第27話 魔剣術師 ~剣聖の弟子~

 石造りの厳かな雰囲気の工房、マシャムニ工房を訪れたレオネス達、剣の魔術師ウィザーディング・ブレイド一行。


「すみませーん、ゴドーさんいますかー」


 工房に入り、ゴドーを呼ぶレオネス。

 すると、工房の奥から人が出て来た。


「ゴドーは俺の祖父だが、3年前に亡くなったぞ」


 浅黒い色をした肌の背の高い、筋肉質な青年は答えた。


「あなたは?」


「俺はセンジ・ヴィレージライト。マシャムニ工房の鍛冶師だ。そういう君たちは何者だね?」


「ああ、俺たちは……」


 センジに何者か問われ、レオネス達は自己紹介をする。


「なるほど、剣の魔術師ウィザーディング・ブレイドか。とすると、レオネス、君が魔剣術師ソーディアか」


魔剣術師ソーディア?」


 センジから投げかけられた聞き慣れない単語に、顔を見合わせるレオネス達。


「本人が知らないとは……。エビルファングを壊滅させた新進気鋭の冒険者が、剣魔法の使い手だと噂になっている。剣魔法と魔術師、剣術などを掛け合わせて、魔剣術師ソーディアと呼ばれている」


「なにそれ、カッコイイ。今度からそう名乗ろう」


 本人の知らないところで付けられていた異名を気に入ったレオネス。


「私たちは、そういうのないのかな?」


 ミレスたちもレオネスの様な異名で呼ばれているのではないかと期待する。


「ふむ、『戦刀姫』と『ダブルガンズ』、『黒猫ブラックキャット』の異名も聞いたが、それは君たちだろう」


 センジはミレス、ルナリス、フェレティスを見て言う。


「ふーん、悪くないわね」


「今度からそう名乗ろう」


「二つ名持ちなんて、夢みたい」


 自分たちの異名に満足するミレスたち。


「話が脱線したが、マシャムニ工房に何の用なんだ?」


「ああ、この剣が修理できるか見てもらいたい」


 レオネスはネメアーレオを腰から外し、センジに手渡す。

 鞘から剣を抜き、具合を確かめるセンジ。


「ふむ、損傷が激しいな。だが、直せなくはないだろう」


「そうか! よかった」


 修理可能と聞き、喜ぶレオネス。


「しかし、この剣をどこで手に入れた。このネメアーレオは祖父が剣聖ディルコットのために鍛えた唯一無二の作品だぞ」


「これは師匠の形見なんだ」


「師匠の形見? 君の師は剣聖ディルコットだとでも言うのかね?」


「そうだ、俺の師はテューン・ディルコット。だから、俺は剣魔法を使えるんだよ。何せ開発者直伝だからな」


「「「えーーーっ!?」」」


 レオネスの師匠の名前にミレスたちは大いに驚いた。


「レオネスって、剣聖の弟子だったの!?」


「まあ、そうだな」


「なんで黙ってたの!?」


「聞かれなかったし、言う必要もないかと……」


 ルナリスの質問に答えるレオネス。


「剣魔法にアルハザード流、剣聖っぽいなとは思ったけど、まさか、剣聖の弟子だったとは。兄さんよりよっぽど剣聖の再来じゃない……」


 頭を抱えるミレス。


「レオネスさんって、すごい人だったんですね」


「ありがとうフェレティス。でも、凄いのは俺じゃなくて師匠だ」


 フェレティスはレオネスを称賛し、レオネスは礼を言うが、凄いのは師匠だと訂正する。


「剣聖の弟子がマシャムニの孫に剣の修理依頼とはな。俺たちは何か縁があるのかもしれないな」


「そうだな、俺たちも先代みたいな関係でありたいもんだ」


 センジは笑い、レオネスも因縁めいたものを感じていた。


「よし、ネメアーレオの修理、引き受けた。いや、俺の名に懸けてネメアーレオ以上の業物にして見せる」


「まかせた、期待してるぜ」


 センジは師であり、祖父であるゴドー・マシャムニの作ったネメアーレオを、それ以上の業物に鍛え上げることを決意する。


「それで、修理にはどのくらいかかるんだ?」


「ふむ、ネメアーレオは剣魔法との併用のために特殊な素材で出来ている。素材を取りに行くところから始まるから、結構かかるぞ」


「そうか」


「とりあえず、代わりの剣を渡しておこう。俺の作品だ」


 レオネスはセンジから、ネメアーレオの代わりとなる剣を受け取る。


「それじゃ、レオネスの剣が直るまで、この辺で依頼クエストを受けましょうか」


「そうだな」


 ミレスの言葉に同意するレオネス。


「それなら、君たちも素材採集を手伝ってくれ。人数が多い方が作業も早いし、荷物も多く持てるからな」


「そうか、分かった」


 レオネス達は、センジの素材採集に同行することを決める。


「では、俺は準備をしてくる」


 そう言って、センジは工房の奥へと入って行った。


「素材採集って何をするんだろうね?」


「洞窟に鉱石とか取りに行くんじゃない? 剣の素材だし」


 素材採集の事について話し合うミレスとルナリス。

 センジを待っている間、レオネスは借りた剣を鞘から抜き、素振りをして感触を確かめていた。

 フェレティスはその様子を眺めていた。


「待たせたな」


 センジは身の丈ほどある大剣を背負って戻って来た。


「センジも戦うのか?」


「ああ、武器の試し切りのために冒険者の資格も持っている。足手まといにはならんさ」


「いや、足手まといとかは思っていないけど」


 全員の準備が整い、サンドゥの里を後にする。


「ところで、どこに何を取りに行くんだ?」


「ああ、言ってなかったな。シシアンの港にある洞窟に竜魔鋼ドラゴニウムを取りに行くんだ」


竜魔鋼ドラゴニウム? もしかして竜と戦うの?」


 センジの言葉に不安を覚えるミレス。


「はは、竜魔鋼ドラゴニウムは竜の鱗に似た形の魔力伝導率の高い鉱石だ。竜とは戦はないさ」


 竜との戦闘は無いと聞き、胸をなでおろすミレス。


「まあ、大海蛇シーサーペント辺りとは戦うことになるだろうが」


「結局、海の魔物とは戦うのね」


 一行は談笑しながら、シシアンの港を目指す。

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