第20話妹たちに賄いを食べさせる

 そして……何とか第一の戦場を生き抜いた。


「ふぅ……ひと段落したな」


「お疲れっす、兄貴」


「おう、和也もな」


 1時半を過ぎると、一気にお客さんは減ってくる。

 その間に順番で賄いを食べたり、小休憩を取ったりする。


「宗馬さーん、妹さん来ましたよー」


「おっと、待たせてしまったな」


 厨房を出て玄関に向かう。


「お、お兄ちゃん、お疲れ様!」


 何だ? 何をモジモジしている?


「おじたん! カッコいいおっ!」


「あん?」


「実は、さっきから来てたんですよー。でも、邪魔しちゃ悪いからって待ってるって。ふふー、大将の妹さん達は良い子ですね?」


「ああ、俺にはできた妹さ。そっか、わざわざ待っててくれたのか。すまんな、腹減ったろ?」


「あいっ!」


「も、もう、詩織ったら」


「よし、好きなもの作ってあげるから席についてなさい」


「わぁーい!」


「お兄ちゃん、お仕事中なのにありがとう」


「気にすんな。じゃあ、カウンター席に案内よろしく」


「はいはーい。じゃあ、こっち行こっか?」


「あいっ!」


 やはり手慣れているな……。

 しゃがんで視線を詩織に合わせて話しかけている。

 今度、俺が色々教わりたいくらいだ。



 厨房の中に戻って作業をしていると……。


「お、お兄ちゃん」


 カウンター席から春香が話しかけてくる。


「おっ、決まったか?」


「あいっ!」


「えっと、この和風きのこパスタと、マルゲリータピザでお願いします」


「はいよ、すぐに出来るから待ってろ」


 和也が奥の従業員スペースで賄いを食べているので、俺が作ることにする。

 そして詩織が飽きないように、目の前で作業することにした。


「わぁー! これなに!?」


「ピザ生地だよ。そっか、食ったことないか」


 気に入ったとしても、あんまり食わせちゃいけないな。

 兄貴が帰って来た時、二人が太ってたら俺が殺される。


「これにトマトソースをかけて、チーズを乗せると」


 ピザ釜専用の道具ですくい、それを釜の中に入れる。


「わぁ……! テレビ見てるみたい!」


「すごいおっ!」


「ふふ、そうだろ?」


 お客さんにも楽しんで頂けるように、ピザ釜はカウンター席から見える位置にある。

 もちろん危険なので、ギリギリ見えるくらいだ。


「よし、これでいいか」


 実際に焼く時間は一分程度だ。


「えっ!? もう!?」


「はやいっ!」


「まあ、ざっとこんなもんよ。準備から出来るまで三分くらいでいきたいところだ」


「お兄ちゃん、カッコいい……」


「あいっ!」


「そ、そうか」


 春香に面と向かってカッコいいと言われるとは……昔はよく言ってくれたなぁ。

 少し照れくさいが、やはり嬉しいものだな。


「食べてもいい!?」


「ああ、ただ熱いから気をつけろよ?」


「ほら、詩織。切ってフーフーしてあげるから」


「はやくはやく!」


 ……いかんいかん、見惚れてる場合じゃない。

 ついほんわかしてしまった、俺はパスタを作らなくてはいけないのに。


「パスタを茹でてと……」


 パスタを茹で始めたら、フライパンにオリーブオイルとベーコン、シメジとしいたけにエリンギを入れる。

 そして火をかけた後、その間にカットしてあるほうれん草を用意しておく。


「おいひい!」


「う〜! 美味しいよぉ〜」


「おっ、そうか。そいつは良かった。しかし、何故悲しい顔をしている?」


「だってぇ〜……太っちゃうもん」


「だから言ったろ。少しくらいは太った方が良いって。成長期にダイエットなんかしたら、それこそ将来太るぞ?」


「そ、そうなの?」


「いや、知らんけど」


「……お兄ちゃんのばかぁぁ……!」


「わかった、悪かったよ。だから泣きそうになるな。ほら、もうすぐ美味しいパスタも来るから」


 形勢が悪いと思い、逃げるように後ろを向く。


「うん……いい感じだ」


 ベーコンやキノコからいい香りがする。

 次にフライパンに少量のお湯を入れ、甘めに作った自家製醤油で味を調える。


「そしたらパスタを入れて……」


 仕上げにほうれん草を入れて完成だ。


「よし、出来上がりと」


 さっとソースにパスタを絡ませたら、二人の目の前でお皿に盛り付ける。


「「わぁ……!」」


「クク……同じような顔して。ほら、召し上がれ」


「いただきます」


「いたーきます!」


 春香が小皿に取り分けて、詩織の分をよそっている。


「ぅぅ〜ん! これも美味しい! このソース? 甘くて美味しい!」


「おいちい!」


「うんうん、良かった良かった。そのソースはな、自家製出汁醤油に貝類の出汁を加えたやつなんだよ。海鮮丼なんかにかけても美味しいぞ」


「うわぁ……! 絶対に合うねっ!」


「食べたいおっ!」


「はいはい、今度家で作ってあげような」


 その後は自分の仕事に戻り、たまに来るお客さんのオーダーを受けて調理する。


「兄貴! 休憩終わりました! ありがとうございます!」


「あいよ。じゃあ、ホールに出てくれ。二人にも休憩入ってと伝えてくれ」


「わかりました!」



 そして二人の賄いを作った後、オーダーのないタイミングで春香が話しかけてくる。


 どうやら、先に食べ終えて詩織を待っているようだ。


「お兄ちゃんは休憩ないの?」


「ん? ああ、そうだな。俺以外に作れる人はいないしな」


「えぇ!? お、お腹減らないの?」


「減るよ、めっちゃ。だが、仕方あるまい。まだ和也には早すぎるし、俺は責任者だしな。まあ、慣れて来たから平気だよ」


「そ、そうなんだ……あの、お兄ちゃん」


「おじたん!」


「おつ、綺麗に食べたな。偉いぞ」


「きゃはー、褒められた!」


「春香、何かいいかけたか?」


「う、ううん! なんでもないのっ!」


「相変わらず変なやつだ」


「むぅ……変じゃないもん、お兄ちゃんが鈍感なだけだもん」


「おねえたん……ねむいお……」


 お腹いっぱいになったのか、早速船を漕いでいる。


「し、詩織! だめよ、すぐに寝ちゃ。もう少し我慢して。ほら、お兄ちゃんになんて言うの?」


「えっと……おじたん、ごちそーさまでした」


「お兄ちゃん、ご馳走さまでした。美味しかったです」


「おう、サンキュー」


 なんだか照れ臭くて、俺は後ろを向いてしまう。


 お客さんに食べさせるとはまた違う感覚……。


 こう……胸の奥が暖かくなる感じ。


 これは一体なんだろうか?





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