第19話仕事内容とそれぞれの役目

仕込みなどの開店準備を済ませたら、最後にミィーティングをする。


「さて、みんな。今日もよろしく頼みます。ミスをしたならすぐに報告を。クレームが来たなら、すぐに報告を。些細なことでも確認しあって、出来るだけ楽しく仕事をしましょう」


「へい! 兄貴!」


「あいさ! 大将!」


「わかったわ、宗馬さん」


「だから、店長かオーナーって呼んでくれ……」


ハァ……トップにはトップの苦労があるよなぁ。

怖がられてもいけないし、舐められてもいけないし……。

まだまだ二十六歳だし、これから慣れていくしかないな。




そして、開店時刻となる。


「いらっしゃいませー!」


「お客様、何名様でしょうか?」


どうやら、次々とお客さんが入ってきたようだ。


「よし、和也。今日もよろしく頼むぜ」


「へいっ!」


料理は戦いであり、キッチンは戦場だ。

常に動き、何が来るか先読みをして準備をする。

様々な状況の変化にも対応できなくてはいけない。



すると、次々と注文もやってくる。


「大将ー! ペペロンチーノ1! ボロネーゼ1入ります!」


「宗馬さーん! マルゲリータ2入ります!」


「はいよ! 和也、パスタを茹でてくれ」


「はいっ!」


うちはイタリアンレストランなので、庶民的でリーズナブルな価格設定でやっている。

昼間のメインはパスタ系とピザが中心になっている。

最近では高級な店も増えているが、元々は大衆的で庶民の味として知られていたし。

そんな店が周りになかったので、自分で作ることにした。


「さて、俺はソース作りとピザだな」


フライパンにオリーブオイルとニンニクと唐辛子、更にベーコンを入れて弱火でじっくりと炒める。もう一つのコンロでは、ナスに小麦粉をまぶして揚げていく。


「これで、良しと」


次に仕込んであるピザ生地を取り出して、オリジナルトマトソースを塗っていく。

その上にチェダーチーズ、モッツァレラチーズを千切って乗せていく。

仕上げにバジルを乗せて準備完了だ。


「和也、あとは焼けるな?」


「任せてください!」


和也が手慣れた手つきで、釜の中にピザを入れて焼いていく。

うむ……良い手際だ。

しっかりと回しながら空気を入れている。

もう、俺が見ていなくても平気かもな。


「パスタの時間まで……二分か」


ナスを油から取り出して、キッチンペーパーの上に置いておく。

その間に、仕込んであるボロネーゼソースをフライパンで温める。


「さて……ここからだ」


ずっと横目で確認していたペペロンチーノを見る。


「……色よし、香りよし」


ニンニクは焦がしちゃダメだし、ベーコンの焼き過ぎも良くない。

ほんのりと色がつくくらいがベストだと、個人的には思っている。

そこにシメジとエリンギを入れ、さっと火を通していく。


「おっ、茹で上がったか」


火を止めたらそこにパスタを投入して、ソースと素早く馴染ませていく。

これでペペロンチーノの完成だ。

ニンニクと唐辛子だけの本格的なやつとは違うが、ベーコンの旨味とキノコの旨味があって、俺は個人的には好きな味だ。それに、お客さんにも人気のメニューだ。


すると、時間差で茹でていたパスタも茹で上がる。


「これをボロネーゼソースに合わせて……ナスを入れると」


少しだけ茹でたお湯を足しながら、ソースと絡ませていく。

それを皿に盛り付け、仕上げにパルメザンチーズをかける。


「兄貴! これでどうですか!?」


「おう、良い色だ。その調子でどんどん焼いてくれ」


「うっし! あざーす!」


「大将ー! お願いしまーす!」


「あいよ! 持って行ってくれ!」


「はーい!」


今野さんは見た目も雰囲気も今時の子だが、その中身は意外としっかりしている。

言葉遣いも緩いけど、それは相手を見て選んでいるし……。

そうでない人にはしっかりと敬語で対応している。

ちなみに、おじさん連中は緩い感じが好きらしい……タメ口をきかれたいとか。

それに兄弟姉妹が多い中の長女なので、色々気配りが出来る良い子だ。

注文が苦手な人には自分から行くし、空いてるグラスにすぐに気づいてくれる。


「宗馬さーん! サラダをお願いします」


「和也、いけるな?」


「はいっ!」


和也にはまだメインは任せられない。

その代わりにピザやサラダ系を中心にやってもらっている。

これだけでも、俺としてはとても助かることだ。


「おーい! こっちまだきてねえぞ!」


「はいは〜い、今行きますからね〜」


「お、おう。す、すみません」


少しコワモテの方や、中身は良い人だけど言葉遣いか荒い人もいるが……。

加奈子さんにかかればご覧の通りだ。

溢れてる母性と色気に、みんながタジタジになってしまう。

それこそ、高級クラブのママさんでもやっていけるくらいだ。

というかやっていたらしいが、娘さんのことを考えてやめたそうだ。

そういう職業を否定する気もないが、やはり親子さんの間では問題になるからと。



その後も、次々とお客さんが入ってきては、注文を受けて調理していく。


「パスタできました!」


「ありがとうございまーす! 持ってきますねー」


「ドリンクお願いします!」


「はいは〜い、持って行きますよ〜」


俺はまだまだ未熟者だが、良き仲間に恵まれて何とかやっていけている。


人一人で出来ることなど限られている。


それぞれに役目や、向いていることがある。


もう二人の従業員も含めて、これが俺の仕事仲間だ。

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