はほぼ不可能であるため、危険度の低い採集依頼を選ぶ事となった。


「先に依頼をこなして、その報酬で宿を取ろう。貯金はあんまり崩したくないからね」


 レオネスは薬草採取に近くの森へと出かけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る