42話春香ちゃんはウキウキ

 ど、どうしよう!?


 ドキドキが止まらないよぉ〜!


 お、お兄ちゃんが助けてくれたし……。


 かっこよかったなぁ……。


 そ、それに……助手席です!


 えへへ〜これって恋人みたいだよね?


 ずっと憧れてた……しかも、二人っきりで。


「おい?」


「ひゃい!?」


「うおっ! びっくりした」


 だ、だって、顔が目の前にあるんだもん!

 お兄ちゃんって厳ついから迫力あるんだもん……それが良いんだけど。

 目鼻立ちが良いし、顎のラインがシュッとしてるのが好き。

 本人は、初対面で怖がられることがあるから嫌だって言ってたけど……。


「うぅ……」


「何をニヤニヤしてたんだ?」


「な、なんでもないのっ!」


「相変わらず変な奴……まあ、いいか」


 お兄ちゃんはそう言うと、車を走らせます。

 詩織、ごめんね……貴女がいないと喜ぶ性格の悪いお姉ちゃんを許してください……。

 でも、夢だったもん……こうして、二人で出かけるの。





 ある程度走り、信号で止まると……。


「お前も、やっぱり黙ってるんだな?」


「ふえっ? ……ああ、詩織もそうだもんね。うん、昔からお父さんに言われてたもん」


「俺と兄貴の両親は交通事故で亡くなってるからなぁ。スマホを見ながら運転してる奴とか見ると……信じられん。自分の行動がどんなことを引き起こすか、考えたことがないのかね」


「歩きスマホとかもだよね……わたし、電車で怖いもん。全然前を見て歩いてないから、何度もぶつかられそうになったよ」


「そうだよな。あれで怪我をしたり、事故にあったりするニュースが毎日のように流れているのに……やっぱり、どこか他人事のように思っているんだろうか。いつどこで、何が起きるかわからないというのにな」


 お兄ちゃんは悲しそうな顔をしています。

 お兄ちゃんは、誰よりもそのことを知っているから……。

 だったら、わたしにできることは……少なくとも、心配をかけないことだ。


「お兄ちゃん……わたし、スマホ持っても気をつけるね」


「ああ、そうしてくれると助かる。まあ……あまり心配はしていないがな」


「えっ?」


「いや、色々心配はしているが、そういうアレではなくて……お前なら、きちんとやってくれるだろしな」


「うんっ!」


 信号が青に変わり、車が走り出す。

 ……お兄ちゃんは、わたしのこと信用してくれるんだ。

 えへへ、嬉しいなぁ。






 そして、携帯ショップがあるデパートに着きました。


「ほれ、行くぞ……春香?」


「ご、ごめんなさい!」


 いけない! 車を停めるお兄ちゃんに夢中になっちゃった!

 わたしは、慌てて車を降りようとします。


「イタッ!?」


「おい!? 平気か!?」


「うぅ……頭ぶつけた……」


「どれ、見せてみろ……腫れてはいないと。ったく、気をつけろよ? 相変わらずドジっ子なんだからな」


「むぅ……言い返せない」


 でも、いいや。

 お兄ちゃんが優しく撫でてくれたもん。

 ……ちょっと痛かったけど。






 携帯ショップに行き、割とすぐに契約することができました。

 多分、みんなは入学前に買うからだと思います。


「思ったより早かったな。それに学割かぁ……すげえな」


「お兄ちゃんの時はなかったの?」


「いや、あるにはあったが……ここまでじゃなかったな。今じゃカラオケとかも学割が効くっていうし……良いよなぁ」


 そっか、お兄ちゃんは学生らしいことが出来なかったって……。

 お兄ちゃんは言わないけど、きっとわたしの所為でもあるんだよね?


「お、お兄ちゃん!」


「うん?」


「こ、この後の予定ある?」


「いや、特にないな。もっと時間がかかると思ってたし。まだ夕飯には少し早いし」


「よ、洋服を見ても良い?」


「ああ、良いぞ」


「じゃあ……いこ!」


 勇気を出して、お兄ちゃんの手を握ります。


「おいおい、引っ張るなって」


「えへへ、楽しいんだもん」


 ……なんかこれって——デートみたい!





 女性物の洋服売り場に来たのは良いけど……。


「高いなぁ……」


 お洒落な物は、やっぱり高いのが多い。

 もちろん上級者だったら、組み合わせとか考えるんだけど……。

 わたし、そういうのもできないし……。


「ん? これが良いのか?」


 青のワンピースを見てたわたしに、お兄ちゃんが聞いてきます。


「う、うん。でも、高いよね。バイト溜まったら、こういうのも買いたいなぁ」


「ふむ……買ってやろうか?」


「ふえっ!? わ、悪いよ! 高いもん……」


「おい、人をお金がないみたいに言うなよ。これでも、一般のサラリーマンくらいはある」


「でも、携帯だって……」


「あれは兄貴達からもらったお金で買ったし。これは……そうだな、入学祝いってところか。バタバタしてて、何にもあげてなかったしな」


「お兄ちゃん……」


 ど、どうしよう? すっごい嬉しいけど……。


「俺が買いたいんだよ。ほら、好きなの選べ」


 そう言って、お兄ちゃんは頬をかいています。


「あ、ありがとぅ……嬉しい」


「そ、そうか」





 その後サイズを決めて、お兄ちゃんに買ってもらいました。


「お兄ちゃん! ありがと!」


「おう」


「これ着たら……一緒にお出かけしてくれる?」


「まあ、暇だったらな」


「むぅ……」


「わかった、わかった。出かけるからむくれるなよ」


「約束だからね!」


「へいへい」


「そういえば、お腹すいたね」


「どこが良い? 詩織はあちらの家で食うっていうし」


「えっと……ファミレスがいいな」


「おい? 俺に気を使うことはないぞ?」


「違うの……昔、お兄ちゃんがよく連れてってくれたから。お父さんとお母さんがいない時とかに。あと、お兄ちゃんがバイト代でパフェとか買ってくれたり……」


 わたしの大事な思い出……今でも、鮮明に覚えてる。


「そういや、そうだったな。兄貴達も金がなくてなぁ……安い物を頼んでたっけ。んで、内緒で食べさせてたっけ。わかった、そうするか」


「うんっ!」





 デパート内にあるファミレスに入って、注文をします。


「いやー、楽だな」


「どういうこと?」


「いや、片付けもしなくていいし、頼んだらくるし……」


「えっと……」


「あっ——もちろん、料理を作るのは好きだが……たまにはな」


「そうなんだ」


「だから、春香が作ってくれると嬉しいよ。ありがとな、割と助かってる」


「えへへ……よかったぁ」


 こんなわたしでも、お兄ちゃんの役に立ててるんだ。






「おっ、きたな。いただきます」


「いただきます」


「うん、美味い」


 お兄ちゃんはステーキを豪快に食べてます。


「美味しいね」


 わたしはハンバーグを食べます。


「美味いが……本当に良かったのか?」


「うん、これがいいの」


「まあ……お前が良いなら良いが」


 ……だって、美味しいもん。


 お兄ちゃん……好きな人と食べるなら、なんだって美味しい。


 お兄ちゃんも、そう思ってくれてたら……嬉しいな。

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