◇7
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……っはい! どうもっ! 〝ふるやん〟でーす!
〝ドット〟です! 〝せも〟です! 〝Nall〟っス!。
四人揃って~~~? ってオイ!(画面外からの声) オイ!(画面外からの声)
俺! 俺忘れとるって!(男が現れる)
うわ、幽霊⁉ 幽霊ちゃうって!
コワい!(他のメンバーが笑いながら逃げる)
いや逃げんなや!
「これ本編どこから始まりますか?」
「始まってるっちゃ始まってるんだけど……」
まぁおふざけはこれくらいにして、いつものね、五人でやっていくわけですけども。
では問題です! ここはどこでしょうか!
ふるやん家? なわけあるか!
いやでも割といい勝負、ふるやんのとこもボロいから
ボロ言うなよ! 大家が動画観てたらどうすんだよ!(一同爆笑)
……えーここはですね、心霊スポットとして有名なホテルで……
ヴヴヴヴヴ……!
え⁉ 何⁉
呪われている感を出そうかと
呪われている感?
何? 何て?
ビビるからやめろって!
「飛ばしますね」
わたしは、タブレットに映っている動画のシークバーをスライドさせた。目の前にいる〝四人〟の男たちは何か言いたそうにしていたが、知ったことではない。
廃墟の前でやいのやいのしていた彼らはやがて、瓦礫まみれの内装を懐中電灯で照らしながら中へと侵入した。奥へと進む最中、かつてこのホテルが辿った顛末——〝事故〟と〝自殺〟……そして、ここ最近になって発生しているという〝事件〟——彼ら同様、この場所を冷やかしに来た人間が行方不明になっているらしいという噂——について話しながら、彼らはひとしきり怯えた(ようなフリをした)り、お互いを揶揄ったりしていた。
「……ここ、っス」
動画残り時間が五分の一程度に差し掛かった辺りで(結局あんまり意味のないところも大分観てしまった)、男の一人がそう言った。
最初こそおっかなびっくりで進んでいた彼らだったが、とはいえ時間が経つにつれ、代わり映えのしない崩壊した景色に、退屈しているようだった。それでも何とか場を持たせようとしているのか、彼らは好きな寿司ネタのなんかをし始めていた。
そして、唐突に——〝音〟がした。
どさっ、という音、続いて「あれっ」という声。どちらも、カメラの端の方を歩いていたメンバーが、発していたもののようだった。
うおっ、どうした?
マジでビビったんだけど ドットか?
転んだ?
気を付けろよな
まぁ、美味しんじゃね? あっ、思ったんだけど、わざと全員転んでさ、サムネに〝ヤバイこと起きました〟っていうのアリじゃない?
どうにもならなきゃワンチャン……おい、もういいから、立てって——————『ねぇ』
『おれ』 『いま』 『どう』 『なってんの』
最後に激しい音を響かせ、動画は終わった。それは〝残った〟メンバーの叫び声や、逃げた時にカメラが壁にぶつかった音のようだったが、それもまた、知ったことではなかった。
そんなことよりも、重要なのは——
「〝足が無かった〟ね、彼」
「というより、腰から下? が無かったように見えたけど……なんか既視感あんのよね、なんだっけ? 姉さん知ってる?」
「ソフビ人形じゃないかな? おもちゃ売り場の、ヒーロー系でよくあるやつ。あれって上半身と下半身が分かれてるからさ」
「あー、たぶんそうかも」
「…………」
わたしの後ろで不謹慎な感想を漏らす織草姉妹。突っ込みたくなる気持ちを抑え、わたしは動画の該当箇所まで戻り、一時停止してそれを確認した。
この日、ハートキャッチに予約なしの訪問があった。
現れたのは二十代くらいの四人の男たち、彼らは〝五カッケー団〟と名乗り、動画投稿活動をしているのだと語った。そして、先の動画を——心霊スポットに行き、メンバーの一人が〝行方不明〟になるまでの一部始終を——見せてきたのである。
「警察に言っても信じて貰えないだろうし、寺とかに相談したら……怒られそうだし、それで、色々調べて……」
「ここに来た、と」葵さんが頷いた。
