幕間~うさぎさんを飼う……そして意識する?~




 あれから2週間くらい過ぎ……。


 ゴールデンウィークの忙しさを終え……。


 最後の休日に、俺たちはとある場所に来ていた。


 そう……今現在、ペットショップのうさぎさんコーナーにいる。


「詩織、どの子が良いかな?」


「うー……みんな可愛いお!」


「そうだな。だが、一羽しか飼えないからな? うさぎは例外はあるが、単独行動を好むからな」


「そうなの?」


「どうして!?」


「確か縄張り意識が強く、自分が一番が良いって書いてあったな」


「そっかぁ〜じゃあ、しっかり選ばないとだね」


「うぅー……あっ——」


 何を見つけたのか、詩織が駆け出す。


「詩織、走っちゃ……わぁ」


「なるほどな」


「かわいいお!」


 そこには小ささうさぎがケージに入っていた。

 純血に近いネザーランドドワーフタイプだろう。


「可愛い……でも、高いね」


 確かに他のうさぎとは、一万円以上の差がある。

 ネザーランド系ということと、赤ん坊だからだろう。


「ダメなの……?」


 詩織は不安そうに俺を見上げてくる。

 ……まあ、これくらいは甘やかしていいか。

 あれから一人でお着替えもしてるし、亮司さんも褒めていたし。


「いや、その子がいいのか?」


「あいっ!」


「約束は覚えているか?」


「えっと……きちんと面倒を見る……あと、痛いことしないように……」


「まあ、それさえ守れれば良い。春香、悪いが……」


「うんっ! わたしも面倒見るよ」


「そうか、なら安心だな」


 一緒に暮らすようになってから一ヶ月以上経ったか……。

 料理の腕も上がったり、家のことも安心して任せることができるようになった。

 バイトも週に二回だが、一人でこなせるようになって来たし。


「おじたん?」


「おっと、悪い……じゃあ、その子にしような」


「おじたん! ありがとう!」


 そう言い、抱きついてくる。


「へいへい、大事にするんだぞ?」


「あいっ!」


 さて、新しい家族が増えるな。


 色々と大変だが……この二人の笑顔が見れるなら安いものだ。





 ゲージやご飯などと共にお金を払って、家へと帰宅する。


「さて、早速やるとしよう。この狭い中じゃ可哀想だからな」


 手のひらサイズのうさぎは、お出かけ用のゲージでモヒモヒしている。

 臆病な生き物だし、早いところ落ち着いた場所に変えないと。


「あいっ!」


「どうしたら良い?」


「基本的には俺がやる。二人は指示に従ってくれ」




 その後大きいゲージを設置して……下にシーツを入れ、中にトイレと餌箱を設置する。


「これで、よしと。さあ、この中に入れてあげなさい」


「あ、あい……平気だお、怖くないよ」


 詩織は、小さいゲージから取り出し、両手に乗せる。


「詩織、ゆっくりだ」


「………」


 集中しているのか、俺の声は聞こえていないようだ。

 ただ、慎重に動いている……そして。


「で、できたお!」


「しぃー……うさぎさんは臆病な生き物だ。慣れるまでは、なるべく静かに」


「あ、あい……かわいい」


「可愛いね」


 いや、可愛いのはお前達だけどね?


「まあ、可愛いわな」


 二人はゲージを眺めてうっとりしている。

 うさぎは、大きいゲージの中をあちこち見回して動き回っている。

 多分、自分の住むところを確認しているのだろう。


「ひとまずリビングの端でいいだろう。テレビからも遠いし、なるべく生活空間から遠い方がいいし」


「あと、温度調整が大事なんだよね?」


「ああ、寒さにも暑さにも弱い。大体22~26の間くらいか」


「じゃあ、今は平気だね」


「ねえねえ、ずっと動き回ってるお?」


「多分、初めての場所で緊張しているんだろう。それに、移動のストレスもあるからな。ほら、この布をかけてあげなさい」


「でも、そしたら見れないお?」


「今日は我慢しなさい。うさぎは一日のほとんどを寝ているし、この子は赤ちゃんだ。詩織だって、眠る時に知らない人にじっと見つめられたら嫌だろう?」


「こ、こわいお……」


「この子は今、そういう状態なわけだ。俺たちが安全な存在で、ここが安全な場所だとわかってもらわないと。詩織だって、この家に来た時は不安だったろ?」


「あい」


「じゃあ、どうしたらいいかわかるな?」


 俺がそう言うと、ゲージにそっとカバーをかける。

 これで、俺たちからもうさぎからも見えない状態だ。

 ただし、一箇所だけはすこしだけ開けてある。


「いい子だ」


 優しく頭を撫でてやる。


「きゃはー」


「ふふ、良かったね」


「さて、名前は決めてあるんだったな?」


「女の子だからオトメちゃんなの!」


「そ、そうか」


「これが良いって聞かなくて……」


「まあ、良いんじゃないか。詩織、これからはお姉ちゃんだからな。しっかり面倒を見なさい。おじたんとお姉ちゃんも手伝うから」


「あいっ。オトメちゃん、よろしくね」




 その後昼食を食べ、俺が店の掃除から戻ってくると……。


「にゃ……」


「スー……」


「二人して、テーブルに突っ伏してお昼寝か」


 まあ、昨日は遅くまで起きてたしな。

 どうやら、今日が楽しみだったらしい。


「よっと……軽いな」


 詩織を優しく抱き上げ、部屋の布団に寝かせる。


 リビングに戻った俺は……思案する。


「流石に、春香は抱っこできないな」


 いや、もちろん抱っこするのは容易い。

 しかし、起こしてしまうし……まあ、なんだ、色々と触ってしまうし。


「いやいや、別に触ったところでどうにかなるわけじゃ……」


 俺は誰に言い訳をしている?

 ああ! くそ! 最近は本当におかしい!


「むにゃ……お兄ちゃん……」


「ん? 寝言か?」


「……好き」


「っ——!?」







 気がつくと、俺は自分の部屋の机に突っ伏していた。


「好き……いやいや、寝言だし」


 まあ……正直言って、うっすらとはわかっていた。

 しかし、それは一過性の憧れのようなものだと思っていた。

 いずれ、大人になって消えていくものだと。


「いや、それはいい……問題は」


 ……俺がドキドキしてしまったということだ。


 ……一体、どうすればいい?

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