50話説教される?
勝気そうな瞳。
シュッとした輪郭。
手足が長く、モデル体型の身体。
量のある長い髪は茶色に染められ、サイドテールでまとめられている。
相変わらず綺麗なままの元カノの姿だった。
混乱する俺を他所に、話は進んでいく。
「由香里さん、お久しぶりっす」
「和也君、久しぶりね。すっかり良い男になったわね」
「あざっす! 由香里さんも相変わらず綺麗っす!」
「ふふ、ありがとね」
「おい? 和也?」
「まあまあ、兄貴。久々の再会なんですから、あちらで話して来てください」
「お、おい!?」
和也に背中を押され、奥の席へと連れて行かれる。
「ほら、由香里さんも」
「ええ、そうするわね」
よくわからない状況のまま、数年ぶりにテーブルについて対面する。
「じゃあ、俺は仕込みしときますね」
そういうと、和也はキッチンに戻っていく。
……一体、何がどうなってる?
「なに面白い顔してるの?」
「相変わらず失礼だな」
「せっかく男前なんだから、仏頂面ばかりしてるともったいないわよ?」
「ほっとけ。んで、なにしに来た?」
「いや、店を開いたって聞いたから」
「……和也か?」
俺はすでに連絡先を消している。
未練がましいのは好かんし。
「ええ、そうよ。私の後輩でもあるしね」
和也と俺の高校は一緒で、こいつも一緒だった。
ごくたまにだが、三人で遊んだりもしていた。
「そっか、和也が伝えてたのか」
「ええ。すぐにお祝いしたかったけど、今更どういう顔をしてお祝いしたらいいかわからなかったから、ひとまず放っておいたんだけど……まあ、軌道に乗って来たって聞いたし……何かグジグジ悩んでるみたいだから」
「な、何のことだ?」
「あれでしょ? 歳下の女の子に迫られて困ってるんでしょ?」
「くっ……和也め」
「和也君のせいにしないの。貴方が仕事を疎かにしたら、一番割りを食うのはあの子よ?」
……由香里の言う通りだ。
最近は上の空であることが増えている。
和也が仕事できるようになったとはいえ、それが俺が手を抜いていい理由にはならない。
「相変わらず手厳しいことで」
「貴方がうじうじしてるからでしょ? 普段は決断力や行動力があるのに、恋愛方面になるとてんでダメね。結局、付き合うときだって私が告白しなきゃ付き合わなかったでしょ?」
次々と言葉か飛んできて、俺の心に突き刺さる。
そうだ、こいつはそういう奴だった。
「いや、そんなことも……あるかもしれない」
「ねえ……貴方は私を好きだった?」
「……ああ、それだけは嘘じゃない」
過ごした日々は楽しかったし、後悔もしていない。
「ふふ、なら全部許してあげる。本当なら、次にあった時一発ぶん殴ろうかと思ったけど」
「おい?」
「だって、貴方……私が別れようって言った時、すんなりと受け入れるんだもの。引き止めるなり、何か言い訳をするかと思ったけどそれもなし。しまいには、連絡先も変わってるし」
「それは……俺が悪かったから。仕事を辞めて金なく、そんな男に付き合わせるわけには……」
「はぁ……相変わらず女心がわかってないわね。そりゃーお金があるに越したことはないわよ?でも女っていうのは、好きな男と苦労を分かち合いたいし支えたいのよ」
「そ、そうなのか……」
「はぁ……貴方ってバカよね」
「おい? どストレートが過ぎるが?」
「だって本当のことじゃない……貴方のお兄さん達は不幸だったの?」
「どういう……」
そこでハッとした。
そうだ、兄貴達にお金なんかなかった。
だが、幸せに暮らしていたじゃないか。
「気づいた? まあ、自分に置き換えると気づかないものよね。だから私は、それでも付いてきて欲しいって言って欲しかったのよ」
「そうか……すまん。俺は多分、逃げたんだと思う」
そう頼んだとして、断られることを。
そして仮に受け入れてもらったりなんかしたら……由香里を手放せなくなると。
そして……それを失うことを恐れたんだ。
「そう、それに気づけたなら良いんじゃない? さて、本題に入るとしましょう」
「へっ?」
「なに? 今更私が来て、もう一度付き合ってとか言うと思った?」
「い、いや、そんなことは……少しだけ」
「まったく、これだから男って奴は。自分を好きだった女が、いつまでも自分のことを好きだと思ってるんだから」
「うっ……面目無い」
「まあ、安心しなさい。で、その歳下の女の子と付き合わないの?」
「いや、でもあいつは……」
「義妹の春香ちゃんなんでしょ? 会ったことはないけど、よく聞いていたわね」
「ああ、そうだ。だから、そういうわけには……」
「なに? 世話になった兄夫婦を裏切るから?」
「あ、ああ……」
「それは確認したの?」
「いや、してない……」
「ほら、いつもそう。勝手に自己完結して。じゃあ、貴方の気持ちは? 何より、その子の気持ちは?」
「俺の気持ち……春香の気持ちか」
「そうよ、勇気を出して言ったはずよ。それをうだうだと言い訳して。私が惚れた男は、そんなつまらない男だったって思わせないでよ」
「由香里……」
そういう由香里の目には涙が溜まっていた。
「あれ……全く、やんなっちゃう。泣くような女は一番きらいなのに、つい昔を思い出しちゃったわ。とにかく、きちんと向きあいなさい。でないと、ぶん殴るわ」
ここまで言われて……俺は馬鹿だ。
自分ばかりが傷ついていると思い込んで……。
当時、由香里だって悩んだし傷ついたに決まってる。
「わかった。きちんと向き合う」
「そう、なら来た甲斐があるわ。じゃあ、これで帰るわね」
「えっ?」
「用は済んだから。じゃあ、元気でね……会えてよかったわ」
「そっか……ああ、俺もだ。由香里も元気でな」
「ええ、しっかりやんなさいよ」
それだけ言うと、店の外に出て行った。
……よし、覚悟を決めるとするか。
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