41話モヤモヤ

 久々の一人の休日だが……。


 結局、二人のことを考えてしまう。


「そういや、幼稚園ってお遊戯会とかあったよな?」


 それっていつだ? あと、お泊まり会とかもあったはず。


「春香も林間学校とかあるのか? あれって入学して、割とすぐだった記憶があるな」


 体育祭やら文化祭もあるだろうし……。


「兄貴達の代わりに行かないといけないよなぁ」


 そんなことを考えつつ、スマホについて調べる。


「使い放題? いや、それはどうなんだ?」


 春香はしっかりしてるから平気だと思うが……。

 一応、最低限のルールは決めておいた方がいいか。

 例えば、食事中は触らないとか。

 寝る前には、部屋に持っていかないとか。







 ……ん? あれ?


「……俺は……寝ちまったのか」


 どうやら、自覚はないが疲れていたらしい。

 良かった、二人がいない時で。

 自分たちのせいだと思ったら可哀想だからな。


「……時間!?」


 慌ててスマホを確認し……。


「ほっ、良かった。まだ二時か……いや、飯も食ってないから意外と時間ないぞ」



 軽く顔を洗って、素麺を食べる。


「んー……今日は外食でもするかね」


 素麺すすりながら、そんなことを考える。


 食べ終わり、少し休憩したのち……家を出る。






「おじたん!」


「おう、詩織。きちんとお昼寝はしたか?」


「あいっ! あのね! お友達と遊ぶの!」


「うん?」


 すると、俺より歳上に見える女性が近づいてくる。


「すみません、宗馬君ですか?」


「あれ……佐々木さん?」


「あらー! 良い男になって!」


「背中が痛いっす」


 そういや、桜さんが言ってたな。

 佐々木さんがいるから、もしあれだったら頼ってって。


「あら、ごめんなさいね。桜から聞いてるわよ、偉いわね」


 この方は桜さんの同級生で、詩織と同い年の女の子がいる。

 つまり、俺の小さい頃を知っているということだ。


「いえいえ、大したことは出来てないですよ」


「おじたんはえらいお!」


「ほら、子供は素直なんだから」


「そっか……ありがとな、詩織」


 そっと頭を撫でる。


「きゃはー」


「それで、うちで遊ばせても良いかしら? お夕飯も用意するし。もちろん、きちんと面倒は見させてもらいます」


 まあ、この方なら安心だな。

 それに友達と遊ぶことは大事だ。


「では、お言葉に甘えさせてもらいますね。詩織、きちんと言うことを聞くんだぞ?」


「あいっ!」


「良い返事だ。では、よろしくお願いします」






 その後迎えに行く約束をして、学校付近まで行く。


「おっ、もう終わったみたいだな」


 すでに登下校の生徒達が見える。

 そして、視線も感じる。


「……あれ? これってめちゃくちゃ怪しいんじゃ?」


 完全に不審者だと思われてしまう。


「おっ、コンビニあるな。あそこで一度車を止めてくるか」






 校門前のコンビニに車を止めて、ひとまずジュースだけ買う。

 当たり前だが、パーキングエリアに止めるよりは安いし。

 それに、何も買わないのも客商売の者としてはどうかと思うし。


「冷やかしはしたくないもんなぁ……」


 そして、車に寄りかかって待っていると……。


「あ、あの、困ります」


「良いじゃん! 遊び行こうぜ!」


 春香が、同じ学校の生徒に絡まれているな……。

 随分とチャラいな……ふむ、アレはないな。

 すぐに決断をして、そいつに近づく。


「おい」


「あぁ!?」


「お、お兄ちゃん!」


 春香が俺の後ろにきて、ぎゅっと身を縮める。

 すると、そのチャラい男が一歩下がる。


「お、お兄さん?」


「うちの妹に何か用か?」


「い、いえ! すいませんでしたー!」


 ひと睨みすると、そいつは逃げていった。


「なんだ、根性のない奴だ。春香を口説くなら、俺に喧嘩売るくらいの度胸はないとな」


「お、お兄ちゃん……ありがとぅ」


「ったく……ほら、行くぞ」


 さっきから目立って仕方ない。


「あらあら、助けるまでもなかったわね」


「舞衣ちゃん!」


「ん? 友達か?」


「う、うん!」


「初めまして、お兄さん。桜井舞衣っていいます」


 そう言い、きちっとお辞儀をしてくる。

 見た目や雰囲気といい、大人っぽい子のようだ。

 綺麗タイプで、春香とはタイプが違うが……。


「初めまして、兄の宗馬です。妹がお世話になってます」


「お、お兄ちゃん!」


「なるほどなるほど……クラスの男子に見向きもしないわけね。お兄さん、春香のことは任せてください。あとで、きっちりとやっておきますので」


 ……これは、敵に回さない方がいいタイプだ。

 しかし、味方になれば頼もしいと言える。


「よろしくお願いします。こいつ、抜けてるところがあるので」


「むぅ……そんなことないもん」


「ほら、行くぞ」


 彼女に礼を言って、その場を後にする。


 まったく、結局目立ってしまった。


 しかし……見て見ぬ振りをするわけにはいかないしなぁ。


 うん、これは兄として当然の感情だ。


 ムカついているのも、きっとそれが理由に違いない。





 ひとまず、車に乗り込む。


「あれ? 詩織は?」


「ああ、佐々木さんのお子さんと遊ぶってさ」


「なら安心だね。佐々木さん、昔から知ってるもん」


「俺もだな。それにしても、危なっかしいやつ」


「うぅ……だってぇぇ」


 落ち込んでいるが、こればっかりはしっかり言わないとな。


「もう高校生なんだからな? 男はそういう目で見てくるし、中学とは違って力で敵わないんだぞ? 」


「はぃ……」


「全く……お前は可愛いんだから、これからああいうのは増えるからな……気をつけろ」


「お兄ちゃん……えへへ」


「おい? 何をニヤニヤしている? 俺は叱っているんだが?」


「お兄ちゃん! ありがとう!」


「へいへい」


 笑顔でそう言われちゃ、もうお手上げである。


 結局のところ、俺は春香には敵わんようだ。



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