第23話優しさには回復効果がある

 翌朝、俺がいつも通りに起きると……。


「おはよう、お兄ちゃん」


 ピンクの、女の子らしいエプロンをした春香が台所にいた。

 うんうん、実に可愛いらしい。

 これなら、良いお嫁さんになれそうだ……料理を覚えればな。


「おはよう、春香。ちゃんと寝たんだろうな?」


 近くに寄って、顔をよく見てみる……。


「ちょっ!?」


「何故、顔を背ける?」


「いや、その……」


「あっ——すまん、俺が悪かったな」


「お、お兄ちゃん!?」


 いかんいかん!

 寝起きのおっさんとか、女子高生にとっては気分良くないだろうに。

 俺は急いで顔を洗って、綺麗に整えるのだった。




 俺が戻ると……。


「おじたん……おはよ〜」


「おっ、起きたな。うん、偉いな。一人で着替えたんだな?」


「あいっ……」


 まだ眠いのか、うつらうつらしている。

 子供って凄いよなぁー、十時間くらい寝てるのに。

 俺なんか、もう八時間以上寝られないし。

 寝てたとしても、逆に疲れるっていう……悲しいぜ。


「おし、うさぎさんに一歩近づいたな?」


「うさぎさん!?」


「おう、その調子で歯ブラシもしなさい」


「あいっ!」


 急に目が爛々と輝き、詩織は洗面所へ行った。

 やれやれ、子供の切り替えは早いことで。




 その後、朝食を食べる。


「うん、美味いよ」


「ほ、ほんと!?」


「ああ、普通に食べられるよ」


「あいっ!」


「よ、良かったぁ〜……」


 いや、まあ……昨日と同じメニューだから、失敗しようがないんだが。

 しかし、それを口に出してはいけないことくらいはわかる。

 また、お兄ちゃんのばかぁぁと言われてしまうところだ。

 ふっ、俺とて成長するのさ。

 これからは、そうそう言われることはないだろう。











「お兄ちゃんばかぁぁ——!!」


 ……どうやら、フラグを立ててしまったようだ。


「な、なにを怒ってる?」


「な、なんで洗濯物干してるの!? それはわたしがするのっ!」


「うん? しかし洗濯物を洗った上に、料理もしてるしこれくらいは……」


「だめっ! というか、下着とかあるんだよ!?」


「いや、お前……洗濯した下着なら誰でも変わら」


「良いからっ! うぅー……」


「わ、わかった! わかったから! なっ! 俺が悪かったからっ!」


 俺は急いで洗面所から出るのだった。


 うーん、別にそこまで気にすることなのか?


 年頃の娘を持つ人は大変そうだな……。






 その後、昨日と同じように仕事をして……。


 お昼頃に春香達がやってくる。


 カウンター席に着いた春香が、あたりを見渡して言う。


「あれ? お兄ちゃん、今日はお客さん少ないね?」


「春香、月曜日ってのはこんなもんだ。飲食店は月曜と火曜は暇なんだよ。そんで、金土日が忙しい」


「そうなんだ……あれ? どうして、土曜日を休みにしてるの?」


「そ、そりゃー……」


「アレですよねー。二人が来るから定休日を変えたんですよねー」


「おい!?」


「あう?」


「そ、そうなの!?」


「今野さん……なぜ言った?」


「怖い顔しないでくださいよー。そういうって言った方が良いですよ?」


「そうだよっ!」


「あいっ!」


「そ、そういうもんなのか?」


「チッ、チッ、大将甘いですよ。言わなくてもわかるとか、勝手に判断して言わなくて良いとか……それって、男の人の悪い癖ですよー」


 やはり、今野さんはしっかりしているな。

まだ成人したばかりなのに。


「そうか……まあ、そういうことだ。土曜日休みにしておけば、1日はお前達と過ごせるしな」


「でも、稼ぎが減っちゃうんじゃ……?」


「それくらいは仕方あるまい。一応、お客さんには説明したし、期間限定とも言ってある」


「そっか……ありがとう、 お兄ちゃん!」


「おねえたん?」


「詩織、お兄ちゃんがね、私達のために土曜日を休みにしてるんだって」


「うぅ……どうなるの?」


「一緒に遊べるってこと」


「ほんと!? わぁーい!」


「お兄ちゃん優しくて……元気出ちゃうねっ!」


「あいっ!」


「ほらね、大将」


「へいへい、こいつは参ったな。ありがとな、今野さん」


「むぅ……仲が良い」


「はっ?」


「ふふー、安心してください。私は彼氏いますのでー」


「ふえっ!? な、なにがですか!?」


「なんの話だ?」


「な、なんでもない!」


「そうですよー。大将、女の子には秘密が沢山あるんですー」


「はぁ……まあ、いいけど」


「おじたん! おいちい!」


「そうかそうか、お前は可愛いな」


「きゃはー」


「むぅ……私も撫でてくれても……」


「ふふー、乙女ですね」


 なにやら。二人でこそこそと話しているが……。

 年も近いし、良い相談相手になってくれるかもな。




 そして、空き時間になり……。


「お兄ちゃん……これ!」


 そのお皿には、昨日より少しましになったおにぎりがある。


「おう、ありがとな」


「こ、これからも作るからっ!」


「いや、あんまり無理すんなよ?」


「作るのっ!」


「お、おう」


「じゃ、じゃあ! お仕事頑張ってねっ!」


 そう言って慌ただしく出て行った。


「全く、出来た妹だこと。無理しないといいが……」


 あいつはあいつで、きっと悩みとかあるだろうけど。

 俺には言ってくれそうにないなぁ……どうする?

 加奈子さんとかに頼んでみるか?


「兄貴っ! 」


「おっ、もういいのか?」


 母親の病院に行った和也が、いつもより早く戻ってきた。


「はいっ! お袋に言ったら、ちゃんと恩を返してきなさいと言われました!」


「なにを言ってる。お前がいて助かってるのは俺の方だ。ありがとな、和也……こんな俺についてきてくれて」


「兄貴……」


「柄にもないことを言ったな……じゃあ、始めるとしようか」


「はいっ! よろしくお願いします! 兄貴は指示だけして、のんびりしててください!」


「そういうわけにもいかんだろ」


「じゃあ、せめてゆっくり食べてください!」


「……そうだな、それくらいなら。じゃあ、魚の仕込みからやっていこう」


 カウンター席に座り、おにぎりやサンドイッチを食べる。


 そして、そこから指示を出して、和也を指導する。


 それは、とても心温まることで……単純に休憩できるという意味だけでなく……。


 和也と春香の優しさにより、休憩してる以上の回復効果がある。


 少し味の濃いタマゴサンドを食べながら、そんなことを思った。




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