第39話 一回戦 ~突破~

 リングへと上がったミレス。

 同じくリングへと上がるベルセリオンのメンバー。


「次の試合はー! ミレスティア選手対イレヌイ選手! 両者位置についてぇ!」


 ミレスの対戦相手は片目を隠した優男の剣士、イレヌイであった。


「始めぇ!」


 戦闘開始のゴングが鳴る。


「さっきの戦いを見るに、見た目によらず実力はあるみたいだね」


「そういう、あなたたちは見掛け倒しみたいだけど?」


「ふ、その手には乗らないさ。戦いは熱くなった方の負けだからね」


 イレヌイの言葉に挑発で返すミレス。

 しかし、イレヌイはミレスの挑発を受け流す。


(しかし、この女、なんなんだ? 出で立ちは魔法使いだが、剣を持っている。魔法使いなのか、あるいは剣士なのか、はたまた、魔法剣士か。正体がつかめない……)


 イレヌイはミレスの戦闘スタイルが分からず、手を出せずにいた。


「来ないの? ならこっちから!」


 ミレスは水魔法・ウォーターショットを発動させ、水の弾をイレヌイに撃ち込む。


「魔法で攻めて来た、魔法職か!」


 イレヌイはミレスのウォーターショットをかわし、距離を詰める。

 魔法で攻撃してきたミレスを魔法使いだと判断し、魔法使いの不得手である接近戦に持ち込む算段であった。


「いただき!」


 ミレスとの距離を詰めたイレヌイは突進突きを繰り出す。


「おそい」


 ミレスはイレヌイの繰り出した剣の側面を杖で弾き、剣の軌道を反らす。

 思わぬ反撃に突進の勢いを止められなかったイレヌイは無防備なままミレスに突撃する事となってしまう。

 ミレスは突っ込んでくるイレヌイの顔の位置に拳を置く。


「へぶぇ!」


 イレヌイはそのまま進み、ミレスの拳が顔面にモロに直撃してしまう。

 突進の勢いのままに顔面に攻撃を喰らい、頭から石のリングに倒れ込み、後頭部を強打、イレヌイはそのまま気絶する。


「おーっとぉ! これは瞬殺! イレヌイ選手のダウンによりミレスティア選手の勝利だー!」


 マオルゥによりミレスに勝利が告げられる。


「え? うそ、これで終わり!?」


 ミレスは剣すら抜かぬまま試合が終わってしまい、物足りなさを感じていた。

 悶々とした気持ちのまま、ミレスはリングを降りる。


「これで二勝だな!」


「そうだけど、なんだか物足りないわ」


「まあ、早すぎる決着だったな……」


 ミレスの勝利を喜ぶレオネスにミレスは勝負の物足りなさを呟く。

 それを聞いたセンジは早すぎる勝負の結果とミレスの感想に苦笑いを浮かべる。


「次は私ね。じゃ、行ってくるわ!」


「おう、多分これが最後だ、派手にぶちかましてやれ!」


 意気揚々とリングへ向かうルナリス。


「えー、それでは三戦目、ルナリス選手対レムラント選手です!」


 ルナリスとレムラントはリングに上り、位置に着く。


「バルリックとイレヌイはお前らの実力を見誤って倒されちまった。もはや夜のお楽しみ云々言っている場合じゃねぇな。殺す気で行くぜ」


 両手に斧を携えた屈強な戦士、レムラントはルナリスを殺すつもりで戦うと宣言する。


「ふーん」


 興味なさげに聞き流すルナリス。


「このアマァ!」


 ルナリスの態度に腹を立てるレムラント。


「それでは両者用意はいいですね?」


 マオルゥの言葉に二人は武器を構える。


「では、始めぇい!」


 ゴングが鳴り、試合が始まる。


「先手必勝!」


 レムラントは双斧を振り下ろし、衝撃波を起こしてルナリスを攻撃する。


「おっとっと!」


 ルナリスは横に飛び、衝撃波を上手く避ける。


「まだまだ!」


 ルナリスを狙い、さらに衝撃波を撃ち出し、追撃を行うレムラント。


「当たらない攻撃を繰り出したところで、……!」


 ルナリスは上空に飛び上がり、衝撃波をかわす。


「ちっ、気付いたか!」


 何発も衝撃波を撃つレムラントだが、直線的に進む衝撃波に混じって、追尾する魔力の衝撃波を撃っていたのだ。

 背後から迫りくる衝撃波の存在に気付いたルナリスは上空へ飛び、衝撃波を回避する。


「だが、狙い通りだぜ!」


 レムラントはルナリスの着地位置に向かい、迎撃の準備を行う。


「さあ、降りて来い!」


「うーん、やられたわねぇ」


 口ではそういいつつ、その表情は余裕の笑みを浮かべるルナリス。

 落下しながらルナリスは二挺拳銃を構え、落下位置にいるレムラントを攻撃する。


猪口才ちょこざいな!」


 ルナリスの魔力弾を斧で弾き防御するレムラント。

 しかし、防御に徹したことでルナリスの着地を許してしまう。


「ふん、このまま斬れば、……んん!?」


 ルナリスの着地を許したレムラントだが、ルナリスとの距離は近いため、そのまま斬りかかろうとするが、ルナリスが二人立っていた。


「さ~て、どっちが本物かな?」


 そう言い、二人のルナリスは左右それぞれの方向へと散開する。


「ふん、数が増えたところで!」


 レムラントは再び双斧を振り下ろし、衝撃波を繰り出す。

 しかし、今度の衝撃波は何方向にも枝分かれし、広範囲を攻撃する

 予想外の攻撃に二人のルナリスは衝撃波を喰らってしまう。

 衝撃波を喰らい、吹き飛ぶ二人のルナリス。


「おぉーっと! ルナリス選手ダウンか!?」


 吹き飛んだルナリスの方へ向かうマオルゥ。


「ヒェ!」


 マオルゥが近づくと、ルナリスは影となって消えた。

 吹き飛ばされたもう一人のルナリスも影となり消滅する。


「正解はどっちも偽物でした~!」


「な、貴様どこから!?」


 黒い炎を伴って、突如ルナリスはレムラントの背後、影の中から現れる。

 勝利を確信し、油断していたレムラントは背後に出現したルナリスに対応できず、ルナリスの魔力弾をモロに受け、場外に吹き飛ぶ。


「ひぃ~!」


 吹き飛んだレムラントはマオルゥのそばに落ち、マオルゥは悲鳴を上げる。


「あ~、ごめんね審判ちゃん」


「ひぇ~、勝者ルナリス選手です~!」


 自身の近くに突然、屈強な男が降ってくるという異常事態に遭遇しつつも、審判としての役割を果たすマオルゥ。


 試合に勝利し、リングを降りるルナリス。


「あれが言っていた幻術か」


「ええ、結構凄いでしょ?」


 出迎えるレオネスの言葉に得意げな顔をするルナリス。


「すごいんですよ、ルナリスさんの幻術!」


 ルナリスと共に修行していたフェレティスが付け加える。


「三勝したので、剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドは二回戦進出でーす!」


 マオルゥの言葉に客席から歓声が上がる。


「さて、約束通り向こうには美少女になってもらいましょうか」


 ベルセリオンは激しい憎悪の念を剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドに送っていた。

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