43話ライングループ

 ……うむ。


 笑顔でご飯を食べている春香を眺めて思う。


 これって、デートみたいだなと。


 いや、相手は義妹なんだけど……ふつうに楽しんでいる自分がいる。


 春香が義妹だから、年下だけどめんどくさいと思わないのか?


 それとも、ほかに理由があるのか?


 ……わからん。





「お兄ちゃん……お兄ちゃん!」


「ん? どうした?」


「それはこっちのセリフだよー。ぼーっとして……やっぱり、疲れてた?」


 こちらを伺うように見てくる。

 ……やれやれ、義妹に心配かけるようじゃダメだな。


「いや、そんなことはないさ。デザートを食べるか迷ってな」


「わたし、食べたい!」


 ……珍しいな、春香がそういうこと言うのは。

 ……いや、違うか。

 普段は詩織がいるから、お姉ちゃんでいなくちゃいけない。

 無意識のうちに、色々と我慢をしているのだろう。


「おう、好きなのを頼みな」


「あっ——でも、詩織が……」


「迎えいった帰りに、アイスでも買って帰ろうな」


「お兄ちゃん……うんっ!」






 デザートを食べ終えたら、詩織を迎えに行く。


「おじたん! おねえたん!」


 玄関から詩織と佐々木さんが出てくる。


「おう、良い子にしてたか?」


「あいっ!」


「ふふ、良い子でしたよ。しっかりしてますね」


「なら良かったです。どうも、お世話になりました」


「恵さん、お久しぶりです」


「あら! こんなに美人さんになって! お母さんの若い頃にそっくりよ!」


「ふえっ!? お、お母さんみたいに美人じゃないですよぉ〜!」


「そんなことないわ。今は子供っぽさがあるけど、すぐに大人っぽくなるから」


「そ、そうですか……?」


「ねっ? 宗馬君?」


「まあ……言われてみれば桜さんに似てきましたね」


「えへへ……」


「春香ちゃん、また詩織ちゃん預かるから……頑張るのよ?」


「ふえっ〜!?」


「お母さんから、色々と聞いてるから」


「あぅぅ……」


「おじたん! どおしておねえたんは顔真っ赤なの?」


「さあ? 俺にもわからん。先に車に乗るとするか」




 挨拶をして、コンビニへと寄っていく。


「わぁ……」


 詩織はアイスコーナーに目が釘付けである。

 うむうむ、可愛いのう……なんか、ジジくさくなってきたなぁ。


「わぁ……」


 と思ったら、こっちもである。

 あれ? あなたはさっきデザート食べましたよね?


「いや、いいけどね……詩織、好きなのを二個選びなさい」


「いいの!?」


「ああ、その代わり一日一個だからな」


「あいっ!」


「うぅ……我慢我慢……」


 唸っている春香の頭に、手をポンと乗せる。


「お兄ちゃん?」


「ほれ、一個だけ選びな」


「えっ? でも、これは詩織のためじゃ……」


「だから、詩織には二個って言った」


「あっ——あ、ありがとぅ」


「クク……ほれ、選んだらさっさと帰るぞ」


「う、うん」


「おねえたん、どれがいいお!?」


「うーん、迷うね……これとか半分個しようか?」


「あいっ!」


 姉妹で仲良くアイスを選んでいる。

 ……うん、良いものだな。

 これくらいで喜んでくれるなら安いものだ。






 家に帰り、詩織を寝かしつけた後……。


「これは、えっと……」


「待て、これはこっちで……」


「うぅ……」


「確か、こうだな」


「あっ——出来た」


 何をしているかと言うと、スマホの設定である。

 俺も得意ではないが、最近やったばかりだから何とかわかるし。


「ふぅ……これで友達とも連絡取れるな」


「う、うん、クラスのライングループとかあるらしくて……」


「うげぇ……めんどくさ」


「はは……うん、舞衣ちゃんもそう言ってた」


「どうするんだ?」


「うーん……別に強制ではないから、入らないでいいかなぁって。仲良くなった子と、個人的やる分には良いけど」


「まあ、そこは好きにしたらいい。色々と面倒な部分もあるからな」


「うん、色々考えてみるね。それに、そういうことやってたら時間がなくなっちゃうし。勉強も家のこともしっかりやりたいもん」


「春香、家のことは別に」


「お兄ちゃん!」


 強い口調と顔で、俺を見つめてくる。


「それは


「そうか……わかった。ただ、無理だけはするんじゃないぞ? 約束だ」


「うんっ!」


 ……やれやれ、いつのまにか大人になって。

 ガキンチョだと


「あと、お兄ちゃん」


「ん? どうした?」


「お店のライングループとかは作らないの?」


「……あっ」


 そうか! そういうのも使えるのか!

 いちいち個別に連絡を取らなくても良いし!

 シフト管理なんかも楽になる!


「全然、考えてなかったの?」


「おう、今の今まで。ただ……どうなんだろう?」


「どういうこと?」


「いや、今野さん辺りなら気づいて言いそうだと思ってな。まあ、嫌がる人もいるかもだから聞いてみるか」


「うん、わたしや舞衣ちゃんみたいにね」






 そして、翌朝……。


 いつものように詩織を送り、店に入り……。


 ランチタイムを終えたタイミングで提案する。


 一応、全員に連絡したところみんなが来てくれた。


「良いじゃないですか!」


「へっ?」


 今野さんは、目を輝かせている。


「いいと思いますよ〜」


「ええ、賛成ですね」


「僕も賛成です」


「兄貴?」


「い、いや、随分と乗る気だなぁと」


「いや、兄貴が嫌かと思って……」


「なに?」


「そうですよー!」


「なにも言わないから、嫌かと思ってましたわ」


「宗馬君、我々も悪いですが……何事も、伝えないとわかりませんぞ?」


「そうですよ、宗馬さん」


「……そうだな、俺が悪かったですね。じゃあ、作るとしますか」


 こうして店専用のライングループを作成した。


 何だか、一つになった気がして……嬉しくなった。


 春香にも、あとで教えてやらないとな。

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