47話そして……

 うーむ……よく考えたら、これってどう見られているんだ?


「お兄ちゃん? どうしたの?」


「いや、何でもない。それにしても懐かしいなぁ。ジェットコースターに乗れなくて泣いてたっけ」


 身長制限で乗れなくて、駄々をこねてたよなぁ。


「な、泣いてないもん!」


「いやいや、泣いてたから。それで、大きくなったら連れて行くって約束を……ごめんな、すっかり忘れていた」


 あれ以来連れて行ったことはない。

 俺はよくわからない孤独感に襲われ、一刻も早く家を出ようと準備を始めたからだ。


「お兄ちゃん……ううん、約束守ってくれたよ?」


「なに?」


「だって——今、二人で歩いてるもん」


「なるほど……十年も待たせてしまったがな」


 二人で思い出話をしていると、色々なことを思い出す。

 兄貴達に、きちんと愛されていたこと。

 苦労はかけたが、邪魔者になどされていなかったこと。

 俺が助けるつもりが、精神的に春香に助けられていたこと。

 詩織が生まれたタイミングはたまたまだったのかもしれないこと。

 あの兄貴達が、そんなあからさまなことをするわけがないこと。






「キャ——!!??」


「うぉぉぉ!!??」


 ゴー!という轟音とともに、物凄い風を感じる!

 まあつまり……ジェットコースターですね。



「ぜぇ、ぜぇ……舐めてたぜ」


「楽しかったね!」


「そ、そうか」


 こ、これが年齢差ってやつか。

 俺も十代の頃は、何十回と乗っても平気だったんだが。


「お兄ちゃん、こういうの得意じゃなかった?」


「そうだったはずなんだが……俺も、おっさんだからなぁ」


 自分では若いつもりでも、こういう時に実感する。

 春香とは、十歳も離れていることを。

 やはり……春香には、もっと同年代の男の人のが良いのかもしれない。

 俺みたいな……いやいや! そもそもそういうアレではないし!


「はぁ……」


「わ、わたし、飲み物買ってくるね!」


「お、おい!?」


 しまいには、気を遣わせてしまった。


「はぁ……俺は、一体どうしたら良い? いや、どうしたいんだ?」


 春香の気持ちには、何となく気づいてはいる。

 しかし、それを受け入れるわけにはいかない。

 あいつは義妹であり、兄貴達の大事な娘だ。

 大恩ある家族を崩壊させるわけにはいかない。





「ん? ……遅いな」


 ジュースを買うのに、そんなに時間がかかるか?

 ……様子を見に行くとするか。





「ま、待ってる人がいるので……」


「いないじゃん!」


「そうそう、置いてかれたんだよ」


「そうじゃなくて……」


 気がついた時——俺は駆け出していた。


「おい」


「あっ——」


「何だよ!?」


「邪魔すんなよ!」


「邪魔はお前達だ。こいつは俺の連れだ——失せろ、ガキ共」


「な、なんだよ、そうならそうって言えよ!」


「だから言ったじゃねえか! こんな可愛い子が一人でいるわけがねえって!」


「うるせー!」


「俺は失せろと言ったが?」


「「す、すいませんでしたー!!」」


 まったく、近頃の若者はなってない。

 女の子のナンパの仕方も知らんのか。


「お、お兄ちゃん……」


「ちょっと来い」


「きゃっ!?」




 強引に春香の手を引き、ひと気のない場所に行く。


「えっと……ありがとぅ」


「お前、隙がありすぎじゃないか?」


「ふえっ?」


 なんだ? 俺は、どうしてこんなにもイライラしている?


「あんなのは無視してれば良い。もしくは、俺に連絡すれば良い」


「う、うん……」


「そんなんじゃ、そのうち痛い目にあうぞ? お前、もう高校生なんだからな? そういう目的で寄ってくる奴も増えるぞ?」


「ご、ごめんなさぃ……」


「どうして助けを呼ばない? 俺が来なかったらどうするつもりだった?」


「うぅー……」


 ……ああ! くそ! 泣かせてどうする!?


「その、あれだ……お前は可愛いんだから、もっと自覚をしろ」


「……ふえっ?」


「なに、不思議な顔をしてる?」


「だ、だってぇ……お、お兄ちゃんから見て……か、可愛いの……?」


「おい? 俺は怒っているんだが? なにをニヤニヤしてる?」


「えへへ……」


「はぁ……まあ、可愛いだろうよ」


 最初は、メキメキと大人っぽくなってきた。

 この年頃の二ヶ月の成長は大きい。

 少女から大人の女性へと、これから成長していくからだ。


「そ、そうなんだ……嬉しい」


「だから、まあ、気をつけろ。自分が年頃の男にとって、そういう対象だってことを自覚してくれ」


 成人した俺でさえ、風呂上がりなんかは戸惑うっての。


「は、はぃ……あぅぅ……」


「なあ、今までなかったのか?」


「ふえっ? ……うん、特には。でも、友達には守らなきゃとか言われてたかも」


 なるほど……庇護欲をかきたてられたか。

 おそらく、放って置けないと思われたのだろう。

 はぁ……兄貴のやつ、過保護に育てすぎたな。


「そっか、良い友達も持ったな。あの桜井さんも、良い子だしな」


「うん! いつも男子が来ると追い払っちゃうんだよ!」


 それは……お前を守るためだろうな。


「相変わらず、男子が苦手なのか?」


「う、うん……」


「俺は平気なのか?」


 言った後——すぐに後悔した。


「だっ、だって……お兄ちゃんのこと——好きだもん」


 こう言われることを恐れていたからだ。

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