第3話承諾する

 覚悟を決めた俺は、再び兄貴に電話する。


「もしもし、兄貴。いいよ、俺が面倒みるよ」


『おおっ! そうかっ! ありがとな!』


「ただし、条件がある。春香に代わってもらえる?」


『ん? ああ、構わないが……ほら、春香』


『ふえっ? わ、わたし? 』


 どうやら近くにいたようだな。


『宗馬が、お前と話したいってさ』


『う、うん……お、お兄ちゃん?』


「おっ、またお兄ちゃんって呼んでくれるのか?」


『も、もう! むぅ……それだけなの?』


「いや、お前はどう思ってるんだ?」


『えっ?』


「俺と一緒に暮らすことをさ。お前が嫌なら、俺が部屋借りて別々にしても……」


 正直言ってお金に余裕があるわけではないが……。

 このくらいのことなら問題ない……俺がしてもらったことに比べれば。


『おっ』


「おっ?」


『お兄ちゃんのバカァァァ!』


「うおっ!? な、なんだ!?」


『い、一緒に暮らすもん!』


「そ、そうか」


 あれ? なんかおかしいぞ?

 ここ二、三年は、避けられてたのに……。


『も、もぅ……お、お父さんに代わるねっ!』


『ははっ! 叱られたな!』


「若い娘はよくわからん」


『相変わらず、鈍感なやつだ。詩織の方がいじけているが、よろしく頼むな』


 そりゃそうだろう。

 五歳児では、転勤とかは理解しきれないだろうな。


「わかった、今から考えておく」


 寂し思いをさせないように、何か考えておかないと……。


『頼れる長男がいて助かるよ。こういう時は、お前が自営業で良かったよ』


『ふふ、そうね。あなた、代わってくれる?』


『ああ、桜に代わるよ』


『もしもし、宗馬君?』


「どうも、桜さん」


『お母さんって呼んでもいいのよ?』


「か、勘弁してください」


 どうも桜さんと話すのは緊張する。

 お姉さんであり、母親ではない……俺の中の位置付けが難しい人なのだ。

 もちろん、大事な人で恩人ということは間違いない。


『仕方ないわね、娘に任せるとしましょう』


「はい?」


『二人のこと、よろしくお願いね。悪いことしたら、遠慮なく叱ってくれていいから』


「難しいですが……出来る限りやってみます」


『じゃあ、また連絡するわね。多分三月末からお世話になると思うわ』


 今が二月始めだから、二ヶ月後か……片さないといけない。


「ええ、わかりました。荷物はどの程度ですか?』


『今住んでいるところは引き払ってちゃって、荷物や家具もほとんど処分するつもりよ。ちょうど、色々変え時だったこともあるし』


「では、姉妹に一部屋を与えれば良いですかね?」


『ええ、十分だわ。ありがとね、宗馬君』


「い、いえ」


『宗馬、そういうわけだ。よろしくな』


「ああ、わかったよ」


 そこで通話が終わる。


 さて……色々と考えておかないとな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る