◇10

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 廃墟に、男女がいた。

 男はスーツを着ており、がっしりとした体格をしていた。額や目元に深く刻まれた皺が、年齢の高さを思わせた。

 対照的に、女のほうは若く、サイケデリックな柄のTシャツを着ていた。女はスマホの画面を見ながら、きひひと下品に笑っていた。

斐上ひがみさん、これ見てよー! 長田美月からのメッセージ『お店を紹介してくれてありがとう』だってさ! あいつ、まだあたしのことを友達だって思ってるみたい! ウケる、そう思わされてるってだけなのにねぇ?」

「…………」

 名を呼ばれた男——斐上弦慈ひがみげんじは何も答えない。

 構わず、少女は言葉を続けた。

「化心と〝ストレンジャー〟を混ぜるのは上手くいったんじゃない? だからまぁ、一応実験は成功ってことで」

「…………」

「あー、もちろん言いたいことはわかるよ? 『結局殺されちゃったじゃないか』ってことっしょ? うーん、やっぱり2人分じゃクソザコなんかね?」

「…………」

「心の根っこが同じなら、混ざってもバグらないっぽいし、それなら次はいっそのこと100人くらい一気にやろうかなって。どうかな?」

「…………策はあるのか? くろ

 斐上がようやく口を開いた。

 重々しく、聞くだけで息が詰まりそうな声だった。

 斐上に問いかけられた少女——空骸黑からがいくろはその声を意にも介さず、より一層楽しげな表情をしてから「もち!」と答えた。




イルカの頭・蝶の翅 終

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