変化する義妹との関係

45話包囲網?

 ゴールデンウィークも終え、オトメちゃんを飼い……。


 春香の始めての中間試験や、俺は税金関係の支払いに忙しく……。


 あっという間に、一ヶ月が過ぎる。




「オトメちゃん! おはよう!」


 この一ヶ月で、詩織もうさぎの面倒を見れるようになって来た。

 餌やりから水の取り替え、おトイレのお掃除まで嫌な顔もせずに。

 そのせいかわからないが、少しずつ成長している気がする。

 やはり、生き物を飼って正解だったな。


「大きくなってきたね?」


「あいっ!」


 片手サイズから、両手サイズにはなったかな?

 家に慣れたのか、布をかけてやらなくても落ち着くようになった。

 これも、二人がきちんと愛情を持ってお世話をしたからだろう。


「お兄ちゃん、ゲージから出しても良いかな?」


「お、おう」


 いかん、不意打ちに話しかけられると……。

 どうしても意識してしまうな。

 あの日から、俺はおかしい……。


「ん? ……どうしたの?」


「い、いや、何でもない。ああ、良いんじゃないか。ただ、何でも噛む癖があるから、目を離しちゃだめだぞ?」


「うん、わかってるよ。詩織、ゲージから出してみようか?」


「あいっ! ……怖くないよー、いい子だよー……」


 ゲージに手を入れ、下から口元に持っていく。

 教えた通りに、上から手を出さないように。

 まあ、動物の基本だな。


「よし、そのまま置くといい」


「あい……オトメちゃん、ここがおうちの外だお」


「………」


 辺りをキョロキョロしながら、鼻をヒクヒクさせている。


「詩織、もう少し離れよう。警戒してるからな」


 一応コンセント類や齧って困るようなものは仕舞ってある。


「詩織、おいで」


「あい」


 三人でソファーに座り、オトメちゃんを観察する。


 トコトコ……スンスン……ダダダ!


 ゆっくり歩き出し……匂いを嗅ぎ……走り出した!


「わぁ!? 走ったお!?」


「ふえ〜うさぎってこんなに速いんだ……」


「そりゃな、俺がガキの頃も捕まえるの大変だったし」


「「へっ?」」


「……そうか、そうだよな。いや、なんでもない」


 今はうさぎ小屋とかないんだろうなぁ。

 これがジェネレーションギャップってやつか……。





 一頻り部屋んぽさせた後、疲れて横になったところを優しく抱き上げる。


 そして、ゲージの中に戻す。


「かわいい……」


 詩織は、餌をぽりぽりしているオトメを眺めている。

 うむ、かわいいが渋滞しとる。


「ふふ、すっかり夢中だね?」


「そうだな。飼った甲斐があったよ」


「さて……お兄ちゃん、紅茶飲む?」


「おう、悪いな」


「ううん、好きでやるんだもん」


「そ、そうか」


 春香は最近、料理以外にもそういうことを始めた。

 紅茶やコーヒーを作ったり、家の掃除なんかも……。

 最初は断っていたのだが……結局押し切られてしまった。

 だが……正直言って、めちゃくちゃ助かる。

 仕事で疲れている時にコーヒーとか出されると……困る。

 このままでは、一人になった時に弊害が出そうだ。






 雨の音を聞きながら、二人でテーブルにつく。


「そういや、テストはどうだったんだ?」


 バタバタしてて、すっかり忘れていたが……。

 一応、保護者代理として聞いておかないと。


「えっと……総合得点で、クラスで二番目だったよ。舞衣ちゃんに負けちったけどね」


「おお……いや、十分凄いさ。家のことやバイトもしっかりやってるし」


「あ、ありがとぅ……えへへ、頑張って良かったぁ」


「だが、無理はするなよ?」


「うん!」


 ……うーむ、何かご褒美でもあげた方がいいのか?


「何か、したいことやして欲しいことはあるか?」


「ふえっ?」


「まあ、ご褒美ってやつだ」


「わ、悪いよぉ……あっ——な、何でも良いの?」


「いや、言われないとわからん」


「そ、そうだよね……お、お出掛けがしたいです」


「ん? どこが良い?」


「えっと……遊園地とか」


「わかった。じゃあ、次の休みにでもいくとしよう」


「う、うんっ! ……ほっ、これで……」


「うん?」


「な、何でもないから。わたし、少し出掛けてくるね」


 そう言い、玄関から出て行った。


 なんか、最近……こういうのも増えたな。


 何だか、少しさみしい気もする。





 ◇◇◇◇◇




 ……う、上手くできた!


「えっと……まずは、今野さんと加奈子さんに……」


 以前バイトの女子限定で、ライングループを作りました。

 今野さんと加奈子さんが、わたしの相談に乗ってくれています。


『お兄ちゃんを遊園地に誘うことができました』


『おっ! やったね! じゃあ、デート出来るようにセッティングしないと!』


『ふふ、ようやくですね。では、詩織ちゃんのことを考えないとですね』


『でも、置いていくのは可哀想で』


『優しい! うちの子たちにも見習って欲しい!』


『ほんとよね〜。でも、大丈夫よ。みんなで行けば良いんだから』


『良いんですか?』


「モチのロン! 定休日に行けば、みんな空いてるしね。天気予報も、その日は平気そうだし』


『私も、子供連れて行くとするわ』


『というわけで、こっちのことは気にせずに任せなさい!』


『ありがとうございます!』


『じゃあ、亮司さんには私から』


『健二君と、和也さんには私から言っておきますねー』


 そこで、ひとまず解散となる。


「えっと……舞衣ちゃんに知らせないと」


 通話ボタンを押すと……。


『もしもし?』


「舞衣ちゃん? 今平気かな?」


『平気よ。どうしたの?』


『あ、あのね、無事に遊園地に誘うことができたの』


『あら、良かったわね。首尾はどうかしら?』


『えっと、紅茶やコーヒーを入れたら喜んでくれたり……お料理も美味しいって言ってくれるよ』


 ここ最近は、舞衣ちゃんのアドバイスを実行しています。

 何でも、わたしなしでは生きられない身体にしなさいとか……。

 最初聞いた時はエッチなことかと思って驚いたけど……。

 要は、胃袋を掴む……そして、安らぎを与えることらしい。


『ふふ、上々ね。陥落する日も近いかしら? 骨抜きにして、逃げ道を塞ぐのよ』


「こ、怖いよぉ〜」


『何言ってるの? 恋愛とは戦いよ。お兄さんと付き合いたいんでしょ?』


「ふえっ!? う、うん……」


 か、顔が熱いよぉ〜! でも、そういうことなんだよね……。


『まあ、その感じが春香の良いところだしね。作戦はこっちで考えるから』


「あ、ありがとう……」


『じゃあ、詳しい話は学校で』


 通話が終わった後、一人で公園のベンチに座ります。


 何でも、これも作戦の一種?らしいのです。


 お兄ちゃんが、わたしがいなくて寂しがるようにとか……。


「でも……か、帰ろっと」


 結局、すぐに帰ることにします。


 だって、わたしが寂しいもん。




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