39話成長

 翌朝の月曜日になり……。


 ガチガチになっている春香を見送る。


「い、行ってきます!」


 すでに顔には、不安です!と書いてある。


「お、おう。落ち着け、大丈夫だ。いいか? まずは、隣の人におはようございますだ」


 単純なようで挨拶というのは馬鹿にできない。

 ある意味で、一番大事なコミュニケーションの取り方だ。


「う、うん!」


「こっちは、別に話したくないわけじゃないことをアピールしろ。間違っても机で寝たふりや、意味もなく教科書を眺めたりするなよ? あと、必ず相手の目を見て話すんだ。大丈夫だ、お前は良い子だから。きっと、それをわかってくれる子がいるさ」


「お兄ちゃん……が、頑張る!」


「で……もしスマホを聞かれたら明日買って貰うんだと言うんだ」


「ふえっ!?」


「明日は定休日だからな。一緒に行って買いに行くとしよう」


「お兄ちゃん……うん!」


 笑顔を見せて、玄関のドアを開けて出て行く。


「さて、あとは本人次第だな」


「おじたん!」


 振り返ると、詩織がお着替えをして待っていた。


「おっ、偉いな。もう一人でも準備できるな?」


 春香とは違う、その量のある髪を撫でる。

 春香は細いサラサラタイプで、詩織は量が多いしっとりタイプって感じか。

 ……そうか、美容院とか連れて行かないと行けないのか。


「あいっ!」


 ……うむ、俺も生活に慣れてきたし。

 来週あたりに、うさぎを見に行ってみるか。






 詩織を車に乗せて、幼稚園に向かう。


「ルンルン〜」


 何やら、ご機嫌に鼻歌を歌っている。


 少し渋滞をしているので、詩織に話しかける。


「何の歌だ?」


「ぷりきゅあだお!」


 あれって、シリーズいっぱいあってよく分からん。

 俺がガキの頃は、デジモ○とかポケモ○見てたし。


「そっか、歌が好きなのか?」


「お歌歌うの好き!」


「ほう、そうだったのか」


「おねえたんも上手だお!」


「なに? そいつは初耳だな」


 小さい頃は……どうだったっけ?

 そういや、カラオケなんかは行ったことないな。


「おじたんは!?」


「うーん、どうだろうな?」


 あんまり行ったことないかもな。

 中学時代は、兄貴達もお金なかったし。

 高校に入ってからはバイト三昧だったし……。

 あれ? 俺って……あんまり青春してこなかったのかもな。

 まあ、それを不幸だと思ったことはないけど。







 詩織の送り、家へと戻る。


「さて、今日もお仕事頑張りますか」


 店に入ると、すでに和也が仕込みをしている。


「おっ、進んでいるな」


「あざっす!」


 日に日にスピードと正確さが増してきている。

 これなら、色々と任せてみてもいいかもな。


「もうピザを見せなくていいからな」


「えっ?」


「失敗したところで、誤魔化したりしないだろ? 完全にピザ場はお前に任せるよ」


「兄貴……はいっ……!」


 見る見るうちに涙が溢れていく……。


「おいおい、これから仕事だってのに」


「す、すみません」


「ほれ、洗面所で顔洗ってこい」


「うっす!」


 でも、そうか……。


 もう半年以上は経ってるってことか。


 そろそろ、色々なことを考えても良いかもな。


 仕事ばかりしていては、人生はつまらないと亮司さんも言ってたし。






 ◇◇◇


 うぅ……緊張するよぉ〜。


 席替えをしたから、隣の人に話しかけたいんだけど……。


 というか、また窓際の席だよぉ〜。


 それにしても、大人っぽい雰囲気の人なんだよね……。


 わたしなんかと、仲良くしてくれるかな?


 タ、タイミングはいつが良いのかな?


 今は、スマホ見てるし……良いのかな?


「あ、あの……」


 このままだと、先生が来てしまうので、意を決して話しかけます。


「うわっ!?」


「ご、ごめんなさい!」


 集中してたかな!? 邪魔しちゃったかな!?


「う、ううん、平気よ。どうかしたの?」


「いや、その……松井春香っていいます」


「へっ?」


「あ、あぅぅ……」


 や、やっちゃった……自己紹介はしたんだから知ってるに決まってるのに。


「ふふ……桜井舞衣よ」


 あっ——笑ってくれた。

 それも、嫌な感じじゃなく……。


「あの、これからよろしくお願いします」


「ええ、よろしくね。そっか、そっちのパターンだったのね」


「ふえっ?」


「ううん、なんでもないわ。何か困ったことがあれば言ってちょうだい」


 そう言い、長い髪をかきあげました。

 うわぁ……美人さんだし、余裕もあるなぁ。

 やっぱり、高校生ってこんな感じなのかな?


「じゃ、じゃあ……お友達になってくれませんか?」


 桜井さんは騒がしくないし、なんかグループに入ってない感じだし。


「ふふ、久々に聞いたわね。ええ、もちろんよ」


「あ、ありがとうございます」


「硬いわよ、もっと気楽でいいわ」


「は、はい……う、うん」


「そうそう。あと、舞衣って呼んでちょうだい。私は、春香で良いかしら?」


 い、いきなり名前!? しかも呼び捨て!?


「ま、舞衣ちゃんでも良い?」


「へっ?」


 あれ!? ダメだったかな?

 なんか、びっくりした顔してる……。


「い、嫌かな?」


「い、いいえ。ちゃん付け……まあ、それも新鮮で良いわね」


「じゃ、じゃあ、舞衣ちゃんで」


「わかったわ、春香。ちょっと待ってね——」


 そう言うと、周りに視線を向けました。

 すると、見ていた男子達が視線を逸らします。

 やっぱり舞衣ちゃんが綺麗だから見てたのかな?


「舞衣ちゃん、綺麗だもんね」


「……本気で言ってそうね。なるほど、面白いわ」


「えっと……?」


「よくこんなに真っ直ぐ育ったわね。あなた、中学の友達に言われなかった? 高校に入ったら、色々気をつけなさいって」


「な、なんでわかるの!?」


 みぃちゃんとか、さっちゃんとかに言われた!

 世間知らずとか、騙されそうとか、悪い人に捕まりそうとか……。


「友達に恵まれたようね。いや、それも違うかしら……素で良い子だから、みんながそうしたかったのかも」


「よくわからないんだけど……」


「可愛いってことよ。じゃあ、これからよろしくね」


「う、うん……よろしくです」


 ……お、お兄ちゃん! やったよ!


 お兄ちゃんのアドバイスのおかげで、友達ができたよぉ〜!


 早く家に帰って、お兄ちゃんに報告したいなぁ。


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