「もうこんなことはしないって約束するんで! ただドットが帰ってくればそれでいいんす! だから……だから、なんとかしてくんないっすか!」
リーダー各の男(ふるやん、だったか)はそう言って、泣きそうな顔をしながら頭を下げた。他のメンバーも「お願いします!」と次々に頭を下げ始めた。
今日のところは返事を保留し、依頼人たちには帰ってもらった。
「どうやらハートキャッチも〝この手〟の関連で出てくるくらいの知名度にはなったようだね。帷ちゃん、感慨深いとは思わないかい?」
「猫探しも嫌いじゃないですけどね。猫は……普通の猫は可愛いので」
おやおや、と葵さんはわざとらしく笑うと、コーヒーを自分のカップに注ぎ始めた。
わたしは、動画の最後の部分だけをスローで繰り返し再生し、何か新しく判明するものが無いかを探した……が、やはり暗くて荒い画質の中に映っているのは、上半身だけの状態で横たわった男だけだった。
「ま、この動画だけじゃ、被害者の様子はわかっても、心霊現象なのか……化心の仕業なのか……そこに至る経緯や原因はわかんないわね」
わたしの後ろから画面をのぞき込みながら、椛さんが言う。
「化心は動画に映らないんですか?」
「映んない。感情は撮影できないでしょ。……あ、でも幽霊って写真に写るんだっけ、じゃあ見えないってことは、化心なのかも」
「化心だとして……誰もいないホテルに現れた、というのが気にかかるね。化心の行動原理は大抵の場合〝人間を襲う〟ことにある……その化心自身が望む望まないにかかわらずね。故に、人気の無いところに——言い換えれば、餌の無いところに現れるのは、不可解だ」
「野生の化心……だとしたら?」
「野生を知ってるのかい? ……あぁ、椛から聞いたのか。うん、たとえ野生だとしても……むしろ野生ならなおさら、人が多くいる場所に生まれるはずだよ。だから……やっぱり、廃墟と化して時間が経ったこの場所に化心が出てくるのは、普通では考えられない」
で、あれば。
普通ではない要因がそこにはある。
葵さんはそう言いたいのだろう。
そこまで誘導されれば、わたしにもこの事態について、多少の検討はつくというものだ。
「斐上と空骸……ですか」
「化心に関して妙なことを企てているとすれば、例の魔術師たちを疑わざるを得ないかな。……ちなみに、ここ最近だけど、化心絡みと思われる相談が結構来ているんだ。ほらこれ、メールフォーム。まったく嬉しい悲鳴だよ」
葵さんがわたしの持っているタブレットをスワイプし、メールアプリの画面に切り替える。未読の内容がおよそ十件ほど、かつての閑古鳥が鳴いていた時とは打って変わった盛況ぶりだった。
「これも、魔術師が関係しているんでしょうか」
「どうかな。いずれにせよ、ここは手分けして仕事をしないといけない……というのが現状だ。依頼人を待たせるのも忍びないからね。ホテルの調査は任せるよ、もし化心だったら、ちゃっちゃと退治しておいてくれ」
「…………」
簡単に言ってくれるなぁ。
続いて葵さんは、椛さんの方を向き、またしてもメールの画面を提示した。
「椛はどの依頼にするんだい? できれば厄介そうな奴を選んで欲しいな」
「なんで私が姉さんの仕事を手伝わなきゃなんないのよ」
「ここにいるつもりなら、当面の生活費は必要だろ? 仕事を斡旋してあげようっていう私なりの親切心だよ」
「それ、姉さんがさっさと
「それじゃあ椛は、困っているこの人たちを見捨てろって言うのかい?」
「……む」
「しばらく会わないうちに、私の妹は随分と薄情に——ああ、いや、言い方としては適当じゃなかったかな。当主として、合理的になったようだね」
「…………」
「責めるつもりはないさ。しかし、平安の世から続く正義の使命、無辜の人々を救うという尊い信念を持った織草の血を引く者としては、やはり心苦しいものが——」
「はいはいわかったわよ! あの二人をとっちめるまでは、
タブレットをひったくって片っ端から返信し始める椛さん(チョロい……)。葵さんも画面をのぞき込み始めたので、わたしも後ろにまわって二人と一緒に確認することにした。
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