第12話命の大事さ

 その後、再び散歩再開となる。


 アイス休憩を入れたことが良かったのか。


 二人共、疲れた様子はない。


 今は、少し商店街を離れたところを散歩している。


 そんな中、詩織がある場所で立ち止まる。



「うさちゃん?」


「えっ?」


「ん? ……ああ、あれが目に入ったのか」


 うさぎの絵が貼ってある建物が向こうにある。

 確か、小動物専門のペットショップだったはず。


「行きたいのか?」


「いいの!?」


「ああ、行くとするか」


「わぁーい! うさちゃんだぁ〜!」


「お、お兄ちゃん……でも」


「春香、言いたいことはわかってる。だから安心していい」


「へっ? そ、そうなんだ」


 ひとまず二人を連れて、中へと入っていく。


 そのまま、ペットコーナーに向かうと……。


「わぁ……いっぱいいる……可愛い」


「うさちゃんだお!」


 二人は夢中でうさぎを眺めている。

 その姿に、俺の心も暖かくなってくる。

 懐かしい感覚と共に……。

 そういや昔、春香を連れてきたことがあったな。


「それにしても懐かしいな」


「へっ? お兄ちゃん、飼ったことあるの?」


「うん? まあな……お前が生まれる前にだけど」


 確か四歳の時に飼って、三年くらいで死んじゃったんだよなぁ。

 命の大事さと、失うことの悲しみを初めて知った時だ。

 まさか、その一年後に再び経験するとは思ってもなかったが。


「いいなぁ! わたしも飼いたいお!」


 詩織が目を輝かせて、俺の服を引っ張ってくる。


「ほらぁ〜お兄ちゃん! こうなったら大変だよ?」


「わかってるよ。お前だってそうだったし」


 確か、飼いたい飼いたいと泣き叫んでいたような。


「お、覚えてるの!?」


「ああ、もちろんだ。あれは大変だったよ。というか、その他にも色々と大変だったよ」


「うぅー……どうしてそういうことは覚えてるのぉ〜肝心なことは忘れてるのに……」


「おじたん!」


「はいはい、わかってるよ。飼いたいのか?」


「あいっ!」


「いいか? 生き物を飼うってことは責任が伴うんだぞ?」


 膝を曲げて、しっかりと目線を合わせる。


「うぅ?」


「ご飯をあげて世話をしたり、きちんとかまって愛情を注いだり、体調管理をしてあげたり……まあ、色々とあるんだぞ?」


「うぅー……できるもん」


「本当か? おじたん、嘘をつく子は嫌いだぞ?」


「できるおっ! 嘘じゃないもん!」


 その目は真剣そのものだが、子供というのは一過性の可能性もある。


「でも、おじたんはママとパパから甘やかさないように言われてるしなぁー」


「ど、どうしたらいいお……?」


 幼いながらに、必死に考えているようだ。


「そうだな……自分で着替えはできるかな?」


「うぅー……できるお」


「おや、本当かな?」


「すこしだけおねえたんが……」


「おっ、嘘をつかなかったな」


「ほとんど一人で出来るんだけど、すこし甘えてるみたい。この歳の子ならみんな出来てるんだけど……靴下とかが、少し手間取るみたいなの」


「春香、今回は別にいいが……なるべく、みんな出来るは禁止だ」


「へっ?」


「人はそれぞれに成長速度や個性が違う。俺も、そうだったしな。二月生まれの早生まれで、人より成長が遅かったよ」


「そっかぁ……うん、そうだよね、詩織は詩織だもんね」


「そういうことだ。詩織も二月生まれだったな?」


「あいっ!」


「なら、これからお前には一人で着替える特訓をしてもらう。もしそれが続けられたなら、俺が責任を持ってうさぎさんを飼うことを約束しよう」


「おきがえ?」


「ああ、そうだ。ママもいないし、お姉ちゃんも手伝ってくれないぞ。それに、これから年長さんになるんだろ?だったら、お姉ちゃんとして見本にならないとな」


「うぅー……そしたらうさぎさんくる……?」


「ああ、俺が約束しよう。さて、どうする?」


「や……やるお! お着替えするの!」


「そうか、ならやってみると良い。任務開始だ、報酬はうさぎさんを飼うことだな」


「にんむ……! やるっ!」


 やはり、子供はこういうセリフが好きなのか。

 あとは、ちょっと難しいことをやらせるといいと書いてあったな。

 なにせ……ここ一週間は、そんな本ばかりを読んでいた。


「お兄ちゃん、随分と上手だね?」


「いや、まあ……一応預かる身として、最低限の勉強をしたからな」


「えへへ〜ありがとう、お兄ちゃん」


「それに……お前で慣れてるしな」


「へっ?」


「おねえたん?」


「おっ、詩織知ってるか? お姉ちゃんもな、小さい頃に駄々こねて大変だったんだぞー?」


「そうなのっ!?」


「なんで言っちゃうの!? お、お兄ちゃんのばかぁぁ——!!」


「はい? ……ダメなのか?」


「ダメッ! 姉としての威厳があるのっ!」


「そ、そうなのか……そういうものか、すまんな」


「おねえたん、みんな見てるお?」


 周りを見渡してみると……ほかのお客さんにクスクスと笑われている。

 嫌な笑いではなく、微笑ましいといった感じで。


「あぅぅ……恥ずかしぃ」


 すこし目立ちすぎた俺たちは、店員さんに謝り、そそくさと退散することにした。


 帰りにコロッケを買って………春香のご機嫌取りをしたことは言うまでもない。

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