第16話みんなそれぞれのお仕事(任務)がある

 朝食を食べ終えたら、もうすぐ仕事の時間だ。


「ご馳走さまでした」


「ご馳走さまでした」


「ごちそーたま!」


「お兄ちゃん、すぐにお仕事?」


 時計を見ると八時になっていた。

 随分と久々にゆっくり食事を取っているな。

 自分1人だと十分程度だが、詩織に合わせているからか。

 これは明日からも、時間に気をつけないといけないな。


「いや、まだ時間には少し余裕がある」


「そうなんだ。じゃあ、ゆっくりしてて。わたしが食器を洗っておくから」


「おっ、良いのか? というか、できるのか?」


「そ、それくらいはできるもん!」


「そっか、悪かったな。いや、助かる。お願いしてもいいか?」


「うんっ!」


「しおりもっ!」


 さて、出たな。

 とりあえずお手伝いしたいっ子が。

 だが、昨夜から作戦は練ってある。


「詩織には任務を与える」


「なぁに?」


「プリキュ○を見るという任務だ」


 昨日寝る前に確認して、しっかりと録画をしておいた。

 CS番組だから、過去作なんかも色々あったし。


「見れるおっ!?」


「おう、おじたんはできる男だからな」


「ありがとっ!」


「じゃあ、一人でいい子で見れるな?」


「あいっ!」


「お兄ちゃん……あれって有料じゃないの?」


「いや、いいさ。元々契約自体はしてたし」


「えへへ、ありがとう」


「あれで喜んでくれるなら安いものだ」


「じゃあ、今のうちにやっちゃうね」


「おう、任せた」


 春香が台所に向かい、食器を洗いにいく。

 ふむ……しかし、なんだか悪い気がするな。

 食器洗い込みで、時間を計算していたし。


「あっ、アレをやってしまうか」




 お風呂場に向かい、確認すると……。


「やっぱり、洗濯物が溜まってるな」


 人がいきなり三人に増えればそうなるわな。

 昨日、今日はそれどころじゃなかったし。


「さて……おわっ!?」


 こ、これは……なんで、俺の家にこんなものが?


「い、いや、落ち着け……春香のか?」


 俺の手には、女性物の下着がある。


「ふむ……いつの間にか、こんなに成長したのか」


 中々感慨深いものがあるな……あの小さかった春香が。

 しかし、これで一安心した。

 これを見たところで、俺の男の部分は反応しない。


「つまりは、ただ単に春香が大人になってきて戸惑ってるだけだな」


 その時、ガチャッという音がする。


「お兄ちゃん? そこにいるの?」


「おう、いるぞ」


「なにして……キャ——!?」


「へっ?」


「お、お兄ちゃんのエッチ——!」


 しまった! 下着を持ったままだ!


「ま、待て! これは誤解だっ!」


「な、な、何が誤解なのっ!?」


「俺はお前の下着なんかに興味はない! 絶対に!!」


「そうなんだ……」


「ほっ、わかってくれたか妹よ。うんうん、俺がガキの下着に興味なんか持つわけが……」


「おっ」


「おっ?」


「お兄ちゃんの——ばかぁぁ——!!」


「な、何故だ?」


「もう! 洗濯物もわたしがやるからいいのっ! お兄ちゃんは仕事まで詩織のところに行ってて!」


「お、おう」


「これからは洗濯物と洗い物は、わたしの任務にしますっ!」


「は、はいっ!」


 あまりの迫力に、つい返事をしてしまった。


 俺は追い出されるよに、詩織の元に行くのだった。




 詩織は良い子にテレビを見ている。

 どうやら夢中になっていて、騒ぎには全く気づいていないようだ。


「意外と大物になるかもしれないな」


 そんなことを考えつつ、コーヒーを飲んでゆっくりと過ごす。

 いやはや、春香には感謝しないとな。

 お詫びも兼ねて、何かしたいことでも聞いてみるか。



 そのまま十五分ほどのんびりしていると……。


「お、お兄ちゃん」


「おっ、春香」


「お、終わったよ」


「ありがとな……ところで、目が合わないのは何故だ?」


「うぅー……」


「おじたん? おねえたん?」


「おっ、こっちも見終わったようだな」


「続きも見るおっ! おじたんもいっしょ!」


「すまんな、おじたんは仕事があるからな」


「見れないお……? おじたんもお仕事……グスッ」


 しまった! 兄貴たちのことを思い出させてしまった!


「詩織、お姉ちゃんが一緒に見てあげるから」


「おじたんもっ!」


「わがまま言わないの。お兄ちゃんは……そう! 任務があるのよ!」


「へっ?」


「あう?」


「プリキュ○は世界の平和を守ってるわね?」


「あいっ!」


「お、お兄ちゃんはね! お腹を空かしている人達を助ける任務があるのよっ!」


「にんむっ!」


 泣きそうだったのに、目がキラキラしてきた。

 なるほど! そういうことかっ!


「そ、そうなんだよっ! おじたんは人々を空腹から救わないと!」


 なにも間違ってはいない……はず?


「お兄ちゃんの料理美味しかったよね?」


「あいっ! すっごく!」


「それを自分の身を削って、他の人達にも分け与えてあげるのが、お兄ちゃんの任務なのよ」


「わぁ……! おじたんすごいっ!」


「はは! そうだろ!」


 いや、俺アンパンマ○じゃないし。

 別に削ってもいないし、分け与えてもいないし。

 めっちゃお金頂いてるし。


「だから、お兄ちゃんは出掛けないといけないの」


「おじたん! にんむがんばるおっ!」


「おう! 行ってくるぜ!」


 せっかく機嫌が良くなったので、そのまま家玄関に向かう。


「お兄ちゃん、いってらっしゃい」


「おう、フォローありがとな。内容はよくわからんけど」


「自分でもどうかと思う……でも、これでいなくても平気かも」


「そうだな、毎日言われたんじゃ困るしな。じゃあ、お昼は適当に食べてくれ。昨日も言ったが、冷凍庫に色々入ってるから」


 俺は靴を履いて、玄関を出て行く。


 よし! お仕事(任務)開始だっ!


 ……いや、まあ、下の階に行くだけなんですけどね。


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