第54話 決勝戦 ~センジVSジャック~

「センジ選手対ジャック選手! 始めッ!」


 ゴングが鳴る。


「お兄さんが俺の相手かい? 強そうだなぁ、参ったなぁ、俺はディアス班の中じゃ下の方なんだけどなぁ」


 言葉とは裏腹に、ジャックの出で立ちは歴戦の騎士そのものであり、強い威圧感を放っていた。


「そうか。なら、俺は当たりを引いたわけだ」


 ジャックの威圧感に気圧されぬよう、言葉を返すセンジ。


「そういうわけだから、一つお手柔らかに」


 ジャックはその場を動かず、センジの出方をうかがう。


(防御主体か? なら、先に仕掛けさせてもらう!)


 センジは大剣を構え、炎の属性を付加する。


「フレイムドライブ!」


 大剣に炎を付加し、炎の斬撃を繰り出す。


「ほほう、炎の斬撃か!」


 ジャックは盾を構え炎の斬撃を受け止める。

 炎の斬撃が直撃、爆発し、周囲に黒煙が立ち込める。


(あれで倒せたとは思わないが……)


 黒煙が晴れる。

 そこには無傷のジャックが立っていた。


「……かわすまでもない、か」


 ジャックの余裕のたたずまいに歯噛みするセンジ。


「ならば、その防御、押し潰すまで!」


 センジは大剣に風をまとわせ、ジャックに斬りかかる。

 ジャックは盾を構え、センジの攻撃を防御する。


「むむ!」


 しかし、ジャックの頬に切り傷が付く。


「風の刃か、見た目よりも攻撃範囲が拡大されているな。それに動きも速くなっている」


 ジャックは冷静にセンジの攻撃を分析する。

 攻撃の手を止めないセンジ。

 センジは大剣を振りかぶり、土属性を付加し、強烈な一撃を繰り出す。

 盾で防ぐジャックだが、大剣の一撃を受け止めきれず、片膝を突く。


「ぐぬぅ、とんでもない一撃だな。腕が痺れるぜ」


 ジャックは盾でセンジの大剣を弾く。


「まだだ! ストームスタッブ!」


 センジは風をまとった突きでジャックを追撃する。

 ジャックは盾でセンジの攻撃を防ぐが、先程の一撃で盾を構える左腕が痺れており、センジの突きに押されていく。

 センジはジャックに攻撃される前に倒してしまおうと考え、攻撃の手を休めなかった。

 センジの突きは遂にジャックの盾を弾き飛ばす。


「くっ!」


 盾を弾き飛ばされたジャックはバックステップでセンジから距離を取る。


「困ったねぇ……」


「これで!」


 盾を失い、身を守る物が無くなったジャックに大剣の一撃を加えるセンジ。

 しかし、その一撃はジャックの拳に防がれる。


闘襲撃とうしゅうげき!」


 闘気を帯びた拳はセンジの大剣の一撃を跳ね返す。


「その技はっ!」


 センジは知っていた。

 闘襲撃とうしゅうげき、闘気を敵にぶつける技である。

 そう、ジャックはアルハザード流の使い手だったのだ。


「盾を捨ててからが本気ってわけね」


 試合を見守るルナリスが呟く。


「アルハザード流の使い手だったなんて」


 ミレスは不安げにセンジの戦いを見守る。


 センジは剣を構え直す。

 アルハザード流。

 仲間のレオネスとミレスの使う剣術であり、闘気を用いる無属性の魔法剣の流派。


「まさか、敵として出会うとは……!」


 アルハザード流の使い手と肩を並べて戦うセンジは、その力をよく知っていた。


「さあ、試合はここからだよ。観客を沸かそうじゃないか!」


 防御に徹していたジャックが踏み込み、攻勢に転じる。


「お返しだよ、剛衝破ごうしょうは!」


 ジャックの繰り出した長剣による強烈な振り下ろしの一撃をかわすセンジ。

 センジが居た場所はリングが抉れるように裂かれていた。


(かわして正解か、あんなものを受けては、身が持たん!)


