53話夏です、つまり……

 それから幾日か過ぎ……。


 梅雨が明けて——夏がやってきた。






 七月の暑い気温の中、、エアコンの効いた我が家は戦争中である。


「ま、待ってぇぇ——!」


 リビングの中を、うさぎが縦横無尽に走り回っている。

 春香は必死に捕まえようとしているが……全く追いつけていない。


「わぁ! オトメちゃん速いお!」


「おぉ……まさしく脱兎の如くってやつだな」


「お兄ちゃん! 見てないで手伝ってよぉ〜!」


「おっと、悪い悪い……よっと」


 オトメの進行方向に前もって手を出して、軽く捕まえる。


「………」


 抱き上げたが、その顔は『なんで!?』と不満そうである。

 気のせいかもしれないが、段々とわかってきた気がする。


「す、すごい……どうして?」


「追っかけ回すから逃げるんだよ。静かに待って、相手が来るのを待つんだよ。まあ、恋愛と一緒かもな」


「そ、そうなんだ……」


「おじたん! 詩織も!」


「良いか? 優しく抱っこするんだぞ? 少し大きくなったとはいえ、まだまだ子供なんだからな?」


「あいっ!」


 詩織に抱かせてみると……。


「………」


 目を閉じ、うっとりとした表情に見える。


「ふふ、大分懐いたのかな?」


「まあ、そうかも。きちんと世話もしてるしな」


「こういうのを部屋んぽっていうんだよね?」


「ああ、たまに出してあげないとストレスになっちゃうからな」


 この家にも慣れてきたし、身体も大きくなってきたので、最近は部屋んぽをさせている。


「ふぅ……」


「それにしても……相変わらず運動神経良くないのか?」


 なんと言うか、動きが鈍臭い。


「うぅー……はぃ」


「ところで、時間は良いのか? 友達と遊ぶんだろ?」


「あっ——いけない! いっ、行ってくるね!」


 バタバタと準備をして、慌ただしく出て行った。

 ウンウン、友達と遊ぶことも大事だからな。


「あれ? おねえたんは?」


「出かけるってさ。今日は、おじたんと遊ぶか?」


「あいっ!」


「じゃあ、オトメちゃんの小屋掃除をやってみるかね」


 いつもは俺か春香がやっているが、そろそろやらせても良いだろう。


 オトメを抱きつつ、詩織に説明をしながら思う。


 ……どうも、最近の俺はやばい。


 春香に対して……その、あれだ……意識してしまう。


 ふとした横顔や、寝顔なんかを見るときに……。


 春香に待つと言った俺の方が……待てないかもしれん。





 ◇◇◇◇◇◇




 家を出たわたしは、急いで電車に乗ります。


「ふぅ……間に合ったぁ」


 電車に揺られながら、ここ最近のことを考えます。


 最近、お兄ちゃんに見られている気がすること……。


 よくわからないけど、避けられる時があること……。


「舞衣ちゃんに、相談してみようっと」





 舞衣ちゃんのよ最寄りの駅で降りて、待ち合わせの場所に向かうと……。


「あら、きたわね」


「ご、ごめんね! 待ったよね?」


「少しだけだから平気よ。でも、理由を聞こうかしら?」


「その、うさぎと追いかけっこしてたら……」


「あら、良いわね。今度、私も見に行っても良い?」


「えっ? ……うん! お兄ちゃんも連れてきなさいって!」


「じゃあ、そのうちお邪魔させてもらおうかしら。とりあえず、移動しましょう」





 舞衣ちゃんについていくと……ひと気のない通りに、お洒落な喫茶店がありました。


「うわぁ……こういうのって、レトロっていうんだよね?」


「そうね。昔ながらの喫茶店ってやつね。ここ、静かで良いのよ」


 店に入って、一番かどの席に座ります。


「で、首尾はどう? 告白して、 一応オッケー的なものはもらったのよね?」


「う、うん……ただ、未成年だからって」


「まあ、そうよね。でも、良かったじゃない。最近いるような無責任な男じゃなくて」


「そ、それは、そうなんだけど……」


「まあ、わかるわよ。今すぐ付き合ってほしいのよね?」


「う、うん……」


「じゃあ——結婚しかないわね」


「ふえっ? ……えぇ!?」


「はい、静かに」


「で、で、でも……!」


「それしか方法はないわ。幸い、八月十日が誕生日でしょ?」


「そうだけど……」


「なら、それまでに相手をその気にさせれば良いのよ」


「お兄ちゃんをその気に……?」


「ええ。あと、結婚までいかなくても、確か婚約して……双方の親が認めてくれたら付き合っても問題ないはずよ」


「そ、そうなの?」


「ええ、そうよ。私の彼氏も、来年には成人するから色々と調べたから」


「あっ、そうだよね……でも、どうしたら良いんだろ?」


 あんまり攻めても、お兄ちゃん嫌がるかもだし……。

 せっかく、待っててくれるって言ったから、それを壊すのも……。

 でも、今すぐに恋人になりたいし……。


「だから、あっちからいわせるのよ」


「ふえっ?」


「幸い、もう夏だわ。つまり、夏休み……そう、水着ね」


「み、水着……」


「折角、育ってきたんだから使わない手はないわ」


「あぅぅ……」


 た、確かに……最近、ブラのサイズが変わったけど。


「男ってのは単純よ。どんなに紳士だろうが、それからは逃れられないはず」


「そ、そうなのかな?」


「ええ、間違いないわ。というわけで、水着を買いに行きましょう」


 うぅ……お兄ちゃんの前で水着……?

 は、恥ずかしいよぉ……そもそも、プールって苦手だし……。


「でも……が、頑張る!」


「よく言ったわ。じゃあ、行くわよ」


 舞衣ちゃんに連れられて、お店を出ていきます。


 よ、よーし! お兄ちゃんをドキッとさせるんだから!


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