第24話春香の気持ち~春香視点~

 お兄ちゃんは大人の男の人なんだ。


 そんな当たり前のことに、今更ながらに気づいた。


 しっかりと、詩織を励ましてくれるし……。


 わたし一人だったら、一緒に泣いていたかも……。


 ちょっと鈍感なところはあるけど、私達のために色々配慮してくれている。


 それに……まだ二日間なのに、色々あったし。








「ふぇーん……どうしよう?」


 わたしは今、洗濯かごの前でおろおろしています。


「せ、洗濯物はやるって言ったのは良いんだけど……」


 料理は黙ってやった上に、失敗しちゃったし……。

 だから、洗濯物くらいならやったことあるからできるかなって。

 そ、それに……お兄ちゃんに下着を洗われるとか——ムリッ!!


「あぅぅ……! そもそも、なんで手に持ってるのよぉ〜! お兄ちゃんばかぁぁ……!」


 可愛くなかった!? サイズが小さい!?

 うぅ……お気に入りだし、それなりにはあると思うんだけど……。


「やっぱり、色気が足りないのかな?」


 どうしたら良いんだろう……?


「……現実逃避をしてる場合じゃないよね」


 そう、洗濯物を洗うと言うことは……。


「お兄ちゃんのパンツを洗うということ」


 そ、それはわかっていたんだけど……。

 家にいる頃は、よく見てたし……だから、平気かなって思ってのに。


「わたしって変態なのかな? ……なんでドキドキしてるの?」


 に、匂いとかあるのかな?

 そういえば……と、友達が言ってた。

 好きな男の人だと、匂いにも惹かれるって。


「か、嗅いでみる……? いやいや、それはないない」


「おねえたん?」


「ひゃい!?」


 振り返ると、詩織がドアから覗き込んでいた。


「どうしたお?」


「な、なんでもないのっ! これは違うのよっ!?」


「あうー?」


「ホラッ! ちゃっちゃとやっちゃうから!」


 勢いよく掴んで洗濯機にぶん投げる!


「よし! これで終わり!」


「へんなおねえたん……」


 うぅ……姉の威厳がなくなってる気がする。





 その後、お兄ちゃんのお店にいったり……。


 そこで綺麗な女の人がいたり……。


 ヤキモチ妬いちゃったけど……。


 全然、お兄ちゃんは気づいてくれない。


 そんな気持ちを抱えつつ、お兄ちゃんの店でお昼ご飯を食べてたら……。


「おねえたん、おじたんすごいお!」


「ねー! すごいねっ」


 さっきも覗いていたけど、お兄ちゃんの手際はすごい。

 なんというか……無駄がない感じ?

 あれやってる間にこれやって、それが終わる前にこれをやるみたいな……。


「何より……あれ好き」


「おねえたん?」


「う、ううん! お腹減ったね!」


「あいっ!」


 あぶないあぶない……。

 実はわたし……腕フェチなんです。

 もしくは血管フェチというか。

 お兄ちゃんの腕を捲り上げる感じ……格好いいです。

 引っ越しの時も、トランクを持ち上げる際に、血管が浮き出てステキだったなぁ。

 こんなこと恥ずかしくて言えないけど……変なのかな?




 そして、その際にとある事実が判明します。


 どうやら、お兄ちゃんにはお昼ご飯がないようです!


 これはチャンスです! お兄ちゃんにアピールしないと!


 家に戻り詩織を寝かせた後、早速台所に立ちます。


「何がいいんだろう?」


 麺類はダメだよね? 伸びちゃったら美味しくないし。

 ご飯ものも、出来立てが美味しいし。


「おにぎりとかサンドウィッチ?」


 そんな簡単なので良いのかな?

 でも、それなら食べやすいかも。





 ……さっきまでの自分を殴りたいです。


「お、おにぎりが丸くならないよぉ〜……」


 どうして? こっちを丸くしたら、違う場所が丸くならなくて……。

 サンドウィッチだって、具を作って挟むだけなのに……。


「お母さんやお兄ちゃんは、いつも簡単にやってたから……」


 もっと早くに教わっておけば良かったなぁ。

 わたしっていつもそう……後で後悔する。


「あぁ〜もう! お兄ちゃんの休憩に間に合わないよぉ〜」


 その後……何とか、不恰好な形だけど作ることができた。


「お兄ちゃん、喜んでくれるかな? 下手くそだけど、一生懸命に作ったもん……喜んでくれるよね?」


 わたしは、小さい頃お兄ちゃんに作ってもらえて嬉しかった。

 だから、今度はわたしがお兄ちゃんを喜ばせたい。


「我が家の家訓だもん。自分が嬉しいことしてもらったら、それを何かしらの形で返す。自分がされたら嫌なことはしない」


 お兄ちゃんの行動を見てると、それを実践している気がする。

 えへへ……お兄ちゃんも家族なんだなって思って嬉しくなる。





 勇気を出して、お店の前に来たんだけど……。


「ど、ど、どうしよう?」


 が、頑張れ! わたし! お兄ちゃんの休憩終わっちゃう!


 勇気を出してお店のドアをノックすると……。


 不思議そうな顔をしたお兄ちゃんがいた。


 お兄ちゃんは、基本的には無愛想だ。

 顔はカッコいいし背も低くないけど、少し威圧感がある。

 人によっては冷たいと思う人もいるらしい。

 多分、心のガードが固いってお父さん達が言ってた。

 それはお兄ちゃんが悪いわけではなく、そういった経験があるから……。

 だから、中々人を踏み込ませないって……。


「どうした?」


 でも知ってる。

 わたしを見る目のお兄ちゃんが笑っていることを。

 くしゃっと目がなくなり、わたしはそれが好き。

 何より……わたしに心を許してることが嬉しい。



 その後、お兄ちゃんは笑顔で美味しいって言ってくれた。


 色々指摘はされちゃったけどね。


 よーし! お兄ちゃんが笑顔でいられるように頑張らなきゃ!


 だって、お兄ちゃんが……わたしを笑顔にしてくれたんだから。

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