第14話暖かな時間

 その後、詩織が起きたということで、一度部屋から出る。


「おい、何を膨れている?」


「別に!」


「おねえたん? おじたん、どうしたお?」


「さあ? お姉ちゃんは変な子だからな、俺にも良くわからん」


「変じゃないもん! お兄ちゃんのばかぁぁ——!」


 再び、部屋へと戻ってしまう。

 ところで……俺、1日に何回アレを言われれば良いのだろう?


「はれ?」


「気にするな、詩織。さて、何か飲むか?」


「のむっ!」


「じゃあ、麦茶にしとくか」


「あいっ!」


 確か、あんまりジュースを飲ませないようにって書いてあったしな。

 幼いうちは健康にも良くないし、覚えさせないようにって。

 ただ、ご褒美とかにはあげてとも書いてあった……むずくね?



 ひとまず、こたつにて詩織と二人きりという状態になる。

 あれ? これってどうすれば良いんだ?

 多分、生まれてから初めてのことじゃないか?

 いつも誰かしら側にいて、それで対応していた気が……。


「おじたん!」


「うん? どうした?」


「プリキュ○みたいお!」


「ん? 今やってるのか?」


「わかんない!」


「えぇー……」


 出た、子供特有の現象。

 とりあえず言ってみたが、よくわかんないパターン。


「みれないお……?」


 どうする? 春香は怒って部屋に篭っちゃうし。

 いや待て……うちにはアレがあるじゃないか。


「少し待て!」


 テレビをつけて、録画確認する。

 ……あった! この辺りでどうだ!?


「あっ——動物だぁー!」


 よし! 反応は上々! やはり、動物モノは鉄板だな。

 今見せているのは、アニマルプラネッ○という番組だ。

 動物特集を組んでおり、俺は好きでよく見ている。


「これ、見るか?」


「あいっ!」


 ……ふぅ、どうにかなったな。


 やれやれ、子供を育てるって大変なんだろうなぁ。



 その間に、俺は今日の夕飯の支度を始める。


「いやしかし、オープンキッチンタイプで良かったな」


 ここからなら、料理をしながらでも詩織の様子がよく見える。

 何をするかわからないから、あんまり目を離さないでと書いてあったし。


「わぁ……!」


 うん、実に楽しそうに見ている。

 契約しといて良かった。


「さて、今日のメニューはどうする?」


 俺一人なら栄養など気にしないが……そういうわけにもいかん。


「あんまり洋食は良くないよな」


 カロリーや塩分が多いものがほとんどだ。

 それに慣れさせてしまうと、桜さんが苦労してしまう。


「となると、和食か中華か」


 それでもって、たまにの贅沢に洋食という形をとるか。

 もしくはパスタ系やカレーくらいなら、作っても良いかもしれない。


「いや待て……今日はお祝いということで洋食にしよう」


 よくよく考えてみたら、休みの日じゃないと作れないし。

 基本的に、どれも時間がかかるものばかりだ。


「……ビーフシチューにするか」


 そうと決まれば、早速調理開始だ。


 幸い香味野菜やルーは常に冷凍庫にストックがあるし。


 これがあるだけで、調理時間の短縮ができる。





 そして俺が料理を仕込んでいると……。


「お、お兄ちゃん?」


「おっ、出てきたか」


「むぅ……お兄ちゃんがいけないんだもん」


「悪かったよ。ほら、味見するか?」


 煮込んであるビーフシチューを、スプーンですくう。


「わぁ……! 美味しそう!」


 よし、作戦成功だ。

 美味しい物は、人の機嫌すらも良くする。


「ああ、いいぞ」


 俺は春香のスプーンを差し出す。


「えっ?」


「ん? ああ、嫌だったか。自分で食べ」


「お兄ちゃんがやって!」


「お、おう……ほらよ、あーん」


「ア、アーン」


 髪をかきあげ、春香がスプーンを口の中に入れる。

 ……少し色気があると思った俺は、頭のおかしい奴なのだろうか?


「……どうだ?」


「おいひい!」


「そっか、ありがとな」


「えへへ……みたい」


「あん? なんて言った?」


 新なんとかって聞こえたような。


「ううん! なんでもない!」


 まあ、機嫌が良くなったからいいか。

 やはり、美味しいもので笑顔になるのは素敵なことだな。


「どうやって作ったの? 何というか……甘い? もう少し酸味があるイメージだったんだけど」


「うん? ああ、そういうことか。多分、ワインが煮詰まっていなかったんだろう。あとは使ったフォンドボーがそのタイプだったか。あとは野菜の旨味が足りなかったか」


「え、えっと……?」


「すまん、よくわからないよな。肉を弱火でじっくり焼いて、その脂でしっかりと香味野菜の旨味を引き出して、ワインをしっかり煮詰めて、仕上げにルーを入れればこうなる。もっと言えば生クリームを入れるといい。これなら春香や詩織も食えるだろ?」


 大人向けなやつは少し酸味があるからな。

 もしくは、大人でも好みがあるし。


「むぅ……また子供扱い?」


「違うよ、ただの好みの問題だ」


「おじたん! ずるいお!」


 いつのまにか、詩織が足元にいた。


「おっ、見終わったか」


「わたしもっ!」


「はいはい、少しだけな」


 しっかりと冷まして、口元に持っていく。


「はむっ……なにこえ!?」


「どうやら、初体験か。美味いか?」


 もしダメなら他のを作れば良いだけだ。

 冷凍庫にはカレーもストックしてあるし。


「おいちい!」


「そうか、ありがとな。じゃあ、そろそろご飯にしようか」


 時計を見ると六時を過ぎていた。

 詩織が寝る時間を考えると、これからは夕飯も早くしないといけないな。


「「うんっ!」」


 元気で可愛い声が重なる。

 そして同時に、暖かいものが流れ込んでくる。


「よし、じゃあ先にお風呂に入ってしまいなさい」


「詩織、いくわよ」


「あいっ!」



 俺はその間に作り置きのサラダボウルから、サラダを盛り付ける。

 その上にはカリカリに焼いたベーコンを乗せる。

 スープはストックしてあるコーンポタージュを使う。


「よし、これで良いだろう」


 全ての準備を済ませると、二人が丁度風呂場から出てくる。


「ご、ごめんね、お兄ちゃん」


「ん?」


「お手伝いするつもりだったのに」


「気にするな。風呂に入れてくれるだけで助かるさ」


「お腹すいたおっ!」


「だな、まずは食べるとしよう」


 仲良く三人でテーブルを囲む。


「いただきます」


「いただきます」


「いたーきます!」


「……美味しい……えっ? お肉、柔らかい」


「これおいちい! 甘いおっ!」


「そうか、良かった良かった」


「ごめんね、こんな高級なお肉……」


「いやいや、普通の牛肉だよ。国産でもないし」


「えっ? だ、だって」


「きちんと蜂蜜につけて、然るべき調理をすれば、安い肉だっていくらでも美味しくなるんだよ。高い肉が美味しいなんて当たり前のことだしな」


「そ、そうなんだ……」


「ほら、食べようぜ。詩織、サラダも食わないとな?」


「うぅー……あい」


 やはり、二日間定休日にしといて良かったな。


 こうして、しっかり二人とコミニケーションを取ることが出来た。


 さて、明日から仕事だし……どうなることやら。

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