第11話 過去 ~在りし日の思い出~ (前編)

 レオネスとミレスはレストランでの食事を終え、宿屋に戻って来ていた。


「レオネスと野を駆ける牙獣ワイルドファングって、どういう関係なの? 知り合いぽかったけど」


 ミレスは率直な疑問を投げかける。


「昔の仲間さ。いや、仲間と思っていたのは俺だけか?」


「どういうこと?」


「そうだな、順を追って話すとだな……」



◆◆◆



 13歳であったレオネスは流行り病で両親と死別し、天涯孤独の身となった。


「僕はこれからどうすれば……」


 レオネスはこれから自分で自分を養わなければならない。

 しかし、子供である自分にできることなど限られている。


「そうだ、冒険者になろう!」


 そこで、目を付けたのが冒険者だった。

 冒険者は特別な資格は要らず、12歳以上で義務教育を終えていれば誰でもなる事が出来る。

 また、腕を上げれば報酬は思いのままという、夢のある話もある。


「上手くいけば、冒険者として有名になれるかもね」


 そうしてレオネスは住んでいたミハルゲンの村を旅立ち、冒険者の集うリフィアの町へとやってきた。


「うーん。武器は使えないし、僕じゃ魔物は倒せない。どうしようか……」


 ギルドを訪れたレオネスは、いかにして生活費を稼ぐかを依頼掲示板クエストボードの前で悩んでいた。

 そんなレオネスに声を掛けたのが野を駆ける牙獣ワイルドファングのリーダーであるアランであった。


「君、クランを探してるんなら、ウチに入らないか?」


 結成して間が無い野を駆ける牙獣ワイルドファングは人手を求めていた。


「良いんですか?」


「ああ、ぜひ入ってくれ」


 レオネスが問い、アランが答える。


「俺はアラン、こっちのデカいのはクラムだ」


「よろしく」


「僕はレオネスです。よろしくお願いします!」


 メンバーはリーダーのアラン、タンクのクラム、回収者レトリーバーのレオネスの三人であった。

 初依頼クエストをこなし、再びギルドへと戻ってきた三人。


「戦力的に後衛のメンバーが欲しいところだな」


「たしかに」


 アランの言葉にクラムが同意する。

 初依頼クエストを終え、三人では戦力不足を感じていた。


 メンバーの募集を続け、弓使いのラントン、魔法使いのファニアが加わり、クランの戦力バランスが整った。


「前衛が二人、後衛が二人、そして回収者レトリーバー。理想的なクランだ!」


 アランは新しくなった野を駆ける牙獣ワイルドファングのメンバー構成に満足した。


 レオネスを除く四人は戦闘訓練を行い冒険者となっており、自身の職業の武器の扱いに習熟していた。

 対してレオネスは、戦闘訓練などしたことが無いため、戦闘に参加する事が出来なかった。

 また、レオネスは13歳であり、他のメンバーはそれぞれ、アランとクラムが16歳、ラントンが15歳、ファニアが14歳で、レオネスが最年少であった。


「アランさん、本当に僕が野を駆ける牙獣ワイルドファングに入って良かったんですか?」


 経験の無いレオネスは野を駆ける牙獣ワイルドファングに居てもいいのか不安であった。


「何言ってるんだレオネス。お前がいてこその野を駆ける牙獣ワイルドファングだ」


アランはレオネスも野を駆ける牙獣ワイルドファングに必要な存在だと言ってくれた。


 その言葉に子供かつ、何の経験もないレオネスは、自身をクランに誘ってくれたアランに恩義を感じ、戦えないなりに、頭を使って立ち回り、役に立とうと努めた。


「恩を仇で返すような真似はしたくない、頑張らないと!」


 レオネスは回収者レトリーバーという冒険者の補助職でありながら、その枠に収まらない働きをするようになる。


「レオネス、あんた働き過ぎじゃない?」


 紅一点であり、年の近いファニアがレオネスの働きぶりを心配する。


「大丈夫ですよ、戦闘職の皆さんに比べればこれくらい」


「そう? まあ、無理はしないようにね」


「はい、ありがとうございますファニアさん」


 回収者レトリーバーとして、クランメンバーの荷物や予備の武器、戦利品の回収は当然として、冒険に必要な物の買い出し、後衛であるラントンとファニアの補助も務めていた。


「ラントンさん! 予備の矢筒です!」


「ああ、助かる!」


「ファニアさん、これで魔力を回復してください!」


「ええ、助かるわ!」


 戦闘時、レオネスはラントンには矢が尽きそうになれば、予備の矢を補充し、ファニアには魔法使用後に、魔力の回復を促進させるためにマジックポーションを渡す。


「アランさん、クラムさん! 後ろから三匹、増援が居ます!」


「おう!」


「承知!」


 さらに、レオネスは戦闘に参加しないからこそ、戦況全体を見渡す事ができ、前衛のアランやクラムにアドバイスを飛ばす事が出来た。


「俺たちはよくできたパーティーだよ、これからも頑張ろうぜ!」


 依頼を完遂し、アランが仲間を激励する。


 野を駆ける牙獣ワイルドファングのメンバーの各々がそれぞれの役割を全うする事により、メンバー、クラン共に短期間でEランクからCランクへと昇格を果たす。


「ランク昇格だ、やったな!」


「うむ」


「この短期間でランクアップか、めでたいな」


「この調子で行きましょう!」


 ランク昇格というアランの報告にメンバーは歓喜する。


 野を駆ける牙獣ワイルドファングは冒険を重ね、レオネスは荷物を背負い、後衛の補給、前衛への助言と走り回り、それで身体が鍛えられ、体力が付いた。


「みんなほどじゃないけど、僕も結構、体力が付いたな」


 回収者レトリーバーとして働き、身体も鍛えられ、体力もついたレオネスであったが、戦闘に関しては経験が無く、また、クランの前衛と後衛のバランスが取れているため、自身が戦おうとも思わなかった。

 数々の冒険を重ね、レオネスは充実した日々を送っていた。

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