 センジは風の刺突・ストームスタッブで反撃を試みる。


「突きの速さ比べかい? 付き合おう!」


 ジャックはセンジの風の連続突き・ストームスタッブを、同じ連続突きである瞬連突しゅんれんとつで受けて立つ。

 互いの高速突きが交差し、攻撃が攻撃を防ぐ。

 ジャックは突襲迅とっしゅうじんによる強烈な突きを繰り出し、センジは剣を盾にして防御する。

 しかし、突襲迅とっしゅうじんの衝撃により、センジは弾き飛ばされてしまう。


「まだまだぁ!」


 ジャックは裂破連刃衝れっぱれんじんしょうで無数の衝撃波を繰り出し、センジを追撃する。

 センジは風の刃で衝撃波を相殺し、裂破連刃衝れっぱれんじんしょうを防ぐ。


「飛び道具ならこちらにも!」


 センジはフレイムドライブで反撃する。


「いいね、それ」


 ジャックは炎の斬撃に闘襲撃とうしゅうげきの闘気をぶつけ、炎をまとう闘気の衝撃波、闘襲炎鬼とうしゅうえんきにしてセンジに跳ね返す。


「ストームリフレクト!」


 センジは風をまとった大剣を振り抜き、風の刃を発生させ、闘襲炎鬼とうしゅうえんきの炎を風の刃で跳ね返す。


「何だと!?」


 闘襲炎鬼とうしゅうえんきを跳ね返されると思っていなかったジャックは油断し、炎の斬撃、闘気の衝撃、風の刃が混合した攻撃が直撃する。


「ぐくぅ……、やりおるわ!」


 鎧の一部が砕け、火傷を負い、切り傷を負うジャック。

 頬を伝う血を拭い、剣を構え直す。


「疲れるから、あんまり使いたくないんだけどねぇ」


 ジャックは剣に闘気を集中させ、巨大な闘気の剣を作る。


断空竜破斬だんくうりゅうはざんを使うつもりか!」


 レオネスが声を上げる。

 断空竜破斬だんくうりゅうはざんとはアルハザード流の奥義と一つで、巨大な闘気の剣で敵を斬り裂く奥義である。


「ならばこちらも受けて立つまで!」


 センジは大剣に使える炎、風、土の三つの属性をすべて付加する。


「我流魔剣技・トライエレメント!」


 センジの大剣は炎と風をまとう巨大な岩の剣となる。


断空竜破斬だんくうりゅうはざん!」


 ジャックの闘気の剣が振り下ろされる。

 センジは3つの属性をまとうの剣を斬り上げる。

 ぶつかり合う二つの剣は凄まじい衝撃を発生させる。


「はああああぁぁぁぁ!!!」


「うおおおおぉぉぉぉ!!!」


 拮抗する二つの剣は、互いの攻撃を受け止めきれずに、強力な衝撃を発して弾き飛ばされる。

 発生した衝撃により、センジもジャックも吹き飛ばされる。


「トライエレメントを弾かれるとは……!」


断空竜破斬だんくうりゅうはざんを破られるとは……!」


 互いに奥義をぶつけ、決着がつかなかった二人。

 大技を出したセンジとジャックには疲労の色が見えていた。


「ならば、これで決める!」


 センジは弾き飛ばされた武器を拾い、ジャックに向かって駆けだす。


「決めるのはこっちだ!」


 ジャックも武器を回収し、センジに向かって駆けだす。

 二人はリング中央で剣を交える。

 単純な剣術の腕はアルハザード流の使い手であるジャックの方が上であり、センジは切り傷を作り、押されていく。

 ジャックの剣戟に押される中、センジは大剣に属性付加エンチャントを行う。

 繰り出された暴風の一撃はジャックの動きを封じ、業火の一撃はジャックの剣を弾く。

 そして、剛力の剣がジャックを吹き飛ばす。

 センジの一撃で、鎧を砕かれ、吹き飛ぶジャック。

 片膝を突き、立ち上がろうとするジャックだが、目の前に岩の塊が飛んでくる。


「なっ……!」


 センジは土属性をまとった一撃、ロックブレイカーを放ち、その衝撃で割れたリングの破片をジャックに向かって飛ばす。

 ジャックは破片と共に場外へ吹き飛ぶ。


「これで、どうだ……」


 大剣を杖にして、なんとかリングに踏みとどまるセンジ。


「大した奴だ、これで鍛冶師が本職とはな……」


 ジャックはリングへと戻ってくる。


「これでも倒れないのか……!」


 ジャックの耐久力に恐れを抱くセンジ。

 センジにはもう対抗する力は残されていなかった。

 よろよろと弾き飛ばされた剣の方へ歩くジャック。

 ジャックは剣を拾おうと屈み、そのままリングに倒れ伏す。


「おやー!? ジャック選手、限界かー!?」


 倒れたジャックに近づくマオルゥ。

 ゆさゆさと揺するが反応は無い。


「おーっと! ジャック選手気を失っております! よって、勝者センジ選手!」


 勝利したことで気が緩み、センジもリングに倒れ込む。

 倒れたセンジに肩を貸し、リングの外に運ぶレオネス。


「お疲れさん、よくやってくれた!」


「ああ。だが、次はもうごめんだ。俺は鍛冶屋だからな」


「ハハ……、センジが前線に立たなくていいように精進するよ」


 センジの言葉に苦笑いを浮かべるレオネス。


「じゃ、行ってくるわ!」


「頑張ってね!」


「頑張って下さい!」


 ミレスとフェレティスに見送られ、ルナリスがリングに立つ。

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