46話遊園地デート?

 翌週の土曜日になり、定休日を迎える。


 つまり、遊園地に出掛ける日ということだ。




「詩織、餌や水は入れたな?」


「あいっ!」


「うさぎさんって、どれくらい平気なの?」


「一応調べたら、二日くらいは平気らしい。だから、今日ぐらいは平気だろう。それに、暗くなる前には帰ってくるしな」


「おとめちゃん! いってくるね!」


「良い子にしててねー」


 二人が最後に頭を撫でたら出発である。






 外に出ると……日差しが眩しい。


 梅雨のど真ん中であるが、今日はいい天気のようだ。


「晴れてよかったな。さあ、行くとしよう」


 今日は現地集合なので、そのまま三人で車に乗り込む。


 他の四人は、亮司さんが車を出して送ってくれるそうだ。







 三十分ほどで、遊園地に到着する。


「さて、みんなは……」


「大将〜! こっちこっち!」


「待たせたか?」


「いえいえー、今来たところですよ……恋人みたいですね」


「こ、今野さん!?」


「春香ちゃん、冗談だよー」


「ふふ、相変わらず可愛いわ」


 春香は、随分とこの二人に気に入られたようだ。

 加奈子さんは、穢れがなくていいわとか言ってたな。

 今野さんは、正統派美少女はレアキャラだよ!とかわけわからんこと言ってたな。





「兄貴! チケット買っておきました!」


「ありがとな、和也。悪かったな、お前まで付き合わせて」


「良いっすよ! というか、俺だけ仲間外れは嫌ですよ」


 何故か、いつの間にか従業員全員で行くことになっていた。

 まあ、たまには良いかもしれないが。

 馴れ合い過ぎてもいけないが、ある程度仲良くもないとな。


「こんにちは、詩織ちゃん」


「みぃちゃん!」


 十二歳である加奈子さんの娘さんも来ている。

 何度か会ううちに、詩織も懐いたようだ。


「健二さん、こんにちは」


「ええ、春香さん。頑張ってくださいね」


「は、はぃ……」


 健二君と春香か……あんまり会話してるの見たことないからレアだな。

 男が苦手とか言ってたが……健二君には慣れてきたようだ。

 まあ、歳の割に落ち着いているし……決して、嫉妬とかではない。



「亮司さんまで、ありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらないでください。遊園地なんて子供の時以来ですから。年甲斐もなく、楽しみにしてましたよ。ただ、乗り物にはあまり乗りませんので。皆さんのフォローに回りますね」


 まあ、還暦を過ぎてるからなぁ。

 ジェットコースターとかは乗せられないかも。

 というわけで、総勢9名での遊園地というわけだ。









 ……のはずだったが。


 一体、どうしてこうなった?


 何故か、二人でベンチに座っている。


「お、お兄ちゃん」


「うん?」


「嫌だった……?」


「いや、そんなことはない」


 入るなり、春香がトイレに行きたいというので……。

 何故か、俺が待つことになり……。

 その間に、皆は何処かに行ってしまった。

 ラインを送ったのだが……。

 今日は春香ちゃんのご褒美なんだから、お願いを聞いてあげてと。


「えへへ、ごめんなさい。ここ、懐かしいからお兄ちゃんと二人で歩きたかったの」


「……そうか、そういやここだったな」


 兄貴達が仕事で忙しく、遊びになんかにはいけなかった時……。

 遊園地の特集を見てた春香が泣き出したんだっけ……。


「泣いてるわたしをお兄ちゃんが連れてきてくれたよね?」


「あれはいつだったか……俺が高校一年か。つまりお前は五歳くらいか……よく覚えているな?」


「わ、忘れるわけないもん。それに、今考えたら……お金だって、お兄ちゃんが払ってくれたんでしょ?」


「まあ……な。確か、初のバイト代で払った記憶がある」


「そうだったんだ……お兄ちゃん、色々とありがとう。わたし、お兄ちゃんがいたから寂しくなかったよ」


「そうか……」


 いや、礼を言うのは俺の方かもしれない。

 今考えれば……春香がいなかったら、寂しかったのは俺かもしれん。


「そ、それより……どうかな?」


「うん? ……ああ、似合っているよ」


 トイレから戻ってきたら、俺があげたロングタイプの青のワンピースに着替えていた。

 道理で、何か荷物を持っているかと思っていたが……。


「えへへ、良かったぁ……」


 そう言い、耳に髪をかける。

 その動作に——俺の心臓が跳ねる。

たった二ヶ月くらいで、随分と大人っぽくなってきた。


「そ、そういや、髪も伸びたな?」


「えっ? う、うん……」


 セミロングだったが、今ではロングに近い。


「何か意味があるのか?」


「べ、別に……好きだって聞いたから」


「あん?」


 尻窄みになって、後半が聞こえなかった。


「お、お兄ちゃんは短い方が好きなの?」


「いや、そういうわけでも……似合ってればいいんじゃないか?」


「に、似合ってるかな?」


「まあ……」


 さっきから、俺達はなんの会話をしている?

 これでは……カップルのようではないか。

 いや、俺としてはそんなつもりは全くないんだが……。


「そ、そっかぁ……い、行こう! わたしのご褒美なんでしょ?」


「へいへい、そうですよ。お姫様の言うことを聞きますよ」


「じゃ、じゃあ……手を繋いで欲しいです」


「へっ?」


「む、昔の思い出みたいにしたいから」


「ああ、そういうこと……ほら」


「えへへ……おっきいね」


 俺が手を握ると、蕩けるように微笑んでいる。


 ……とりあえず、今はいいか。


 ひとまず、今日は大人しく言うことを聞くとしよう。





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