幕間~義妹を預かってから数日が過ぎ~

 預かった詩織と春香と過ごしつつ……。


 当たり前だが、仕事をして……。


 和也に新しい仕事を教えてたりしてると……。


 まあ、当然こうなるよな。





 詩織が寝た後、春香が俺の部屋にやってきた。


 そして……。


「へっ?」


「だから、明日から学校だよ?」


「ま、まじか」


 いや、最初に聞いてはいたが……。

 思ったより余裕がなくて忘れていた。

 来たのが四月の一日の金曜で、今日が七日の木曜だから……。

 あらら、もうそんなに経ったのか。


「だ、大丈夫? やっぱり、お迎えはわたしが……」


「い、いや! 俺がいく!」


「で、でも……」


「平気だよ、春香。和也も頑張ってくれるというし」


「でも、悪いよ……」


「その分給料は上乗せするし、あいつ本人が言ってくれたから。聞いたろ?」


「うん、お父さんがいないって……」


 この数日の間に、春香と詩織は大分打ち解けてきた。

 うちの従業員のコミュ力のおかげで、春香も少しずつ話せるようになった。

 その際に、少しだけそれぞれの家庭の事情を知ったようだ。


「だから『ただでさえ本当の父親がいないのに、兄貴までいなくてどうするんですか!?』って怒られちまったよ」


「そっかぁ……今度、お礼言わなきゃ」


「ああ、そうしてくれると嬉しい」


 春香は、少し和也に苦手意識を持ってるからな。

 というか、男の人か?

 ……俺は対象外ってことだから安心なんだろうな。


「うん、そうするね。お兄ちゃんが信頼してる人なら安心だし」


「うん?」


「と、特に深い意味はないからっ!」


「はぁ……」


「と、とりあえず、お兄ちゃんに任せるね」


「おう、任せろ。お前は新しい学校なんだから、友達作らないとな。詩織の送り迎えをしてたんじゃ、帰りに遊んだりもできないし」


「……でも、お兄ちゃんは来てくれたよ?」


「へっ?」


「わたしのお迎えとか、学校の行事とか……お母さんとお父さんがいない時に。お兄ちゃんだって学校やバイトだってあったのに」


 そう言って、春香は下を向いてしまう。


「まあ……それはな」


「お兄ちゃんは……嫌だった……?」


「そんなわけあるか、それだけは嘘じゃない」


「ほんと……?」


「ああ、本当だ……可愛い妹を迎えにいくのが楽しみだったよ」


「ふえっ?」


 ようやく、顔を上げてくれる。


「その、なんだ……お前が嬉しそうな顔するもんだから……こっちも嬉しくなっちまってな。帰りにアイスとか買ってしまうくらいに」


「お兄ちゃん、覚えててくれたんだ……えへへ」


「当たり前だろ。お前が公園行きたい!って言うから、俺は遅くなって兄貴に怒られるし」


「そ、そんなことは知らないもん!」


「クク……でも、そっか。お前がしてあげたいんだな? 俺がそうだったように」


「う、うん……わたしは、詩織のお姉ちゃんだもん。お兄ちゃんがしてくれたことを、詩織にもしてあげたい」


 そう言った春香の目は力強く、とても綺麗だなと思った。

 いつの間に、こんなことを言うようになったのか。

 俺がアラサーになるくらいだもんな……そりゃー成長するわな。


「まあ、詩織も喜ぶか。じゃあ、交互にするか?」


「うん、それなら良いよ」


「ただし、最初の二日間は俺がやる」


「どうして?」


「中学と違って、高校は色々なところから人が集まる。中学に上がる時は、小学校が同じ人が多いから問題はない。それに、あとでもグループにいれてもらえたりもする。しかし、高校には知り合いはいない。そして初日と二日目で、だいたいグループが決まる。そしたら、後から入ることは難しい」


「そ、そうなんだ」


「お前は、ただでさえ人見知りなんだからな」


「うぅー……わかってるもん」


「まあ、無理はしなくていい。きっと、誰かしら合う奴がいるさ」


「う、うん……よーし! 頑張る!」


「クク……ああ、応援してるよ。何かあれば俺に言うといい」


「ありがとう、お兄ちゃん」


「気にするな。よし、とりあえずそれ以外は交互にやろう。よく考えたら、詩織はお姉ちゃん大好きだしな。来なかったら寂しいだろうし」


「そ、そうかな?」


「ああ、間違いない」


「わ、わたしも……お兄ちゃん大好きだから」


 頬を染め、春香がそんなこと言ってくる。

 ……嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。

 これは、俺も恥ずかしがらずに言うべきだな。


「ありがとな、俺も好きだよ」


「そ、そうじゃなくて……!」


「あん?」


「お、お兄ちゃんのばかぁぁ……!」


「おい……相変わらず、逃げ足が速いことで」


 脱兎のごとく、俺の部屋から出て行った。


「それにしても……さて、どうなるかね?」


 こればっかりは、始めてみないことにはわからない。


 とりあえず、和也も少しずつ任せられるようになってきたし……。


 従業員の方にも許可を得たし、少しだけならお手伝いもしてくれると言ってくれた。


 俺は空き時間に迎えに行って、帰ってきたら仕込みをして……。


 その場合は、仕込みを前日からしておけばいいのか。


 ……きついが、頑張るしかあるまい。


「それにしても……」


 最後の『大好き』に、俺は何故かドキドキしてしまった。


 ……まさかね。

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