第30話 新たなる剣 ~魔剣レグルス~

 触手水蛇テンタクルヒュドラとの死闘を超え、無事、サンドゥの里へ帰還したレオネス達。


「ではこれからネメアーレオを鍛え直す。そうだな、三日ほど時間をもらおう」


「分かった、三日後に来るよ」


 三日後に訪れる事を約束し、レオネス達はマシャムニ工房を後にする。


「さて、これからどうしようか」


 宿屋に戻って来たレオネス達は今後の事を話し合うことにした。


「レオネスの剣が直るまでは、この辺の魔物討伐の依頼を受けましょう」


「そうだな」


 ルナリスの案に同意するレオネス。


「それじゃ、ギルドに行ってみますか~」


 レオネス達はギルドへ向かう。



◇◇◇



 センジは炉に採取した竜魔鋼ドラゴニウムを入れ、低い温度で熱し、時間をかけて竜魔鋼ドラゴニウムを溶かす。

 一度溶かし、不純物を取り除き、純度を上げる事により、竜魔鋼ドラゴニウムは粘り強く、硬くなるのである。

 熱された竜魔鋼ドラゴニウムの色を見ながら、適宜温度を調節する必要があり、センジは炉に風を送り、温度調節を行う。

 少しでも温度調整を失敗すれば、炉に入れた竜魔鋼ドラゴニウムが無駄になるため、センジは神経を研ぎ澄ませ、集中して竜魔鋼ドラゴニウムの色を観察する。


 時間が経ち、溶けた竜魔鋼ドラゴニウムが炉の底に溜まり始める。

 引き続き、センジは炉に風を送り、竜魔鋼ドラゴニウムを溶かす。


 炉に火をくべてから、実に三時間が経過する。

 その間、センジは炎の熱さに耐え、炉の世話をしていた。


「もういいだろう」


 センジは炉の底から溶けた竜魔鋼ドラゴニウムを取り出す。

 ドロドロに溶け、燃えたぎ竜魔鋼ドラゴニウムは炎に等しい熱を放っていた。


 時間を置いて竜魔鋼ドラゴニウムを冷まし、溶けた竜魔鋼ドラゴニウムの器を破壊して、精錬された竜魔鋼ドラゴニウムを取り出す。

 精錬された竜魔鋼ドラゴニウムに再び熱を入れ、槌で叩く。

 薄く延ばしては、折り返し、また叩く。

 何度も折り返す事によって強度が増し、残った不純物を叩き出す事が出来るのである。

 

 ──槌を打つ。

 

 力を込めて。


 ──槌を打つ。


 魂を込めて。


 ──槌を打つ。


 己の存在を込めて。


 鍛えられた竜魔鋼ドラゴニウムとネメアーレオの刀身を鍛接する。

 よく熱し、鍛接しやすくなったネメアーレオの刀身を鍛えた竜魔鋼ドラゴニウムで包む。

 一つの鉄塊となったネメアーレオを再び槌で叩き、元のネメアーレオの刀身と精錬された竜魔鋼ドラゴニウムを馴染ませる。


 棒状の鉄塊となったネメアーレオを熱し、叩き、冷やし、叩き、また熱する。

 ネメアーレオと竜魔鋼ドラゴニウムが馴染み、いよいよ剣の形を整える作業へと入る。

 熱して、槌で形を整える。

 棒状の鉄塊は徐々に剣の形へと成形されていく。


 荒い剣の形となった鉄塊にやすりを掛け、厚みを整え、表面を平らにする。

 この時に、曲がりやねじれも手直しする。

 そうして、剣の形となった鉄塊を泥に浸し、再び熱を入れる。

 泥により、鉄塊に均一に熱を通し、一気に冷却することで、硬く頑丈な剣となるのである。


 センジは水から剣を取り出し、形を確認する。

 形を確認し、剣を研ぎ、刃を作る。


 数度にわたり、研がれ、鋭い切れ味の刃が出来上がり、剣が完成する。


「さて、銘だが、どうしたものか」


 センジは剣の銘を考え、レオネスが使うことから、レオネスの『レオ』の部分から名前を取り、獅子を意味する『レグルス』と名付ける。


 こうしてレオネスの新たなる剣『魔剣レグルス』が完成したのであった。



◇◇◇



 約束の日、レオネス達はマシャムニ工房を訪れた。


「来たか、これがお前の新しい剣だ」


 センジはレオネスに魔剣レグルスを渡す。

 レオネスは受け取った剣を鞘から抜き、目の前に構える。

 そこには白銀の刃を携えた刀身があった。


「すげえ、あんなにガタガタになったのに、元通り、いや、元以上か」


 レオネスはセンジの仕事に満足していた。


「驚くのはまだ早い、魔力を込めて見ろ。魔剣の所以ゆえんを見せてやる」


 センジに言われた通り、レオネスは魔剣レグルスに自身の魔力を込める。


「刀身が赤くなった!」


 ミレスの言葉通り、魔剣レグルスは白銀から真紅の刃へと色が移り変わった。


「これは……!」


 魔剣レグルスの刀身の移り変わりに驚くレオネス。


「魔力に反応して、刀身が強化されるんだ。色が変わるのは想定外だったがな」


 ハハハ、と笑うセンジ。


「これは助かる、剣魔法との相性も抜群だ」


 レオネスは魔剣レグルスを鞘へと納め、腰に差している代わりの剣と入れ替える。


「これは返す、助かったよ」


 レオネスはセンジから借りていた剣を返す。

 剣を受け取ったセンジは、鞘から剣を抜き具合を確かめる。


「うむ? 触手水蛇テンタクルヒュドラとも戦ったし、他にも魔物と戦ったのだろう? にしては綺麗すぎるな」


「借りものだからな、剣魔法で保護して使っていたんだ。壊したらマズいだろ?」


「そんな事が出来て、どうしてネメアーレオがあんなことになったんだか……」


 剣が綺麗なままの理由を聞き、苦笑いを浮かべるセンジ。


「それで、これほどの業物だ。いくらくらいするんだ?」


 レオネスは財布を取り出し、センジに尋ねる。


「ふむ、支払の前に頼みがある」


「頼みって?」


「俺を剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドに入れてくれ」


 センジの申し出に目を丸めるレオネス達。


「願ってもない。ぜひ入ってくれよ!」


「うんうん、センジがいるといろいろと助かるよ!」


 レオネス達は快くセンジを迎え入れる。


「でも、どうして剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドに?」


 ルナリスがセンジに問う。


「ああ、剣聖を継ぐ者の活躍を間近で見てみたくなったからだよ」


 センジは、祖父が剣聖のために作った剣を振るい、剣聖に鍛えられたレオネスが、自身の鍛え直した、最高傑作と呼んでも過言ではない魔剣を、どのように扱うのか興味があったのだ。


「はは、俺はそんな大した奴じゃないさ。でも、ま、これからよろしくなセンジ!」


「ああ、こちらこそ頼む。仲間割引で魔剣レグルスの値段は半額にしておこう」


 そういって請求書を出すセンジ。


「うげ、半額でもこれかよ……」


 レオネスは苦い顔をして料金を納める。


「さて、では、仲間として最初の頼みだ。寝させてくれ……」


 センジは不眠不休で魔剣レグルスを鍛えたため、眼の下にクマを作っていた。


「おう、置いて行かねーから、しっかり寝ろ」


 こうして剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドに新しい仲間が加わったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る