51話春香視点

 へ、平気かな?


 今頃、店に来てる頃だよね?


 わたしは、部屋の中をウロウロしながら一週間前のことを思い出す。





 和也さんと、加奈子さんと美沙さんの四人でお話をしてました。


「はい! 告白をしましたね!」


「あぅぅ……」


「春香ちゃん、偉かったわね」


「うんうん、これで兄貴も……そう上手くはいかないっすね」


「そこなんですよねー、相変わらずガードが固いです」


「やっぱり、誰かが背中を押してやらないとダメだわ」


「でも、私たちではもう一歩が踏み込めないですよねー。あくまでも、雇い主と雇われの身ですから。別に苦言を呈したとしても、大将は嫌な顔はしないとは思いますけど」


「そうっすね。あんまり強くいうのもアレかもしれない。なんか、兄貴をみんなで責めてるような感じになっちゃいますし」


「わ、わたしは、それなら……そんなつもりは無くて」


「わかってますよー。ただ、このままだと殻に閉じこもってしまいそうですよねー」


「うーん、宗馬君の殻を破ってくれる人で、ここの人と関係がない人……」


「あっ——」


「和也さん? 何か浮かびましたかー?」


「いや、しかし……でもなぁ……そういや、連絡は受けたんだよなぁ」


「煮え切らないですねー?」


「何か心当たりがあるなら教えて欲しいわ」


「えっと……兄貴の元カノさんから連絡がありまして。俺にとっても、高校の先輩なんです」


「えっ? ……お、お兄ちゃんの?」


 な、なんだろ!? よりを戻したいとか!?

 うぅー……だったらどうしよう?


「あっ、まずはよりを戻したいとかじゃないっす」


「では、何ですかー?」


「いや、電話がありまして……結局、店は開いたのかと聞かれ……その際に色々と根掘り葉掘り聞かれまして……あの人には逆らえないっす」


 こ、怖い人なのかな? どんな人なんだろ?

 会ってみたいような、会いたくないような……。


「それで、どうしたんですかー?」


「いや……何か力になれるなら言ってちょうだいと。ものすごい男前な人なんすよ」


「へぇ……じゃあ、発破をかけてもらいましょう」


「あら、良いわね〜。じゃあ、私達で色々聞きたいことを考えましょう」


 そして、あれよこれよのうちに話が進んでいきました。






 ……で、その日を迎えたんだけど。


「うぅー……やっぱり、よりを戻すとか言わないかなぁ?」


 お兄ちゃんカッコいいもん。

 特に腕回りとか……舞衣ちゃんにはマニアックねって言われたけど。

 そんなに変かな? 血管とか、筋肉の筋とか素敵だと思うんだけど。


「もうきたよね? ……行ってみようかな? どっちにしろ、バイトには行くんだし……」


 結局、会うか会わないか迷ったけど……気になるもん。


 意を決して、わたしが階段を下りていくと……。


 店の外で、和也さんと女性がお話をしてました。


「由香里さん、ありがとうございました!」


「いいのよ、和也君。私こそありがとう。ずっと、心の何処かで引っかかってたから。私が別れを切り出さずに、無理矢理にでも付いていけば良かったかなって。ただ、私とあいつじゃ喧嘩別れになってたかもね。でも、和也君がいてくれて良かったわ。店自体は上手くいってるみたいだしね」


「いえいえ、俺なんか……あっ、春香ちゃん」


「えっ? ……貴女がそうなのね」


「えっと、別に盗み聞きをしてたわけじゃないんです!」


「ふふ、わかってるわよ。へぇ、随分と可愛らしい子ね。私とは全然違う」


 その女性は、とっても綺麗な方でした。

 背筋も伸びて、カッコいい大人の女性って感じで。

 お、お兄ちゃんは、こういう人がタイプなのかな?


「あ、あの……」


「平気よ、私もあいつもお互いにそういう興味はないから」


「ほっ……あっ——」


「クスクス……」


「わ、笑われちゃった……」


「ごめんなさいね、つい初々しくて。一応、発破はかけておいたから。あとは、あいつ次第ね」


「あ、ありがとうございました!」


「いいのよ、ずっと気になってたから。まあ、あのまま付き合ってても上手く行かなかっただろうし……これで、私も前に進めるわ」


 ……そっか、別れたけどずっと気にしてたのかも。


「じゃあ、これで。私がいうのも筋違いだけど、あいつのことよろしくね」


 それだけ言うと、颯爽と歩いて行きました。


「春香ちゃん、まだ時間あるから兄貴のところに行ってきな」


「は、はい」


「俺はここでお客さんが来るまで待ってるから。それまで、ゆっくり話すと良いよ」


「あ、ありがとうございます!」


「礼を言うのはこっちの方だよ。兄貴、ここんところ楽しそうだからね」




 わたしが店に入ると……難しい顔をしたお兄ちゃんがいました。


「……ん? ああ、春香か」


「あ、あのね、元カノさんに会ったよ」


「そうか……まったく、全員グルってことか」


「あのね! みんな悪気はなくて……」


「わかってるよ。俺がうじうじしてるからなのは。あんな状態で仕事をしてたんじゃみんな迷惑」


「違うよ!」


「春香?」


「みんな、お兄ちゃんが好きだから! だから……!」


「そうか……うん、そうだな。俺の悪い癖だな」


「お兄ちゃん……」


「そうだな……まだ時間はあるか。少し話でもするか?」


「う、うん」


 わたしは覚悟を決めて、お兄ちゃんの対面に座ります。


 ……何を言われてもいいように。

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